25 July 2015

東南アジアのかなりの国々が、OECDグローバルフォーラムに入っていなかった

Satoru Araki, Regional Cooperation and Tax Information Exchange among Asia-Pacific Tax
Authorities, Asia-Pacific Tax Bulletin, Vol. 21, No. 4 (2015)によると、東南アジアのミャンマー、タイ、ベトナム、カンボジア、パプアニューギニア、そしてモンゴルといった国々が、OECDのGlobal Forumに入っていない。

たしかに、他の地域と比べても、緊密な相互交流が弱いという感じはずっともっていた。しかし、こうして論文の形で、政府間の租税情報交換の現状をつきつけられてみると、やはり事実は重いし、課題は租税情報交換にとどまらないと思う。途上国の中でも行政資源不足に悩む国にとっては、国際課税の視点と、開発経済の視点をうまく組み合わせる必要があり、この論文の著者のようなアプローチが望まれる。

そういっているうちに、欧州では、独蘭がルーリングの自発的情報交換につき合意したという発表に接した。ニュースになりやすいそういった状況からはかなり遠いのが、東アジアの現状である。もちろん、歴史的・社会的・経済的に多様な要素を抱えている以上、こうなっていることにも理由はあるのではあるが・・・。



14 July 2015

課税ベース防御の国連ハンドブックが出ていた

United Nations Handbook on Selected Issues in Protecting the Tax Base of Developing Countries (2015)である。Brian Arnold教授とHugh Ault教授が中心となり, Peter Barnes, Graeme Cooper, Wei Cui, Peter Harris, Jinyan Li, Adolfo Martín Jiménez, Diane Ring, Eric Zoltの各教授が分担して、BEPS対応の主要論点を検討している。

ちょうどいま、エチオピアのAddis Ababaで、Third International Conference on Financing for Developmentをやっていて、そこで税制について会合が開かれている。今週のThe Economistも、これにあわせて、Financing development: Beyond aidという巻頭記事に続いて、Financing development: Tax them and they will growという記事を出していたところ。Seth Terkper、がんばれ。

12 July 2015

VATの免税点は、小規模事業者の行動にどう影響しているか

免税点の前後でbunchingを起こしている、というのがこの記事

免税点以下の事業者は、任意に課税事業者登録ができる。では、どういう場合に課税事業者になるインセンテイブをもつかといえば、それは
  • 売上に比べて仕入の割合が高くて仕入税額控除を利用したい場合
  • 事業者に対する売上の比率が高くて(消費者に対する売上が多い場合に比べて)価格への転嫁が容易である場合
と考えられる。逆に、仕入の割合が低い場合や、消費者に対する売上が多い場合に、課税事業者になることを選択しないことが予想される。これを英国の2004年から2009年のデータに適用して、実際にそうなっていると実証。さらに、bunchingのメカニズムや、成長に対する影響についても、検討している。もとの論文、Liu and Lockwood, VAT Notches (2015).

そうか、VAT免税事業者の制度は、こんなふうに機能していたのであったか。

10 July 2015

仮想通貨の課税について、博士論文が出ていた

Aleksandra Bal (2014) のここに要約と動画がある。現物はここから読める。そもそも課税すべきでないという彼女の主張と、独蘭英米で実際に課税をはじめているというリサーチとの対比が、えもいえず不思議な感じ。所得課税だけでなく、VATも検討している。

Bitcoinについては、つい先月末にもFATFが規制に乗り出すなど、動きが急。7月9日付けの朝日新聞によると、日本の金融庁も、
ビットコインなどインターネット上の仮想通貨に対し、金融庁が規制に乗り出す。現金と交換できる両替所や取引所を、免許制か登録制にする。新法をつくるか、金融商品取引法などの改正で対応するかはこれから検討するが、早ければ来年の通常国会に関連法案を提出する。
とのこと。日本の税制はその後追いか?

08 July 2015

所得再分配における法ルールと税制の選択について、ノートが出ていた

Zachary D. Liscow, Reducing Inequality on the Cheap: When Legal Rule Design Should Incorporate Equity as Well as Efficiency, 127 Yale L.J. 2478 (2014)
で、すでに1年以上前の2014年5月号だった。

これはいわゆるLaw ReviewのStudent Noteであり、Kaplow and Shavell, Why the Legal System Is Less Efficient than the Income Tax in Redistributing Income, 23 J. LEGAL STUD. 667 (1994) が「法ルールではなく税制だけでいくのが望ましい」と述べてから、Sanchirico教授や、最近のGamage教授の応答などを含め、ずっと議論されている点について、「厚生最大化に関する伝統的な経済学の理解の枠内において、法ルールが公平を考慮すべきである」と主張し、その理由を2点あげるもの。


好意的な書評がこのポストにある。

07 July 2015

NK通達は2回改正されていた

任意組合に関する所得税基本通達36・37共-20は、東京高判平成23年8月4日をうけて、平成24年8月30日付けで改正されたものである。

同通達は、それ以前に、平成17年の課個2-39、課資3-11、課審4-220で、改正されている。平成24年の改正ほど明確ではないが、すでに総額方式を原則とする考え方にたっていたことが、後藤昇ほか編『平成21年版所得税基本通達逐条解説』383頁の次の記述から読み取れる。
(前略)その所得の計算方法は、組合員がその分配割合に応じて、組合の収入、支出の金額、資産、負債を有するものとして計算される所得金額によることを原則とするものである。
この段階の通達は、継続適用を要件として中間方式や純額方式を認める、というものであった。その理由としては、「実際上困難な場合も生ずるので(同383頁)」と解説されていた。

これが、平成24年の上記通達改正により、総額方式により計算することが「困難と認められる場合」で、かつ、継続して中間方式か純額方式かにより計算している場合に、その計算を認める、という具合になり、総額方式を原則とすることが明確に示された。「困難と認められる場合」に関する注があること、経過的取扱いが示されていること、に留意する必要がある。

この記事に追加。

04 July 2015

減る貯蓄、横ばいの消費

第13回税制調査会(2015年7月2日)資料一覧の中に、 「経済社会の構造変化~経済循環の変化~」というマクロのデータが示されていた。以下そのスライドの頁でみていくと・・・
  • 10頁 マクロでみた賃金・俸給が、1990年代をピークに減少傾向
  • 11頁 賃金等の総額が減る中で、社会給付が家計の可処分所得を下支え
  • 12頁 1990年代後半以降、可処分所得は低下傾向、貯蓄低下によって消費は横ばい
  • 13頁 1994年から2013年の間に、全体として貯蓄は34兆円減少
とのことである。人口が高齢化すると、ライフサイクルの中で貯蓄を取り崩して消費にあてるところが、マクロの数字でも大きく出てくる、ということか。