10 December 2012

古生物学の軌跡



 地層学的な研究から,生物学的な研究へと,1960年代あたりから学問が方向転換した。その経緯はここに詳しい。それにしても,いい写真だと思う。

http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/images/top_2012_Paleontology.jpg
展示のポスター 

22 November 2012

各国の財政政策が似てきている?

エコノミスト誌のブログが,対GDP比率でみた歳入と歳出の20年トレンドを比較すると,各国の動きが収束の兆しをみせていると述べている。本当か?

19 November 2012

外国子会社からの配当送金

平成21年度税制改正で導入された外国子会社配当益金不算入制度が資金環流税制といえるかについては,これまでにも渡辺徹也教授による検討があったが(租税法研究40号67頁),田近教授らによる実証研究が公表された。資金需要の高い企業については税制改正により有意に増配企業の割合が増えたという。

18 November 2012

大阪高判平成23・3・31(信託と不動産取得税)

不動産取得税の非課税規定の適用が争点。

Xが自益信託を設定。不動産を信託財産としてAが受託者となる。
X  →  A受託会社

XがC株式会社に受益権の準共有持分80%を売り渡し。
5年後,CがXにこれを売り渡し。つまり受益権はXに戻ってきた。

そして信託契約の合意解約,これによりXが不動産を取得。
X  ←  A受託会社

本案の争点は,この不動産の取得が非課税になるか。 より具体的には
「信託の効力が生じた時から引き続き委託者のみが信託財産の元本の受益者である信託により受託者から当該受益者(当該信託の効力が生じた時から引き続き委託者である者に限る。)に信託財産を移す場合における不動産の取得」(地方税法73条の7第4号)
にあたるか。地方団体は全体につき非課税規定の適用なしと主張。裁判所はXの手元に残っていた20%部分については非課税とした。

本来,受益権の範囲は当事者が自由に決められるはず。この非課税規定は,委託者が金融を受ける場合や,受益権が複層化する場合などに,非課税というポリシーを実現する上で過不足なく対応できるのか。

自動車2税をめぐる攻防

自動車取得税と自動車重量税の存廃をめぐって,年度末の税制改正にむけていろいろな動きがある。わかりやすい記事として,


20 October 2012

大阪地判平成23・5・27(アスベスト除去費用と雑損控除)

個人が建て替えのため自宅建物の解体工事に着手したところ,建築資材の一部にアスベストが含有されていることがわかり,アスベスト除去工事を行った。争点は,その除去工事費用420万円などが雑損控除(所得税法72条)の対象となるか否か。

所得税法72条は「災害又は盗難若しくは横領」という事由を掲げており,そこにいう「災害」は,所得税法2条1項27号で「震災,風水害,火災その他政令で定める災害」をいうと定義されている。これを受けた政令が所得税法施行令9条である。

大阪地裁は,所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」にあたらないと判断した。一般論として
「人為による異常な災害」により損失が生じたというためには,少なくとも,納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者の関与しない外部的要因(他人の行為)による,社会通念上通常ないことを原因として損失が発生したことが必要である
としたうえで,建物にアスベストが含まれていたことが 「人為による異常な災害」に該当するとはいえないと結論した。

大阪高判平成23年11月17日もこれをそのまま引用して控訴棄却。その後,上告受理申立がされたという。

1. 「異常な」災害にあたるかの判断基準として,大阪地裁は,
  • 納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者の関与しない外部的要因を原因とするものであるかどうか
  • 納税者による当該事象の予測及び回避の可能性
  • 当該事象による被害の規模及び程度
  • 当該事象の突発的偶発性(劇的な経過)の有無
などの事情を総合考慮して, 社会通念上通常ないといえる「異常な」災害かを判断するとしている。

2.本件の納税者が建物の施行業者などに対して損害賠償請求をしているかどうかは明らかでない。しかし,仮にそうしたとしても,建物が建てられた昭和50年から51年にかけての時期には建築部材の使用が違法ではなかったから,実際には勝訴することは難しいであろう。そうなると,一方で,民事訴訟による自力救済により何とか損害賠償金を受け取ることのできた人は所得税法との関係で「不法行為その他突発的事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金」につき非課税とされ,他方で,損害賠償を受けられない本件のような納税者については所得税についても損失の控除ができない状態が残る,というアンバランスが生ずる。より一般的な文脈で髙橋祐介教授がNBL984号で指摘しているように,「税は自ら助くるものを助く」という状態が生ずるのである。

3.せめて,建て替えによって新たに取得した新しい建物の取得費に,本件の除去工事費用を含める,というような考え方は無理筋であろうか。なお,事案が異なり,土地と建物を一括して譲渡する過程で,建物取り壊しに際して除去費用が発生した,というような場合であれば,譲渡所得の算定上,譲渡費用に含めることが考えられよう。





05 October 2012

サービス課税に関するArnold note

国連専門家委員会のためにノートが作られている。「第2次産業から第3次産業へ」ということは中学の社会科で勉強することだが,1920年代に骨格ができた国際課税ルールが「モノからサービスへ」の流れに対応できていないことは,もっとしっかり認識すべき基本的事実。

17 August 2012

ウサイン・ボルトと英国税

ジャマイカのボルトが税制との関係で英国で走らないという話は,これまでにも専門誌には出ていたが,一般的なメディアでもカバーされはじめた。たとえばこれ。
Usain Bolt refuses to race in UK until tax laws are changed (Telegraph)







http://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/c/c3/Usain_Bolt_smiling_Berlin_2009.JPG/481px-Usain_Bolt_smiling_Berlin_2009.JPG
(2012.10.20追記)これらスポーツ選手や芸能人,より一般的には高度なタレントを有する個人の国際課税問題に関する論文の日本語訳(およびそれに関する研究)が,公表された。一高龍司「(海外論文紹介)第17条にはレッドカード?」租税研究756号313頁(2012年10月)。

19 July 2012

OECDモデル租税条約の情報交換条項とその注釈が改訂された


ここからダウンロードできる。
  • 26条2項本文の改訂により,法執行機関間の租税情報交換を促進した。
  • 26条の解釈として,要請が情報漁り(fishing expedition)でない限り,個人名を特定せずに納税者グループの情報提供を要請することができるとした(いわゆるgroup requestの許容)。6月に日本国が米国との間でFATCA枠組み(Model II)に合意したが,そこでもgroup requestの手法が用いられていた。
国際的な租税情報交換の環境が,変わってきている。

06 July 2012

東京地判平成22・6・24 FX(外国為替証拠金)取引の課税

個人居住者が,証拠金を預託して外国為替の売買を行い(店頭FX取引),帳尻金が生じた。帳尻金は,売買差損益金から手数料等を控除した残額と,スワップ金利差調整額との合計額である。裁判所は,これを雑所得に区分し,課税のタイミングについて次のように判示した。
  • 本件契約において原告から見てプラスの売買差損益金又はスワップ金利差調整額(実現スワップ金利)が生じた場合,それらは所得税法36条1項にいう「収入すべき金額」に当たるというべきであり,収入の原因となる権利が確定した時期(収入計上時期)は,売買差損益金については,建玉を反対売買により精算して決済したときであり,スワップ金利差調整額(実現スワップ金利)については,建玉を反対売買により精算して決済したとき又は毎月末というべきである。
原告は,手じまいして決済精算がされるまでの間は顧客の収益は未実現・未確定であると主張したが,裁判所は,契約の定めの内容などに照らし,この主張を認めなかった。根洗いなしのFX取引について先例的価値あり。判旨の理由付けは契約の定めに依拠しており,「FXスワップ取引が日々のスワップ金利の相場に基づいて新規に繰り返されるとみなせる(関本・税大ジャーナル17号52頁)」といったロジックでは必ずしもない。



なお,2012年1月1日以後に行われる店頭取引については,租税特別措置法41条の14により,取引所デリバティブ取引と同様の申告分離課税になった。同法は,事業所得・事業所得・雑所得のいかんにかかわらず等しく適用される。国税庁のタックスアンサー

24 June 2012

FATCAについて日米当局共同声明

6月21日付けで,日米当局が共同声明を出した。日本の金融機関が直接にIRSに登録するやり方と,日米租税条約上の情報交換とを,組み合わせる枠組だ。

2012年2月に米国が仏独伊西英との間で結んでいた枠組(Model I)では,もっぱら条約上の情報交換条項によっており,金融機関はそれぞれの居住地国当局に情報提供し,当局間で自動的情報交換がされることになっていた。これに対し,今回の日米枠組(Model II)は,直接登録と情報交換の組み合わせになっている。 要するに・・・
  • 日本の金融機関は,IRSに登録して,米国口座をIRSに毎年報告し,非協力口座の総数と総額をIRSに毎年報告する。
  • 条約の情報交換条項を利用し,IRSからのグループ要請(group request)に基づき,日本の当局は,非協力口座に関する追加情報を提供する。
  • 上の登録をすれば,個々の金融機関がFFI契約をIRSと直接結ばなくてもよい。
  • 適用外になる金融機関を特定する(特定の年金基金など)。
  • IRSに登録して,報告していれば,米国側はFATCA上の源泉徴収を免除する。
同日には,米国とスイスの共同声明が出されている。日米枠組と異なり,非協力口座に関する情報を金融機関が直接にIRSに提供する。

20 June 2012

Global ForumがG20に報告書を提出

メキシコのLos Cabosで,G20首脳に報告書を提出した。これを受けて,G20首脳宣言には,次のパラグラフが盛り込まれている。
48.租税分野では,我々は,透明性及び包括的な情報交換を強化するとの我々のコミットメントを再確認する。我々は,グローバル・フォーラムにより報告さ れた進ちょくを賞賛し,すべての国,特に,枠組みが整っておらず,現時点ではフェーズ2への資格を有していない13の国・地域に対し,完全に基準を遵守し レビューの過程において特定された提言を実施するよう促す。我々は,グローバル・フォーラムが情報交換の実践の有効性の審査を早急に開始し,我々及び我々 の財務大臣に対し報告することを期待する。我々は,我々がその実施において模範を示し続ける,自動的な情報交換の実践に関するOECDの報告書を歓迎す る。我々は,各国に対し,適切な場合に,この普及しつつある実践に参加するよう求め,すべての国・地域が多国間執行共助条約に署名するよう強く奨励する。 我々はまた,オスロ対話のローマ会合の結果を含め,不法な資金の流れへの対処に係る省庁間の協力を向上させる努力を歓迎する。我々は,所得侵食と利益移転 を防ぐ必要性を再確認し,この分野におけるOECDの継続中の作業を関心をもってフォローする。
この和訳は外務省のサイトによる

15 June 2012

東京高裁平成22・12・16訟務月報57・4・864(相続税,制限納税義務者,債務控除)

Xさん(米国籍,ブラジル居住者)が,Aさんの死亡に伴い財産を相続。Aは死亡前にB社の代表取締役であった。B社の更生手続における管財人が,Aに対する損害賠償請求権を保全するため,Aが日本国内に所有する不動産を仮差押え。

損害賠償請求権
Aさん←―――B社(管財人)
不動産
↓相続
Xさん

争点は,この損害賠償債務が相続税法13条2項2号の債務に該当し,債務控除が可能か。
 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第三号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
 その財産に係る公租公課
 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務
 その財産に関する贈与の義務
 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
東京地裁は,
同項の前記趣旨や,同項が控除される債務を限定列挙していることに照らして,仮差押えがされた場合における被保全債権に係る債務が同項2号に該当すると解することはできない
とした。ここにいう「前記趣旨」とは,
同法が制限納税義務者の課税財産を同法施行地である国内の財産に限定した(同法2条2項)ことに対応して,その差し引くべき債務もまたその財産に関するもので,その者が支払うべきもののみに限定するという点
にある。東京高裁もこの判示部分を維持し,債務控除を認めなかった。上告及び上告受理申立て中。

本格的にはジュリスト掲載予定の浅妻評釈を待ちたいが,とりあえずコメントは3点。
  • 2号を限定列挙であると解する判旨が十分に論証されているかについては,検討の余地がある。仮差押えでなく差押えの場合に射程が及ぶか,という点に関係する。
  • 債務が人に対するものであるのにかかわらず,物だけとの関係で地理的切り分けを行う立法は,いかがなものか。国際的情報交換の充実を前提とすれば,国外財産と国内財産の比率で按分する制度との優劣を検討すべき。もっとも,国内と国外で分ける以上,生前に弁済していれば国内所在の積極財産がそれだけ減ったはずだったという不満は残るだろう。
  • 現在列挙されている担保権でいいのか。そもそも担保権に着目するやり方自体,合理的か。関連して,被担保債権が担保物の時価を超える場合の扱いはどうなるか。



07 June 2012

OECDが移転価格との関係で無形資産の中間討議ドラフトを公表

このサイトからダウンロード可能。パブリック・コメントの締切は2012年9月14日。

AnnexのExample 9で,多国籍企業グループの親会社の名前がShuyonaになっている。「主要な」会社というシャレだろう。Working Party 6は,他にも,Premiere, Primero, Primair, Primarni, Ilcha, Foersta, Birnincil, Zhu, Prathamika, Osnovni, Pervichnyi, という具合に,名前を繰り出す。

 

02 June 2012

最判平成24・1・13(養老保険の保険料,一時所得の計算上「支出した金額」としての控除を否定)

こういう養老保険だ。保険期間は3年または5年,死亡保険金の受取人が会社,満期保険金の受取人が役員または親族。

保険料              満期保険金

会社  ――→  生保会社  ――→  役員
(契約者)                   (被保険者)


会社が保険料を支払い,二分の一を役員に対する貸付金と経理し,残額を保険金として経理(「本件保険金経理部分」,これは損金算入)。のちに,役員が満期保険金を受け取る(=一時所得)。この一時所得の計算上,保険料が,所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」にあたるかどうかが問題となった。

最高裁は,
「一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう『その収入を得るために支出した金額』に該当するためには,当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならない」
 と判示し,本件保険料経理部分の控除を認めなかった。

その後,平成23年6月の改正で,所得税法施行令183条4項に,次の第3号が追加された。
  •  事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。次条第三項第一号において同じ。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額(前二号に掲げるものを除く。)
平成24年には,所得税基本通達が改正され,次のようになった。
  • (生命保険契約等に基づく一時金又は損害保険契約等に基づく満期返戻金等に係る所得金額の計算上控除する保険料等)
    34-4 令第183条第2項第2号又は第184条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額(令第183条第4項又は第184条第3項の規定の適用後のもの。)には、以下の保険料又は掛金の額が含まれる。(平11課所4-1、平24課個2-11、課審4-8改正)
    (1) その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者が自ら支出した保険料又は掛金
    (2) 当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるもの
    (注) 1 使用者が支出した保険料又は掛金で36―32により給与等として課税されなかったものの額は、上記(2)に含まれる。
    2 相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされる一時金又は満期返戻金等に係る部分の金額は、上記(2)に含まれない。
高橋祐介・ジュリスト1411号9頁は,本件の背景にフリンジ・ベネフィット課税の問題があることを指摘したうえで,簡易生命表による5年死亡確率のデータをもとに,
「保険料の半額だけ役員が自己資金で負担していれば(あるいは給与所得課税を受けていれば),残りの半額分の現金を役員が将来ほぼ確実に受け取りうるとしても,法人段階での役員給与課税は行われず,役員側でも一時所得課税を受けるだけであり,かつ保険金受領時まで課税が行われない」
と指摘し, 「本件の抱える問題は,解決していない」とする。

25 May 2012

須藤靖先生のブックトーク

図書館で,須藤靖先生のブックトークがあった。Isaac Asimov, Nightfall (1941)を語られた。原作のもつ独特の暗さとは対照的に,須藤先生のお話は,夜空ノムコウに対する明るい知的探求心を,惜しげなく聴衆にシェアしてくださるものだった。

08 May 2012

資本に課税すべきでないとする見解をエコノミストが再考

The Economistのこの記事が,次のペーパーを紹介。

  • Juan Carlos et al. (2008)は,資本課税は「結局悪い考えではない(not a bad idea after all)」という。すなわち,資本市場は不完全であり,家計は一生のすべての浮き沈みに対して保険をかけることができない。資本リターンの一部を課税して,リスクに対する社会保険を供給することは,適切である。既存モデルは,資本税の成長コストを過大視してきた。大部分の資本所得税は退職に備えて貯蓄する勤労世代の成人によって支払われており,彼(女)らは租税にかかわらず貯蓄を続ける,というのである。
  • Thomas Pikkery and Emmanuel Saez (2012)は,相続の存在に着目。
  • Emmanuel Farhi et al. (2012)は,不平等の拡大が政治を不安定化し,重税により富を収用することを促すため,現在の貯蓄と投資を阻害する可能性があるという。
もっとも,この記事は,資本は可動性が高いため,各国のアプローチが異なると企業はより有利な国に投資するだけであるから,高い資本税率を心配することに理由があるとも述べている。

21 April 2012

東京高判平成22・3・24(交際費,オリエンタルランド事件)訟務月報58巻2号346頁

交際費の認定事例で,原審東京地裁平成21・7・31判例時報2066・16を維持。オリエンタルランド事件。

1)交際費の認定にあたり,一般論として「支出の相手方,支出の目的及び支出に係る法人の行為の形態」を考慮することが必要であると述べ,この基準を事実にあてはめるという論証構造。もっとも,従来の2要件でも結論は変わらなかったのではないか。

2)X社は清掃業務をB社に委託し,B社がC社に再委託した。


X社→B社→C社
    D
 
裁判所は,委託料差額がB社を支配するD個人に対する「謝礼又は贈答の趣旨でなされたと認めるのが相当」であるとし,Dが「その他事業に関係のある者等」にあたるとしている。Dの接待等のために支出しているという構成が,興味深い。

3)X社はまた,遊園施設への優待入場券を,取引先企業やマスコミ関係者に交付した。

X社→ 取引先企業・マスコミ関係者

裁判所は,優待入場券を使用して遊園施設に入場したときに,取引先企業・マスコミ関係者に対し,「Xの提供する役務に係る原価のうちその者に対応する分につき費用の支出があった」とした。交付自体を支出とみていないのは,どうしてだろうか。益金側で売上金額を計上することに,困難があったのか。

06 April 2012

オフショアで会社を設立するという商売(エコノミストの記事)

エコノミスト4月7日号に,ペーパーカンパニーに関する記事が出ているが,その関連記事をみると「オフショアで会社を設立する」という商売をしている大手の名前がたくさん載っている。たとえば,香港のOffshore Incorporation Ltd(OIL)とか。顧客ベースが東に移るとともに,香港とシンガポールといった"midshore",つまりonshoreとoffshoreの中間の金融センターでの会社設立が増えている。この動きは,UBS事件のころから指摘されてきたこと。

17 March 2012

東京地判平成23・3・24(NJ州法上の信託とみなし贈与課税)

2004年8月4日,祖父がその「子孫らのために」信託を設定し,券面500万ドルの米国債を受託者に引渡し。信託契約には,受益者として孫X(米国籍)の氏名が記載されている。2004年9月15日,受託者は,父を被保険者とする生命保険契約を締結,保険料として合計440万ドル支払。60万ドルは宙に浮いている。

名古屋地裁は相続税法4条1項(平成19年度税制改正前)にいう「受益者」を「信託による利益を現に有する地位にある者」と狭く解釈したことに対しては,多くの評釈が否定的である(仲谷=田中,品川,岡本,宮塚)。もしXが「受益者」であったとすると,Xの住所や,信託財産の所在が,さらに問題となる。

なお,平成19年度税制改正により,信託設定時に,Xが「受益者としての権利を現に有する者」にあたる場合にみなし贈与課税がされることになった(相税9条の2Ⅰ)。「受益者等が存しない信託」の効力が生ずる場合,当該信託の受益者等となる者が委託者の親族であるとき,受託者に対してみなし贈与課税がされる(相税9条の4)。

**********
(2012.03.27追記)
高野・税務事例研究124号は,平成19年度税制改正後の相続税法の下でこの事例のような信託契約が締結された場合にどうなるかを検討している。同論文も,名古屋地裁の上記「受益者」解釈に問題があると指摘。さらに,住所の認定については,幼児の「生活の本拠は父母の生活の本拠と同一であると考えるべきではなかろうか」とする。信託財産の所在地については,国債を基準とし(相税9条の2第6項),国債を発行した当該外国にある(相税10条2項)と解している。

15 March 2012

国連租税条約モデルの2011年アップデート

3月15日の会合で公表する。

 

FairfaxはOdysseyの株を所有していたか

New York Timesの記事"Revisiting a $400 Million Tax Break"が,Fairfax Financial HoldingsがOdyssey Re Holdings Corporationの株を80%所有していたかをめぐる争いをとりあげている。

争点は,米国連結納税申告の適用要件を満たしていたか。Fairfaxは2003年に80%所有要件を満たしていなかったため,Odyssey株を買い増したが,そのやり方が問題となった。Fairfaxは現金を支払う代わりに,2010年満期の借用証書を,Bank of AmericaのCayman関連会社に渡し,Bank of Americaは株を借りてFairfaxに渡したという。

2012-03-14. URL:http://www.nytimes.com/2012/03/11/business/fairfax-financials-400-million-tax-break-revisited.html?_r=2&ref=business&pagewanted=all. Accessed: 2012-03-14. (Archived by WebCite® at http://www.webcitation.org/66AafGrav)

10 March 2012

岡山地判平成18・1・11税務訴訟資料256号順号10261(個人病院長の貸倒損失)

倉敷でA病院を営んでいた個人Xが,有料老人ホームの経営などを目的として平成2年10月1日に会社Cを設立したが,有料老人ホーム開設の認可が得られず,C社は平成10年12月10日に清算結了した。Xは、C社に対する本件貸付金の貸倒れによる損失2億1373万円余を、 平成10年分の事業所得の金額の計算上必要経費に算入した。所轄税務署長がこの必要経費算入を否定するなどの更正処分。

岡山地裁は,
「そもそも有料老人ホーム事業とA病院の業務との間に直接的な関連があることを認めることはできないし、仮に訴外Cが有料老人ホームを開設することにより、当該有料老人ホームの入居者に治療等の必要性が生じた場合に、A病院に通院又は入院する可能性が高く、A病院の収入増加の可能性が見込めるとしても、A病院が訴外Cの協力医療機関となることによって、A病院において見込まれる収入増加についての計算や、資金回収についての合理的計算が行われたという形跡は見当たらないこと、また、本件貸付金については担保設定もなされていないため、訴外Cの事業が失敗した場合のリスクをXが全面的に負うという高リスクの資金貸付けとなっていたこと等の事情からすると、Xの主観的意図はともかく、客観的に見て、事業として合理的な計画性をもった貸付けということはできないから、高リスクな資金貸付けを行ってまで有料老人ホームの協力医療機関になることがA病院の業務に係る事業所得を得るために客観的に見て通常必要なものであったと認めることはできない。」
として,本件貸付金の貸倒れによる損失は所得税法51条2項に規定する損失に該当せず,当該損失はXの事業所得の金額の計算上必要経費に算入できないと判断した。

業務関連性の認定に関する一事例といえよう。やや乱暴にいいかえれば,病院の事業と,有料老人ホームの事業は,まったく別個の事業だというのである。そうカテゴリカルにいいきれるものであろうか。認定事実からするとだいぶ無理な事業計画であったようであるし,この争点以外にもいくつかの点が争われているなど,事案の特殊性があるのかもしれないが。

病院事業に関連しないとすると,雑所得との関係を考えることになる。この点につき,岡山地裁は,
「本件貸付金・・・の貸倒れによる損失は、所得税法51条4項に規定する損失に該当すると認められるので、平成10年分の雑所得の金額の計算上、同年分の雑所得の金額(同項の規定を適用しないで計算した雑所得の金額)を限度として必要経費に算入することにな」る

と述べている。

なお,C社が開業費を支出していたとすれば,本来,繰延資産として後の事業年度に法人税の損金算入ができるはずだ。だが,本件では有料老人ホーム開設の認可が得られず,C社は清算結了してしまっている。Xも破産しており,本訴の原告は破産管財人である。