26 December 2011

オデコ事件再論―東京高判昭和59・3・14行集35・3・231

姫路ロー・ジャーナル5号所収の佐藤直人論文は,オデコ事件の対象とした事業年度(1971年から1973年)ののち,1996年に海洋法条約を批准し「排他的経済水域及び大陸棚に関する法律」を制定してから,オデコ事件をとりまく日本の法状態が変わったことを明らかにする。いまや,「国際慣習法に根拠を求めることなく,わが国が批准した条約と制定法を根拠として,大陸棚と新たに設けられた排他的経済水域において,天然資源の探査・開発を含む一定の事項について,法人税法その他の租税法令を適用できることになった」というのである。

天然資源探査のためのリグは,いまはこんな形をしているようだ。

22 December 2011

最判平成23・1・14民集65巻1号1頁(破産管財人の源泉徴収義務―弁護士報酬と退職手当等)

弁護士である破産管財人は,その報酬につき源泉徴収義務を負い,その報酬に係る源泉所得税の債権は財団債権にあたる。これに対し,退職手当等につき,源泉徴収義務を負わない。

この結論を導くにあたり,最高裁は,受給者と「特に密接な関係」にある支払者に源泉徴収義務を課したという理解を示している。一方で,破産管財人が自ら行った管財業務の対価として自らその支払をしてこれを受ける場合,「支払をする者」にあたる。他方で,破産管財人は,破産者が雇用していた労働者と間で「特に密接な関係」がないし,破産者から源泉徴収をすべき者としての地位を承継する法令上の根拠がないから,「支払をする者」にあたらない,というロジックである。

管財人が源泉徴収を負わないとなると,問題は,破産者本人が源泉徴収義務を負うかである。立法論として,管財人に源泉徴収義務を負わせる方向の改正には,スポンサーが存在するのだろうか。

05 December 2011

東京高判平成21・4・15(柔道整復師事件)

柔道整復師は「医業又は歯科医業を営む個人」にあたらないとして,社会保険診療報酬の概算経費控除を認めなかった。柔道整復師がどういう仕事であるかは,このリンク

問題とされた租税特別措置法26条は,その原型が昭和29年に設けられた。昭和39年12月税制調査会答申では不公平税制の例として廃止が提案された。朝日新聞昭和49年12月28日の論壇に,金子宏教授が「税理論にあわぬ無条件控除―医師優遇税制改正見送るな」という一文をよせている。

05 November 2011

多国籍税務執行共助条約に署名

財務省の報道は以下。

11月3日(木)【日本時間11月4日(金)】、フランスのカンヌ(G20サミット)において、我が国は、「租税に関する相互行政支援に関する条約」(略 称「税務行政執行共助条約」)及び「租税に関する相互行政支援に関する条約を改正する議定書」(以下、「改正議定書」といいます。)に署名しました。

これがリンク

27 October 2011

米国下院歳入委員会で共和党Camp提案

法人税率を25%に引き下げ,外国収益の95%を非課税とするテリトリアル方式の採用を提案。3頁のまとめが,これ

移行措置として,改正時に存在する外国収益に対して5.25%の移行税を課すという点は,Daniel Shaviroの提案(64 Tax Law Review 377 (2011))に近い。

Bloombergの記事によると,民主党からの反対が予想されるという。

21 October 2011

東京地判平成22・10・13訟務月報57・2・549(VATの役務提供地,IndyCar Racingの事件,確定)

IndyCarは,クルマ好きの人なら知っている。日本の業者が,レーシング参戦のためのチームの企画運営や,広告宣伝などを行い,対価を受け取ったところ,その役務提供地が争われた。判決は,「役務の提供に係る事務所等」が日本国内にあるとして,消費税の課税対象となるとした。なお,取引の相手方は日本の事業者であるようであり,課税仕入れとして仕入税額控除を利用できるだろう。

14 October 2011

The EconomistのTax havensに関する記事

スイスが英国と2011年10月6日に合意し,2013年から,英国居住者のスイス銀行口座について最高34%で源泉徴収することにした。これに関する記事がこれ

13 October 2011

OECDのモデル租税条約5条(PEの定義)

ここからダウンロードできる文書で,25の具体的論点について検討している。

14 September 2011

09 September 2011

米国上院財政委員会で国際課税の公聴会

2011年9月8日の公聴会の様子をここで見ることができる。

03 September 2011

最判平成22・4・13民集64・3・791(再論)

公共支出と租税優遇措置の統合的観察という視点からいったん離れ,判旨の一般論とあてはめ部分との関係を読み解いてみると,次のようになっている。

A(一般論)「具体的に建築物を建築する意思を欠き」
→ (あてはめ)「被上告人らに具体的に建築物を建築する意思がなかった」

B(一般論)「単に本件特例の適用を受けられるようにするため形式的に都計法55条1項の本文の規定による不許可の決定を受けることを企図して建築許可の申請をしたにすぎない場合」
→(あてはめ)「被上告人らは,当初から参加人[名古屋市]に本件各土地を買い取ってもらうことを意図していたものの,本件特例の適用を受けられるようにするため,形式的に建築許可申請等の手続をとったものにすぎない」

C(一般論の直前で措置法33条1項3号の3の趣旨について述べている部分)「土地の所有者が意図していた具体的な建築物の建築が事業予定地内であるがために許可されないことによりその土地の利用に著しい支障を来すこととなる場合に,いわばその代償としてなされる当該土地の買取りについては,強制的な収用等の場合と同様に,これに伴い生じた譲渡所得につき課税の特例を認めるのが相当であると考えられたことによるもの」
→(あてはめ)「被上告人らには,その意図していた具体的な建築物の建築が許可されないことにより当該土地の利用に著しい支障を来すこととなるという実態も存しない」

このように,判旨は,あてはめのところでABCを併記し,そこから,「したがって,本件対価について本件特例の適用はない」という結論を導き出している。ABだけで結論が出せたはずなのに,Cもあわせているのは,なぜなのか。Cにいう「実態」がなかった事案に,射程が限られると読むべきであろうか。

26 August 2011

パタゴニア

なんと過酷な――しかし美しい――レースの風景であることか。

2005年に旅したひとのサイトからも。

01 August 2011

Amazing Grace

William Wilberforce (1759–1833)は英国の政治家,奴隷制廃止に尽力。そのCambridge大学の同級生が,ナポレオン戦争の戦費調達のために所得税を導入した William Pitt(小ピット)である。映画Amazing Graceで出てくる歌は,これ。本田美奈子のversionはこれ。たくさんの伝記がある。

16 July 2011

東京地判平成22・3・5裁判所ホームページ(タイの関連会社が日本親会社に株式有利発行)

訴訟段階における国側の理由の追加を認めなかった事例。杉原コートは,「青色申告の場合における更正処分の取消訴訟においては,原則として,更正通知書に付記されていない理由を主張することは許されない」としたうえで,「例外的に,更正理由書の付記理由と訴訟において被告が主張する理由との間に,基本的な課税要件事実の同一性があり,原告の手続的権利に格別の支障がないと認められる場合には,理由の差し替えを許容することができる」と述べる。本件では,更正通知書ではP2社株とP3社株について有利発行による受贈益がある旨を記載したにすぎず,P4社株の取得にかかる受贈益については記載がない。判決は,この場合に理由の差し替えを認めると,「P4社株の取得にかかる利益という課税要件事実について,不服申立段階において争う機会を失わせる」から,差し替えは許容できないとした。

親会社が引き受けた株式の時価と,払込価額(1株あたり額面の1000バーツ)との差額は,「無償による資産の譲受け」にあたるとしている。

03 July 2011

Repatriation tax holiday in the US, Bloomberg article on Cisco Systems

この記事が,2004年からみて2度目となる,米国版資金環流税制の導入論について,背景を述べる。記者は,GoogleのDouble Irish Dutch Sandwichスキームについて書いたひと。別の反対論として,これがある。

19 June 2011

大阪高判平成22・5・20(相続税で更正の請求を認めなかった例)

夫の死亡により第一次相続→妻の死亡により第二次相続→夫の兄弟グループと妻の甥(姪?)グループの間の相続争いにかかる別件京都訴訟の判決確定→甥グループによる別件大阪訴訟の提起→期限後申告→更正処分→別件大阪訴訟で和解→審査請求の取り下げ→更正の請求,という経緯。

大阪高裁は,一般論として,「相続税法55条,32条1号にいう『当該財産の分割』とは,民法906条の遺産分割を指す」と解した。そして,この一般論を本件にあてはめ,本件大阪訴訟和解は,夫および妻の「各遺産をめぐる一連の法的紛争を最終的に解決することを目的として」,兄弟グループと甥グループとの間の「権利義務関係を個別化しないでその一切を,将来に向かって不可分的かつ全体的に変更し確定させたものであった」とみて,この和解は民法906条にいう遺産分割にあたらず,したがって相続税法55条,32条1号の「当該財産の分割」にあたらない,として,更正の請求を認めなかった。

この判決は,すでに分割確定済みの権利義務関係を大阪訴訟和解で全体的に変更したというが,そうだとすれば,甥グループから兄弟グループに支払った解決金4000万円について贈与の問題が生ずるのではないか。逆に,判決の見方と異なり,大阪訴訟和解によっても遺産は未分割のままだったとすれば,これから新しく権利義務関係を個別化して相続人間で分割すれば,そこから起算して4月,更正の請求ができることになる。

14 June 2011

最判平成22・7・6判例時報2091・44(自動車税の減免要件にあたらないとされた事例)

2001年1月,Xは,乙山塾情報宣伝局長の肩書を有するAの自宅に呼ばれた上,X名義で自動車ローンを組んで自動車を購入しこれをAに貸与するよう要求されるとともに,Aから「俺は足がない。どうしてくれるんだ。次はないぞ。」と脅迫されたため,やむなくこれを承諾し,同年2月,Aの指示どおり,その指定した自動車について信販会社との間で自動車ローン契約を締結し,購入した自動車をそのままAに引き渡した。2003年1月,XはAを相手に自動車の引渡を求める訴えを提起し,同年8月に請求が認容されて確定した。だが,Aの住所地が空き家となっていたため,同年10月に執行不能により動産執行は終了した。

2007年1月,Xは,県税事務所長に対し,2005年度と2006年度の自動車税(各3万7500円)の減免を申請した。適用が争われた愛知県税条例72条は,「天災その他特別の事情」により被害を受けた者のうち,必要があると認められるものに対し,自動車税を減免することができると規定している。

最高裁は,この規定の解釈として,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事情のみを指す」と解し,本件のXはAに対し自動車を貸与することを承諾していたから,これに該当しないと判断し,減免を認めなかった。

上の解釈を導き出すロジックは,徴収の猶予について定める地方税法15条1項1号の規定とのバランスによっている。猶予の要件ですら意思によらないことが客観的に明らかな事由を挙げているのであるから,ましてや,自動車税の減免について定める地方税法162条そして本件条例72条については「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らか」であることが必要だ,というのである。

これは,体系的解釈の手法を用いたものである。だが,よく見ると,鉄壁ではない。地方税法15条1項には,5号のように範囲を広げる余地のある規定も入っている。また,地方税法162条は地方自治の観点から条例にこまかな要件設定を委ねた,という読み方も不可能ではない。こうして,「納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな事情のみを指す」という解釈論を支える論証過程には,疑問の余地がある。しかも,この解釈のように意思をメルクマールにすると,横領,詐欺や錯誤など,限界事例についてかなり恣意的な線引きを強いられることになってしまう。

もっとも,事案の解決という観点からは,最高裁の結論を支える要素が事実関係の中にあるかもしれない。原審の確定した事実の中に,いろいろと不可解な点があるからである。2003年に執行不能となってから,2007年に減免を申請するまでの間,Xは何をしていただろうのか。もっとはやく,自分が自動車の所有者でないことを確定するための何らかの手続をとれなかったものだろうか。

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(以下は2011年11月5日追加)
上の点については,「ナンバープレートを返してもらえなければ廃車にできない」旨の教示を得た。それ自体が変な扱いだし,「私の名義で登録ファイルに登録してありますが実は所有者ではありません」として争えなかったのか。XがAに威迫されつづけており,そのような自助努力を期待しえなかった,といった事情があったのだろうか。いちばん知りたい点が,認定されていない。

なお,判旨は「担税力」をいう用語を2回使っている。ひとつは地方税法162条(減免)の趣旨として,いまひとつは地方税法15条(徴収の猶予)の趣旨として。これは,「所得が担税力の標識だ」というような通例の租税政策論上の用法とは異なる。最高裁は,租税徴収との関係でその人に資力がない,ということをいいたかったのだろう。

07 June 2011

大阪高判平成21・4・22裁判所ホームページ(弁護士会法律相談センターの日当が給与所得でなく事業所得とされた事例)

京都地裁,大阪高裁ともに,給与所得とする納税者の主張を退け,事業所得としている。高裁は,地裁の判示部分を引用しつつ,控訴審としての判断を付加している。その結果,引用部分と付加部分が整合しないとまではいわないまでも,かなりニュアンスの異なる論理が混在してしまった。

高裁の付加部分は,弁護士の法律相談業務の対価は事業所得だ→だから本件のような無料相談業務の日当も特段の事情がなければ事業所得だ,としている。この論理は,無料相談業務が弁護士業に付随する当然のプロボノ活動だと考えれば,自然である。本件の納税者は,事業所得が3000万円を超えており,問題とされた日当が15万円だった。

この論理を採用すると,給与所得を得る勤務弁護士(アソシエート)が同じように無料相談業務の日当を受けとった場合,「事業に付随するから事業所得である」とはいいにくくなる。勤務弁護士については給与所得と処理してはどうか。やや便宜的かもしれないが。

なお,この事件では争われなかったが,雑所得にあたる可能性はないか。

25 May 2011

米国下院歳入委員会でterritorial systemをめぐる公聴会

米国下院歳入委員会でterritorial systemをめぐる公聴会が開かれた。JCTによるbackground documentはこれ。当日のwritten testimonyはここから見ることができ,日本法についてGary Thomas弁護士がtestimonyを行っている。なお,別の資料だが,repatriation holiday改正案の歳入見積もりについては,これがある。

以下引用*********
Camp Announces Hearing on How Other Countries Have Used Tax Reform to Help Their Companies Compete in the Global Market and Create Jobs

1100 Longworth at 2:00 PM
May 24, 2011
Focus Of The Hearing:
The hearing will examine international tax rules in various countries with an eye toward identifying best practices that might be applied to international tax reform in the United States. The hearing will explore policy choices that maximize competitiveness and job creation while also appropriately protecting the U.S. tax base.

21 May 2011

最判平成22・6・3民集64巻4号1010頁(城北冷蔵株式会社事件,国賠請求の可否)

名古屋市が,X社の有する固定資産が冷凍倉庫であるのに,一般用倉庫として過大に評価していた。平成14年度から17年度については減額更正して還付したが,昭和62年度から平成13年度までについては還付しなかった。そこで,固定資産税の過納金と弁護士費用相当額の損害賠償を求めた事案。最高裁は,職務上の法的義務に違背して価格を過大に決定したときは,審査申出・取消訴訟を経るまでもなく,国賠請求を行い得ると判示した。法的義務に違背しているか,損害額はいくらかなどを審理させるため,事件を原審に差し戻している。

理由付けの中で,固定資産評価委員会に対する審査申出に争訟ルートを限定しているのは,登録された価格自体の修正に関するものであって,職務上の法的義務に違背してされた場合の国賠請求を否定する根拠にならないとしている。しかし,両者の間で損害の範囲に重なる部分があることは確かであり,納税者としては,価格を修正したのと同様の結果を得る可能性がでてきた。職務上の法的義務に違背しることを主張立証できれば,昭和62年度から平成13年度までについても,争えるのである。

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(2012.05.20追加)
上告受理申立理由書によると,多くの市町村では,「過徴収金返還要綱」なる要綱が制定され,5年の時効期間を超える分について過徴収金が返還されているという。では,このやり方で返還した市町村に対して,別途,国家賠償請求訴訟が提起された場合,どうなるのだろうか。本最高裁判決は,国賠請求を行い得るとして訴えの入り口こそ開けているが,法的義務の違背に関する具体的な基準や,損害額認定のやり方については,語っていない。すでに過徴収金が返還済の場合には,国賠訴訟における損害の認定の上で調整がなされるとみるのが穏当であろう。

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(2013.02.02追加)
渕圭吾「本件評釈」法学協会雑誌130・1・267は,行政争訟による救済が予定されている事項に関して不法行為に基づく損害賠償請求が予定されているのは,国家賠償法に対して一般法の関係に立つ民法において請求権競合説が採られているからである,と論ずる。

15 May 2011

Kazuo Ishiguro, Never Let Me Go

からよむのがいいか,映画からみるのがいいか,それが問題だ。でも,本→映画とすすんだら,もういちど本を読みたくなる。

Kathy:  We all complete. Maybe none of us really understand what we've lived through, or feel we've had enough time.


Ruth役のKeila Knightleyのインタビューは,これ。Judy Bridgewaterのうたは,これ

07 May 2011

ポンディシェリのまちづくり

ポンディシェリは南インド東海岸の元フランス植民地。地図はこれ。2006年のシンポジウムがこれ。新しく載ったエッセイとインタビューがこれ。Tsunamikaのサイトはこれ

27 April 2011

SGI, Case C-311/03 (EC Court of Justice, 21 January 2010)

SGIはベルギー拠点の多国籍企業。ベルギーが移転価格課税をしたところ,これがEU条約の「開業の自由(freedom of establishment)」を定める規定などに違反するかどうかが問題とされた。

ECJは,国際取引のみを適用範囲とする移転価格税制が開業の自由に対する制限(restriction)にあたるとしたうえで,これを凌駕する公益上の正当化事由(overriding reasons in the public interest)があると判示した。課税権のバランスのとれた配分と,租税回避への対処,をあわせてみると,ベルギーの当該立法が比例原則に違反するほどのものではないとしたのである。

移転価格税制の適用範囲を国際取引にとどめるか,国内取引に及ぼすか。原則としてベルギー政府が決めてよいということだ。ただし,すでにスペインのように,適用範囲を国内取引に及ぼす税制改正をした国もある。

22 April 2011

最判平成22・2・16民集64・2・349(軽油引取税における「製造」)

不正軽油で,軽油引取税の脱税や,硫酸ピッチの不法投棄などが起こる。まさにそういう事案。仕入れた重油と灯油を石油精製工場に持ち込み,工場を設置する会社に委託してこれらを軽油にし,販売先に譲渡する取引を行っていた業者が,「軽油の製造」を行った可能性があるとして,最高裁は事件を破棄,原審に差し戻した。

原審が所有権の原始取得の有無を判断基準にしていたのに対し,最高裁は諸要素の総合的勘案により実質的に果たしていた役割をみよと判示。軽油引取税は道府県税だから,県ごとに総合判断の結果が分かれると,同一の取引に対して複数の県が課税する可能性がある。課税の競合である。地方税法144条の40は,道府県は相互に協力しなければならないと定めるが,これは,解釈適用の足並みをそろえるところまでいくのだろうか。

もっとも,県が摘発できなかったからこそ,不正軽油が社会問題になった(「執行の不足」)。とすれば,制度設計の上でより大きな問題は,課税の空白かもしれない。

20 April 2011

A man for all seasons

1966年の映画に出てくるKing Henryのふるまい,これが専制君主というものか。あらすじはこれ

17 April 2011

最判平成22・4・13民集64・3・791(名古屋市の土地買取と譲渡所得の5000万円特別控除)

都市計画法上の強制的買取という形をとることで,5000万円の特別控除を利用して申告した事案。最高裁は高裁判決をくつがえし,特別控除を認めなかった。その理由は,土地所有者が具体的に建築物を建築する意思を欠き,都道府県知事等による当該土地の買取りが外形的に都市計画法56条1項の規定による買取りの形式を採ってされたにすぎない場合には,租特法33条1項3号の3所定の「都市計画法第56条第1項の規定に基づいて買い取られ,対価を取得する場合」に当たらないというもの。

この事案は,いくつかの興味深い問題を含んでいる。巨視的な視点からみると,土地買収にかかる公共支出と,譲渡所得税における租税優遇措置を,統合的に観察すべき事案かもしれない。用地買収の資金が足りない場合に,土地所有者に譲渡所得税がかからないルートを選ぶことで,その分,名古屋市としては買収資金を低めにおさえることが可能になる。租税上の利益(tax benefit)が,土地所有者から名古屋市に移転していることになる。最高裁はそのような移転自体をいけないといったのではなく,するつもりもない建築許可申請を出させて,「うそ」をいわせて租税優遇措置を利用することを否定したのではないか。

09 April 2011

文書回答平成23・2・10(事業用預金のペイオフ損失)

預金保険機構の照会に対し,国税庁課税部長が回答したもの。個人事業主の所得計算に影響を及ぼす事業の遂行上生じた非付保預金(いわゆる事業用預金)と,その未払利息について,手続の段階に応じ,貸倒引当金と資産損失として必要経費算入を認めた。

これに対し,個人事業者の事業用預金以外の預金についてのペイオフ損失は,資産損失や雑損控除にあたらない。所得税法上の家事領域と事業領域の区別が,ここにもあらわれている。

08 April 2011

最判平成20・10・24民集63・9・2424(ミュンヘン再保険会社事件,都民税還付加算金の起算日)

事実経過としては・・・
1)日本国内にPEがあるとされ国税サイドで法人税の決定処分
→2)納税者が都民税について納付し申告
→3)日独租税条約の相互協議の結果PEありとされPEに帰属する所得について再計算
→4)国税サイドで法人税の減額更正
→5)東京都が都民税の減額更正
という流れ。

争点は,それに伴う還付加算金の起算日の基準が,2)なのか(納税者の主張,第1審判決),5)なのか(東京都の主張,控訴審判決)。どちらにするかで,5億円もちがってくる。

最高裁は,地方税法の規定を趣旨に照らして読み込み,納税者の主張を認めた。その後,平成22年度税制改正は判決を追認し,2)を起算日の基準とした(地方税法17条の4第1項1号)。

今後は,相互協議の申し立て時に地方法人税を納付しておく,という実務になるか。

02 April 2011

最判平成22・7・16判例時報2097号28頁(医療法人の出資の評価)

ある医療法人につき,基本財産が24億円あり,運用財産が17億円の債務超過のため,法人の財産全体でみた評価は7億円であった。この医療法人の定款により,出資社員(納税者)は,退社時の払戻しも解散時の財産分配も運用財産のみからなされることとされていた。この場合において,最高裁は,法人の財産全体を基礎として類似業種比準方式により評価することは合理性がある,と結論した。

  • 基本財産 +24
  • 運用財産 -17
  • 全体財産  +7

最高裁の理由付けのポイントは,定款を変更することにより,医療法人の財産全体につき(つまり基本財産も含めたところで)払戻しなどを求め得る「潜在的可能性」を有する,というものである。つまり,たまたま運用財産にだけ出資にかかる権利を有するように定めてあるけれど,出資社員は,あとで定款を変更すれば法人財産の全体を丸取りできる,というロジックである。

本件判決は,持分の定めのある医療法人に限った判断と考えたい。だがこのロジックの射程は,潜在的可能性としては,種類株の評価にも及びかねない。平川雄士・ジュリスト1413号58頁が示唆するように,もうすこしきめこまかに展開する必要が高い。判旨のテクストからは,次の点が手がかりになろう。

  • 最高裁は,評価通達の類似業種比準方式で評価することのできる「特別の事情」があれば,異なる評価をする余地を認めている。
  • 医療法人については,定款の定めのいかんによって「当該法人の有する財産全体の評価に評価が生じない」と述べており,定款の定めのいかんによってはこの場合に該当しない。

なお,定款で持分を変更すること自体,出資社員間に権利関係の変動を生じさせることがある。そのような変動に伴う経済的価値の移転や含み損益の実現をどう考えるか。本件の争点からは離れるが,そういった問題もありそうだ。

01 April 2011

日本語の未来を載せたクルマ


「をちこち」へのリンク
2011.4. 1New

日本語の未来を載せたクルマ -新しい日本語能力試験(JLPT)

「うわああぁ、と、となりの動物園で、が、楽団がっ」(絶句)

26 March 2011

災害に関する主な税務上の取扱いについて


2011年3月24日付けで、東北地方太平洋沖地震関連の国税庁からのお知らせが出ました。

24 March 2011

米国のtax scholarshipはuselessか

2011年3月7日号のTax NotesにのったViewpointsに対して,3月14日号で,Duke Law SchoolのZelenak教授が反論した。その骨子をあらっぽくいうと・・・
  • 実務にとって有益な租税法の論文は消滅していない
  • 有益であるか否かの判断基準はより広くとらえるべきであり,たとえばtax policyについて研究論文を書くことも有益だ
  • 一見無益な理論的検討に熱中する研究者を責めないでほしい
といったようなことになる。1992年にJudge Edwardsが投げかけた批判の焼き直しだというコメントを含め,原文はこれをみよ。

04 March 2011

東京地判平成22・2・12(遠洋マグロ漁船員の住所)

インドネシア国籍の漁船員の住所が日本国内にないと判断した事例。

判決は,住所の意義について「社会通念に照らし,その場所が生活の本拠たる実体を具備しているか否か」で判断するとしたうえで,「船舶内は,その者にとってあくまで勤務場所にすぎないのであって,その乗船員がその地に定住する者としてその社会生活上の諸問題を処理する拠点としての生活の本拠は,その乗船員が生計を一にする配偶者や親族の居住地,あるいはその乗組員が,船舶で勤務している期間以外に通常滞在して生活する場所である」と述べた。この判示で,住所が日本国内にないという結論を導き出せそうである。

ただし,判決はさらに,「動産であり移動する船舶それ自体は『国内』であるということはできない」と判示する。この点,日本の国旗を掲げる船であれば,日本の法律の施行地であるというべきではないか。

この訴訟で争われていない問題は,日本とインドネシアの間の租税条約の適用関係である。本件の漁船員の勤務は,「他方の締約国(日本国)内において行われる場合」(15条1)にあたるのであろうか。

01 March 2011

AGAINST INTELLECTUAL MONOPOLY(2008)

Michele Boldrin and David K. Levins, AGAINST INTELLECTUAL MONOPOLY (2008)は,知的財産の擁護論を全否定。山形さんらの日本語訳がある。

26 February 2011

フランス革命前夜の財政

熱血のパンフレットが,その後読み継がれる古典となった。タイユ税の実態など,いわゆる近代税制ができてくる前の問題点が活き活きと読み取れる。

第三身分とは何か
シィエス
稻本 洋之助,伊藤 洋一,川出 良枝,松本 英実 訳

19 February 2011

最判平成22・10・15民集64・7・1764(所得税還付請求権の相続財産性,上野事件)

Aが生前に所得税更正処分について訴訟を提起していたところ,Aが死亡し,Xが訴訟を承継した。その後,処分の取消判決が確定し,所得税の過納金がXに還付された。Xは,これは相続財産を構成せず,Xの一時所得になるとして申告した。これに対し,税務署長は,相続財産にあたるとして,相続税の更正処分をした。

最高裁は,相続財産にあたると判断した。そうなると,同じ事案が将来に生じた場合,係争中の訴訟にかかる還付金を,いくらで評価すべきかが問題になる。この点,財産評価通達210は,「係争中の権利の価額は,課税時期の現況により係争関係の真相を調査し,訴訟進行の状況をも参酌して原告と被告との主張を公平に判断して適正に評価する」としている。筋のとおった取扱いではあるが,相続税の申告のアドバイスをする場合,判断に苦しむことが多いのではないか。割り切ってたとえば係争価額の5割評価を認めておき,裁判の確定後に調整する,といった解決ができればよいのだが。

[以下,2011年5月17日追記]
*係争関係の真相調査により適正に評価した金額が10で,10が相続財産のとして申告是認されたとする。そのあとで,訴訟が終結し,50の還付金が戻ってきたとしよう。差額の40だけ,さらに相続税が増額更正されることになるのだろうか。40があらためて相続人の一時所得か雑所得になるという解釈論は,判決のロジックとはあまりしっくりこないようだが,保険年金二重課税事件判決との関係も問題。
*宝くじを相続したあとで,1億円があたったら,その1億円は相続財産にならないだろう。これに対し,賃料増額請求や契約解除のような場合には,すでに相続財産があったということになるのだろうか。


04 February 2011

東京地判平成21・7・29判例時報2055・47(F1事業寄附金事件)

オランダ法人A社の営むF1事業に関し,内国法人Xが①担保提供→②資金提供→③債権放棄をしたところ,②が,租税特別措置法66条の4第3項にいう寄附金にあたるとした事例。②は,「形式的には消費貸借契約に基づく金銭の交付であったとしても,その実質は,A社に対して金銭を対価なく移転するものであり,かつ,その行為について通常の経済取引として是認することができる合理的理由は存在しない」としている。控訴審で維持,確定。

21 January 2011

最判平成21年12月10日(遺産分割と税徴39条)

滞納者が遺産分割をして,他の相続人に対して相続分をはるかに超える財産を取得させた事例で,国税徴収法39条の「第三者に利益を与える処分」に当たるとした。一般論は法定相続分を超える場合には「当たり得る」というものであり,事案へのあてはめについては原審の判断を是認しているから,相続分からどの程度乖離していれば該当するかが射程の問題になる。この事件では,滞納者である父親(相続分1/2)が相続財産の10%を得て,子ども(相続分1/4)が63%を得ている。