09 October 2014

NYU/UCLA租税政策シンポジウムがビデオになっていた―ピケティ『21世紀の資本』を討議

一日分の議論の様子をここから見ることができる。
エコノミスト・法律家・歴史家・政治学者・哲学者と、本人によるシンポジウム。
このブログによると、来年のTax Law Reviewに掲載するとのこと。

01 October 2014

資本は動くが、労働も可動である

Reuven S. Avi-Yonah, And Yet It Moves: Taxation and Labor Mobility in the Twenty-FIrst Century, 67 Tax Law Review 169 (2014) は、次の議論を提示して、二元的所得税の前提を疑っている。すなわち・・・

  • 資本は可動性が高いというのは、個人に関する限りあてはまらない。
    • 法人税は帰着が不明のため資本/労働の峻別論に対してイレレバント。
    • 米国居住者・市民が、自ら国外に出ることなしに配当・利子・キャピタルゲインに対する所得税を逃れることは、原則としてできない。全世界所得課税とその補完のためのPFICルールがあるし、オフショア口座についてはFATCAで捕捉されるから。
  • 労働は可動性が低いというのは、移民制限を前提としており、21世紀の現実にあてはまらない。
    • 低所得者にとって、合法・非合法の移民の数は相当大きい。
    • 高所得者(=資本所得を稼得)にとって、移動に対する法的な制約はほとんど存在しない。
この論文は、このように論じたうえで、結論として、Tiebout(1956)にたちもどって、居住者の選好を反映する税率設定を行うべきであるとする。米国について具体的には、次の政策上の含意を導き出す。
  • 配当・キャピタルゲインに対する税率を利子・賃金と同じに設定する。
  • 税率設定は選挙で選ばれた代表が通常の政治プロセスを通じて行う。
  • この結果を好まない人の国外退出を許容する。
すぐに読みきれるほど短く、かつ、論争喚起的な小論文である。「資本の可動性が高い」ということを前提としてきた租税政策論の基礎を疑っているところに、特徴がある。著者自身がイメージしている税率は、1986年改正時の28%である(183頁)。

日本の眼からして、考えさせるところがある。たとえば・・・
  • 日本の所得税は建前上は居住者に対する全世界所得課税であるが、PFICのようなルールをもたない。また、国外財産調書制度の下限から漏れるものもかなりある。とすると、「資本を国外に逃がすことで資本所得課税を免れることはできない」といえるだろうか。制度の運用にたちいった実証が必要ではないか。
  • この論文は出国税(Exit Tax)の現実について、かなり辛口の見方をとっている。米国の2008年改正以後に市民権放棄をした数が急増したという統計をあげて、「この増加の理由は2008年以降は国籍離脱が恥ずべき行為ではなくなったことにある。国籍離脱は政府の決めた価格を伴う行為になったのである。」と述べている(180頁)。市民権課税をとる米国ならではの問題かもしれない。居住地変更だけで全世界所得課税を免れることのできる国では、他にもいろいろと考えるべき点がありそうである。
すこし検索してみたら、すでに2012年5月に、ワーキングペーパーとしてSSRNにポストされていた。気がつくのが遅くなった。その後、さらに議論が生じているかもしれない。