24 June 2012

FATCAについて日米当局共同声明

6月21日付けで,日米当局が共同声明を出した。日本の金融機関が直接にIRSに登録するやり方と,日米租税条約上の情報交換とを,組み合わせる枠組だ。

2012年2月に米国が仏独伊西英との間で結んでいた枠組(Model I)では,もっぱら条約上の情報交換条項によっており,金融機関はそれぞれの居住地国当局に情報提供し,当局間で自動的情報交換がされることになっていた。これに対し,今回の日米枠組(Model II)は,直接登録と情報交換の組み合わせになっている。 要するに・・・
  • 日本の金融機関は,IRSに登録して,米国口座をIRSに毎年報告し,非協力口座の総数と総額をIRSに毎年報告する。
  • 条約の情報交換条項を利用し,IRSからのグループ要請(group request)に基づき,日本の当局は,非協力口座に関する追加情報を提供する。
  • 上の登録をすれば,個々の金融機関がFFI契約をIRSと直接結ばなくてもよい。
  • 適用外になる金融機関を特定する(特定の年金基金など)。
  • IRSに登録して,報告していれば,米国側はFATCA上の源泉徴収を免除する。
同日には,米国とスイスの共同声明が出されている。日米枠組と異なり,非協力口座に関する情報を金融機関が直接にIRSに提供する。

20 June 2012

Global ForumがG20に報告書を提出

メキシコのLos Cabosで,G20首脳に報告書を提出した。これを受けて,G20首脳宣言には,次のパラグラフが盛り込まれている。
48.租税分野では,我々は,透明性及び包括的な情報交換を強化するとの我々のコミットメントを再確認する。我々は,グローバル・フォーラムにより報告さ れた進ちょくを賞賛し,すべての国,特に,枠組みが整っておらず,現時点ではフェーズ2への資格を有していない13の国・地域に対し,完全に基準を遵守し レビューの過程において特定された提言を実施するよう促す。我々は,グローバル・フォーラムが情報交換の実践の有効性の審査を早急に開始し,我々及び我々 の財務大臣に対し報告することを期待する。我々は,我々がその実施において模範を示し続ける,自動的な情報交換の実践に関するOECDの報告書を歓迎す る。我々は,各国に対し,適切な場合に,この普及しつつある実践に参加するよう求め,すべての国・地域が多国間執行共助条約に署名するよう強く奨励する。 我々はまた,オスロ対話のローマ会合の結果を含め,不法な資金の流れへの対処に係る省庁間の協力を向上させる努力を歓迎する。我々は,所得侵食と利益移転 を防ぐ必要性を再確認し,この分野におけるOECDの継続中の作業を関心をもってフォローする。
この和訳は外務省のサイトによる

15 June 2012

東京高裁平成22・12・16訟務月報57・4・864(相続税,制限納税義務者,債務控除)

Xさん(米国籍,ブラジル居住者)が,Aさんの死亡に伴い財産を相続。Aは死亡前にB社の代表取締役であった。B社の更生手続における管財人が,Aに対する損害賠償請求権を保全するため,Aが日本国内に所有する不動産を仮差押え。

損害賠償請求権
Aさん←―――B社(管財人)
不動産
↓相続
Xさん

争点は,この損害賠償債務が相続税法13条2項2号の債務に該当し,債務控除が可能か。
 相続又は遺贈により財産を取得した者が第一条の三第三号の規定に該当する者である場合においては、当該相続又は遺贈により取得した財産でこの法律の施行地にあるものについては、課税価格に算入すべき価額は、当該財産の価額から被相続人の債務で次に掲げるものの金額のうちその者の負担に属する部分の金額を控除した金額による。
 その財産に係る公租公課
 その財産を目的とする留置権、特別の先取特権、質権又は抵当権で担保される債務
 前二号に掲げる債務を除くほか、その財産の取得、維持又は管理のために生じた債務
 その財産に関する贈与の義務
 前各号に掲げる債務を除くほか、被相続人が死亡の際この法律の施行地に営業所又は事業所を有していた場合においては、当該営業所又は事業所に係る営業上又は事業上の債務
東京地裁は,
同項の前記趣旨や,同項が控除される債務を限定列挙していることに照らして,仮差押えがされた場合における被保全債権に係る債務が同項2号に該当すると解することはできない
とした。ここにいう「前記趣旨」とは,
同法が制限納税義務者の課税財産を同法施行地である国内の財産に限定した(同法2条2項)ことに対応して,その差し引くべき債務もまたその財産に関するもので,その者が支払うべきもののみに限定するという点
にある。東京高裁もこの判示部分を維持し,債務控除を認めなかった。上告及び上告受理申立て中。

本格的にはジュリスト掲載予定の浅妻評釈を待ちたいが,とりあえずコメントは3点。
  • 2号を限定列挙であると解する判旨が十分に論証されているかについては,検討の余地がある。仮差押えでなく差押えの場合に射程が及ぶか,という点に関係する。
  • 債務が人に対するものであるのにかかわらず,物だけとの関係で地理的切り分けを行う立法は,いかがなものか。国際的情報交換の充実を前提とすれば,国外財産と国内財産の比率で按分する制度との優劣を検討すべき。もっとも,国内と国外で分ける以上,生前に弁済していれば国内所在の積極財産がそれだけ減ったはずだったという不満は残るだろう。
  • 現在列挙されている担保権でいいのか。そもそも担保権に着目するやり方自体,合理的か。関連して,被担保債権が担保物の時価を超える場合の扱いはどうなるか。



07 June 2012

OECDが移転価格との関係で無形資産の中間討議ドラフトを公表

このサイトからダウンロード可能。パブリック・コメントの締切は2012年9月14日。

AnnexのExample 9で,多国籍企業グループの親会社の名前がShuyonaになっている。「主要な」会社というシャレだろう。Working Party 6は,他にも,Premiere, Primero, Primair, Primarni, Ilcha, Foersta, Birnincil, Zhu, Prathamika, Osnovni, Pervichnyi, という具合に,名前を繰り出す。

 

02 June 2012

最判平成24・1・13(養老保険の保険料,一時所得の計算上「支出した金額」としての控除を否定)

こういう養老保険だ。保険期間は3年または5年,死亡保険金の受取人が会社,満期保険金の受取人が役員または親族。

保険料              満期保険金

会社  ――→  生保会社  ――→  役員
(契約者)                   (被保険者)


会社が保険料を支払い,二分の一を役員に対する貸付金と経理し,残額を保険金として経理(「本件保険金経理部分」,これは損金算入)。のちに,役員が満期保険金を受け取る(=一時所得)。この一時所得の計算上,保険料が,所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」にあたるかどうかが問題となった。

最高裁は,
「一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう『その収入を得るために支出した金額』に該当するためには,当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならない」
 と判示し,本件保険料経理部分の控除を認めなかった。

その後,平成23年6月の改正で,所得税法施行令183条4項に,次の第3号が追加された。
  •  事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。次条第三項第一号において同じ。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額(前二号に掲げるものを除く。)
平成24年には,所得税基本通達が改正され,次のようになった。
  • (生命保険契約等に基づく一時金又は損害保険契約等に基づく満期返戻金等に係る所得金額の計算上控除する保険料等)
    34-4 令第183条第2項第2号又は第184条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額(令第183条第4項又は第184条第3項の規定の適用後のもの。)には、以下の保険料又は掛金の額が含まれる。(平11課所4-1、平24課個2-11、課審4-8改正)
    (1) その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者が自ら支出した保険料又は掛金
    (2) 当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるもの
    (注) 1 使用者が支出した保険料又は掛金で36―32により給与等として課税されなかったものの額は、上記(2)に含まれる。
    2 相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされる一時金又は満期返戻金等に係る部分の金額は、上記(2)に含まれない。
高橋祐介・ジュリスト1411号9頁は,本件の背景にフリンジ・ベネフィット課税の問題があることを指摘したうえで,簡易生命表による5年死亡確率のデータをもとに,
「保険料の半額だけ役員が自己資金で負担していれば(あるいは給与所得課税を受けていれば),残りの半額分の現金を役員が将来ほぼ確実に受け取りうるとしても,法人段階での役員給与課税は行われず,役員側でも一時所得課税を受けるだけであり,かつ保険金受領時まで課税が行われない」
と指摘し, 「本件の抱える問題は,解決していない」とする。