26 March 2016

米国2016年モデル租税条約はBEPS行動7(PE認定の人為的回避)にどこまでつきあうか

2016年2月17日に出された米国2016年モデル租税条約は,PE認定の閾値に関するBEPS行動7の勧告の重要部分をとりいれていない。もっとも,これをもって「泣き別れ」になったとみるのは,即断であろう。なぜならば,
の末尾の段落が次のように述べているからである(下線は引用者による)。

The 2016 Model has not adopted the other BEPS recommendations regarding the permanent
establishment threshold, notably the revised rules related to dependent and independent agents
and the exemption for preparatory and auxiliary activities. It is important to ensure that the
implications from any modifications to these treaty provisions are commonly understood and
consistently administered by treaty partners. Accordingly, the Treasury Department is working
with OECD and G20 member countries to create a common global understanding regarding
profit attribution that will address the concerns raised by these BEPS permanent establishment
recommendations. Furthermore, the Treasury Department is interested in developing ways to
mitigate the compliance burdens on businesses and tax administrations that the new permanent
establishment rules could create.

この論旨を逆手に読むと,「PEに帰属すべき利得に関する共通のグローバルな了解」が形成され,「コンプライアンス負担を軽減する」方法が開発できたら,おつきあいしてもいいよ,というニュアンスを読み取ることも不可能ではなかろう。ハードルの高いことかもしれないけれど。

20 March 2016

石油価格の世界的下落に伴い,各国の石油課税に変化が報告されていた

この記事である。

Taxation and oil companies

Oiling the wheels

Governments are easing the tax burden on the industry, with some exceptions


①価格に応じた課税になっているか(油田の利益の一部をとる豪やノルウェー),②バレルあたりの課税になっているか(ブラジルやカザフスタン)で,石油価格の下落がもつ意味がだいぶ異なってくる。すなわち・・・
  • ①であれば価格変動に自動的に対応する
  • ②であれば価格が下落しても1バレルあたりの税額は変わらないから政府の取り分は相対的に増える
この話は,租税法の授業のはじめのあたりで従価税と従量税の違いについて説明するときに,使えそう。

この記事はさらに,英国の昨年の減税を皮切りに,カザフスタンやブラジル,コロンビア,メキシコ,ケニヤ,カナダのアルバータ州などの政府行動が変わったという。ただし,いまだ「底への競争」にはなっておらず,ロシアのように増税が予想されるところもあるといっている。ふーん。少なくともいえそうなことは,「レント税だと政府がどれだけとっても企業行動に影響しない」という話が,現実の石油産業との関係では必ずしも妥当せず,実際にはもっと複雑な考慮を要するということ。

この記事が出た機会に国連のサイトをチェックしてみたが,あまり動きはないよう。

英国2016年度予算はEU残留をにらんでいるとの解説

The Economistのこの記事。高度に政治的な予算(an intensely political budget of fixes and fiddles)だが,にもかかわらずひどく悪いわけではない(it wasn't too bad)という。EU残留を打ち出したGeorge Osborne蔵相からすると
  • 論争を避ける
  • すでにEU残留を支持する多国籍企業には増税,EU離脱に傾く中小企業には減税
  • EU離脱に傾く地域は地方分権で懐柔
という意味があるという。さらに続けて
  • 「次世代のための予算」は不十分
  • 全体として累進的でない
  • 過度に複雑
などと辛口の批評を加えつつも,分別のある経済的方向であるとしている。英国の雑誌が英国のことを論評するのは,読み解きがだいぶ難しい。でも,「へえそうなのか」という感じはする。


BEPS行動11について,渡辺智之教授が論文を公表していた

BEPSを巡るデータ上の諸問題」(2016.03)である。

行動11の報告書は「実態把握という最も基礎的な課題を扱った報告書として重要」なだけでなく,CbCレポート「によって求められているデータの問題と深い関連性がある」とする。そして,この角度から,行動11の報告書の要点をまとめたうえで,報告書の意義と問題点を論じている。

BEPSの数量的把握が依然として困難であることが,教授の抑制されたコメントから浮かび上がる。慎重な姿勢が印象的。

http://www.oecd.org/tax/beps.htm

17 March 2016

山手線で一番無名

北区田端駅のline stampが,「山手線で一番無名!」で人気になった。

けれど,わが文京区にはJRの駅がそもそもひとつもないという事実。

加藤新太郎「事件のスジの構造と実務」に武富士事件へのコメント

加藤新太郎「事件のスジの構造と実務」高橋宏志ほか編『民事手続の現代的使命 伊藤眞先生古希祝賀論文集』(有斐閣,2015年)211頁,233頁注(27)。

民事訴訟審理の終盤で規範と結論との適合性に問題があると認識した場合に,裁判官が自覚的な法解釈により法規範を創造・形成することが試みられる,という本文に続くのが,この注(27)である。同注は,このような試みにも限界があるとする。そして,「具体的妥当性という点から結論のスワリが悪いと感じられるケース」として,相続税法上の「住所」の意義が問題となった武富士事件最判平成23年2月18日判例時報2111号3頁をあげ,かかるケースも「甘受しなければならない」と述べたうえで,須藤正彦『弁護士から最高裁判所判事へ』(商事法務,2014年)126頁を引用している。