25 December 2019

ゼミ終了

今期のゼミが終了した。最終回に提出された感想文を読んでいると,異なる背景を有するメンバーでのグループワークが「効果的な学び」のために有効であると思う。ヒトはつくづく,社会的な動物なのだろう。

テーマとの関係で是非とも会読すべきであったのに,時間の都合でできなかった文献は数多い。たとえば,これなど。

The Role of Digital Platforms in the Collection of VAT/GST on Online Sales

Published on June 20, 2019
Also available in: French
book

24 December 2019

売上税100年

西山由美先生に教えていただいて,ドイツで2018年にこの本が出ていたことを知った。
日本の消費税は30歳。70年後には,こういう本ができるのだろうか。

所得課税における時間軸とリスク

所得課税における時間軸とリスク

19 December 2019

中里実教授最終講義

中里実教授最終講義のお知らせ
2019/12/17

中里実教授の最終講義が以下のとおり開催されることになりましたので、お知らせします。

日時:1月8日(水)17:30~18:30
場所:法文1号館25番教室
演題:「財政と金融の法的構造」

18 December 2019

ゼミ終盤

法科大学院・公共政策大学院・総合法政・法学部の合併で,意欲あふれる精鋭19名とともに走ってきた今期のゼミも,あと1回を残すのみとなった。

9月末からはじめて,まずは,問題領域の概観,デジタル課税,ブロックチェーン,シェアリングエコノミー,ロボット課税,といった感じでいくつか文献を会読し,参加者相互の理解共有につとめた。そしてこれと同時並行しながら,班別の報告テーマ(=research question)を自由に設定してもらった。各班でリサーチと内部的検討を重ねてアウトラインをつくっていき,報告&議論というはこびになる。この過程は全面的に参加者の能動的な学びにゆだねていて,ぼくはときおり関連文献を提示するくらい。各班のプレゼンの様子(あるいはそれ以上に他の班の報告を聴いた側の聴衆としての「適切な質問」のキレ)に接した感じでは,この19名は皆なかなか,よくがんばったといわねばなるまい。中には取得単位なしで任意参加する人もいるというのに。

ゼミを開いているわずか3か月の間においても,たとえばデジタル課税について,事務局案をもとにpublic consultationが行われたり,米国財務長官がOECD事務総長に書簡を送ったり,現在進行形でものごとがどんどん進行している。昨年のゼミと同じテーマを継続しているつもりでも,1年でこれだけ変わるものか,というのが実感。

15 December 2019

Becoming Astrid (2018)

2018年公開の映画。ピッピとかカッレくんとか,Astrid Lindgrenのたくさんの作品が生まれた背景に,若い時期のこんなことがあった。彼女は1907年生まれだから,この物語は戦間期。全く知らなかったが,英語圏ではかなり知られた事実だったよう。

Becoming Astrid poster.jpg

14 December 2019

信託課税研究の道標

2009年からトラスト未来フォーラム(トラスト60)で継続的に行われてきた研究会の成果のうち,主要なものにつき,加筆・補論を追加して,論文集としたもの。目次は以下。

第1章 信託法理の生成
  信託法理の生成(中里 実)
  法人格を有する信託としての財団法人(中里 実)
第2章 課税上の利益帰属
  所得の「帰属」・再考(序説──東京高判平成23年9月21日訟月58巻6号2513頁を手がかりとして(藤谷武史)
  Reich論文の“Super-Matching” Ruleの紹介及び信託等を通じたマッチングの意義と限界(浅妻章如)
  無償取引と取引の単位──課税の前提に関する研究ノート(中里 実)
  無償取引と対価(中里 実)
第3章 時間を超える利益移転 年齢・主体・課税に関する研究ノート──教育資金贈与信託を出発点に(神山弘行)
  民事信託と相続税・贈与税に関する研究ノート(渕 圭吾)
  受益者連続型信託に対する資産移転税の課税方式に関する一考察(藤谷武史)
  「みなし相続財産」と信託(渕 圭吾)
  所得税と相続税の調整:アメリカ生命保険源泉徴収税の外国法控除と債務控除(BFH2R51/14)(浅妻章如)
  世代間資産移転のための「公的基金」と信託的ガバナンスに関する研究ノート(神山弘行)(2011年)
第4章 国境を越える信託
  英国における法人該当性判断をめぐる動揺──Anson事件最高裁判決(吉村政穂)
  4号所得の空洞化(増井良啓)
  支店外国税額控除の設計(増井良啓)
  UCITS 4[第4次集団投資事業指令]に対応した英国税制の動向(吉村政穂)

信託課税研究の道標

13 December 2019

占領下における外国人・外国法人課税再開の過程

加野裕幸「占領下における外国人・外国法人課税再開の過程」関西大学大学院法学ジャーナル97号(2019年)21-47頁は,「昭和25年の外国人・外国法人の課税の再開は,きっかけはGHQの覚書で始まり,その内容はシャウプ使節団の影響を受けていない(46頁)」と主張。

かつて非永住者制度の沿革を調べたおりに,私は,シャウプ勧告の「外国人」という一節に着目し,この勧告をうけて,GHQが非円通貨による外国人所得の非課税措置を廃止する旨の覚書を発したと考えた(ジュリスト1128号109頁)。これに対し,昭和25年の租税特別措置法改正の内容については,基本政策の点からは,外国資本とともに外国人が一緒に日本にこなければならないとしたシャウプ勧告の叙述に照応する,とまでしかいえなかった。

この点につき,加野論文は,一歩進んで,シャウプ使節団は特別措置の内容には距離をとっていたと主張している。その論拠をみてみると,戦後財政史口述資料(1951年)を参照して,外国人・外国法人の利子・配当・給与の軽減措置(当時の租税特別措置法3条から5条)につき,これは司令部の要望によるもので,シャウプ勧告は「そういう問題は全然ごめんだというようにさらりとやられた」という発言を引用している(32頁)。理想の租税政策を追い求めた使節団の一面がうかがえる記録であり,それ自体興味深い。

ほかにも,いかにも直接に史料をあたった研究らしい、興味深い点がある。
  • 忠佐市氏らが1947年に行った外国法人3社への聞き取り調査の記録を発掘。当時の外国法人がいろんな理由をつけて源泉徴収義務をなかなか履行したがらない様子が改めて明らかになる(28頁以下)。
  • 安川七郎氏の1951年の論文をもとに制限納税義務者の課税の範囲を追跡(33頁以下)。この部分は,1954年日米租税条約締結前後の議論に接続し,1962年に国内源泉所得の概念を法令で明確化するところにつながっていくであろう。
この論文がndlの検索でヒットしないのは,惜しい。

12 December 2019

令和2年度税制改正大綱

令和2年度税制改正大綱

2019年12月12日
自由民主党
公明党

投資減税で成長後押し 与党税制改正大綱が決定

税・予算
 
政治
2019/12/12 10:04 (2019/12/12 14:47更新)
自民、公明両党は12日午後、2020年度の与党税制改正大綱を正式に決めた。大企業が事業革新のためにスタートアップに出資した際の優遇税制を創設する。少額投資非課税制度(NISA)は24年に新制度に移行し、積み立て型のつみたてNISAも継続する。企業や個人のためたお金を投資に回すための減税措置を重視し、日本の成長力を底上げする。



04 December 2019

IFA Congress Report 2019

2019年9月のIFAロンドン大会の議論が,まとめられた

2つの主な論題と10のセミナーについて,議論の記録が掲載されている。たとえば,セミナーのひとつであるSeminar I Recent Developmentsでは,Arm's Length 2.0の名の下に,今後10年の間に独立企業原則が変容して,比準取引に基づくアプローチよりもヨリ機械的なアプローチが新しい現実になるかが問われる,といった議論がされた(60頁)。

こうして公式のまとめを出すのは手間がかかることであるが,有意義な事業であるので,息長く継続していくことを望みたい。



24 November 2019

消費増税の理論的検討

ジュリスト1539号である。藤谷教授の企画で,なぜいま消費増税なのか(14頁),「新しい経済」がどのような法的問題をもたらすか(15頁),という全体的な問題意識。論者により多くの指摘がなされているところ,とりわけ,
  • たばこ税や酒税などの個別消費税がきわめて逆進的であること(渕教授21頁)
  • 社会保険料の負担構造との比較(神山教授26頁)
  • 通関手続における物理的把握に代えて取引情報の把握を通じた消費税課税を行うという考え方(渡辺教授34頁)
  • 調査官としての消費者(consumers as tax auditors)という視角からの執行戦略(吉村教授38頁)
  • プラットフォームによる独立した経済圏の形成をみすえた制度設計と執行(藤岡教授45頁)
  • 金融サービスを消費税の課税の対象にとりこむための選択肢の提示(吉村教授51-52頁)
といった点が,印象的。私もお声がけいただき,日本マクドナルドの対応や,精通者の対談などを手掛かりに,軽減税率と価格設定の関係について意見を述べた(58頁)。

【特集】消費増税の理論的検討

◇特集にあたって●藤谷武史……14
◇課税ベースとしての消費・再訪●渕 圭吾……18
◇社会保障財源としての消費税――負担構造の観点から●神山弘行……23
◇経済の電子化と消費税制の対応●渡辺智之……30
◇消費税と情報――付加価値税の自己執行メカニズムを中心に●吉村政穂……36
◇「新しい経済」と消費税●藤岡祐治……42
◇非課税取引の再検討――金融取引を中心に●吉村典久……48
◇今後の消費税法上の解釈問題●増井良啓……54

ジュリスト 2019年12月号(No.1539)

20 November 2019

インドでPE帰属利得の討議草案

2019年4月18日付けで,この文書が出ていた。the Central Board of Direct Taxes, Department of Revenue, Ministry of Finance, Government of Indiaあてに提出されていた文書が,パブリックコンサルテーションのために公開されていた。PE帰属利得の範囲の明確化を図るためという。この段階ではインド政府の公式ポジションではないようであるが,インドの議論を垣間見ることができて興味深い。
  • パラ52あたりで,value creationの基準をチクリと批判。
  • 第5章で3つのアプローチを提示して,パラ81でまとめ。
  • 第6章の学説サーベイで売上高基準への志向を示す。
  • 第7章でAOAを批判。
  • 第8章で裁判例をみる。
  • 第9章で明確化のための提案。
  • 第10章で「重要な経済的プレゼンス」につき,user contributionを第4の要素としてカウント(パラ176)。
以上の議論をまとめるのが第11章で,おおきく,売上・労働(マンパワーと賃金)・資産の3要素による配賦によることを勧告(パラ199)。
three equally weighted factors of sales, employees (manpower & wages) and assets,
as under:
Profits attributable to operations in India =
‘Profits derived from India’ x [SI/3xST + (NI/6xNT) +(WI/6xWT) + (AI/3xAT)]
さらに,売上の2%は最低,課税を確保することを盛り込んでいる。

デジタル課税についてインド案と呼ばれてきたものが,どういう国内での背景をもっていたかが,今にして何となくわかる。ちなみに,明日からのPillar Oneに関するOECD事務局案のpublic consultationについては,途上国の中で支持する声もあるが,インドの批判も聞こえてくる。

解説として,Radhakishan Rawal, Attribution of Profits to a Permanent Establishment, APTB, Issue 5, 2019.

16 November 2019

経済のデジタル化,2019年OECDまとめリンク

Pillar Oneに関するpublic commentsが公開されていた。この機会に,2019年1月以降の文書へのリンクをまとめておこう。

1/29 Policy note  日本語アナウンス アナウンス
2/13  Public consultation document  アナウンス
3/08 これに対するpublic comments
3/13-14 Public consultation
5/31 Programme of Work  日本語アナウンス
10/09 Pillar Oneに関するpublic consultation document 日本語アナウンス アナウンス
11/08 Pillar Twoに関するpublic consultation document  アナウンス
11/15 Pillar Oneのpublic comments
11/21-22 Pillar OneのPublic consultation
12/09 Pillar TwoのPublic consultation

(追記)日本語アナウンスをリンク先にしてしまったけれど,ほとんど誤訳に近いレベルの訳語があてられている例があることには,注意が必要。たとえば1/29の日本語アナウンスで「独立起業原則」とあるのは,正しくは「独立企業原則」。また,「永財的に重要な所在地」とあるのは,重要な経済的プレゼンス(significant economic presence)のこと。★だからといって,訳をつけてくれていることに悪口をいうつもりは,全くない。江藤新平は箕作麟祥に「誤訳も妨げず,唯速訳せよ」と命じたという。より早く,より広く,できれば正確な訳が流布することを期待したいだけ★

Main entrance of OECD Conference Centre

29 October 2019

Tax Administration 2019

すでに9月に出ていた報告書である。

第1部の比較税務行政の情報が例年通り充実しているだけでなく,第2部の旬の話題が多彩で面白い。たとえば,第11章では,A blockchain scenario studyと題して,オランダの税務当局の3名が,分散台帳技術(DLT)の今後について4つの将来シナリオを描いている。
  • DLTが経済界や消費者に浸透し,政府がキャッチアップに失敗するシナリオ
  • 政府がDLTが繁栄する余地を設け,DLTがフルに潜在力を発揮するシナリオ
  • 政府がDLTを採用し主導して,情報をフルに取得するシナリオ
  • DLTに対する公衆の信用が失われてしまい,技術がテイクオフに失敗するシナリオ
未成熟の段階における新しい技術に対して政府がどのような態度をとるかによって,将来におけるグリップが異なってくる。つまり,政府がもつ情報上の地位が異なってくる,というのが,このシナリオからわかること(201頁)。どうなるかわからないところで,未来予測をたててみる。外れたとしても,意味がある。

他の章でも,行動洞察(behavioural insights)の応用とか,フリーランサーの納税とか,まさに旬の話題についていろいろと興味深い議論。

国税局,ゴーン被告流用認定,の新聞記事

28 October 2019

私大授業料の消費税法上の「非課税」

私大、悩める授業料 入学者減懸念、転嫁難しく
という記事が,毎日新聞2019年10月24日東京夕刊にでていた。この記事は,リンク先の公開版で読める箇所で,
収入となる授業料や入学金は、教育を受ける側の負担を抑える目的などで非課税とされているが、支出となる施設整備や物品購入費は課税されるからだ。
と述べている。これは,
  • 消費税法の課税事業者たる私立大学は,売上について,授業料や入学金が非課税となる(6条,別表第一11号イ)。
  • しかし,その結果として,仕入税額控除との関係では,課税売上割合が95%に満たないときの区分計算の必要(30条2項)などからして,取引の前段階で消費税が課されていても,税額控除ができない。
  • このことが,授業料などの値上げが難しい中で,経営を圧迫する。
ということだと思われる。上記引用文にいうところの,支出となる施設整備や物品購入費は「課税される」という表現は,前段階の事業者が売上税額を納税しているという意味と,私立大学が仕入税額控除できないという意味とを,両方含意しているものと読んでおきたい。そうなると,病院経営について保険診療報酬との関係でかねてより指摘されてきたような問題と,同型のものであることがわかる。

なお,毎索(毎日新聞記事データベース)で上記記事の全文を読んでみると,いくつかの私立大学の対応が紹介されていて,各大学の広報担当者のプレゼンの仕方が大事なのだなと思わせる。

21 October 2019

ダイナミックプライシング

日経の記事によると,小売業にダイナミックプライシングが広がってきている。
→ということは,消費税込みの価格が,売れ残りを防ぐためにきめ細かく変動するということ。

日本の小売価格の決まり方は,ダカールのバザール店頭で消費者が値切り交渉をして,売り手との間でおおらかなコミュニケーションが行われるような決まり方とは異なっているな,と前から思っていた。いまやこういう具合に,AIを活用した価格設定戦略が出てきているのであったか・・・


ノジマやビック、瞬時に価格変更 需給反映し上げ下げ

スタートアップ
 
ネット・IT
 
サービス・食品
 
小売り・外食
 
AI
2019/10/21 1:30
日本経済新聞 電子版
需給や繁閑をみて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」が小売業に広がってきた。家電量販大手のノジマはこのほど全184店で商品表示をデジタル化した「電子棚札」を導入。ビックカメラも2020年度中に全店で対応する。企業は精緻なデータ分析をもとに柔軟に値段を上げ下げし、需要を取り込む狙いだ。

09 October 2019

OECD Secretary-General Tax Report to G20 Finance Ministers and Central Bank Governors – October 2019

これである。日本語のプレスリリースもある。日経の記事

Public consultation documentはこれ。そこにいうAmount Aは,MNEのグループの超過利益を対象にするから当然にseparate entity approachを踏み越えているし,売上に基づく定式で市場国に配分するからarm's length principleを破る。もちろん,PEなどの既存のthresholdなくしてnexusありとみる。ようやくここまできたか。

Amount Cのところで,legally binding and effective dispute resolutionをかませているところには,仲裁を拒否してきたインドなどへの強烈なメッセージを感ずるところ。

これからが胸突き八丁だろう。Public consultation documentの17頁にpublic comment用の7つのquestionsがあるから,みんなで積極的にinputしていきませう。

06 October 2019

移転価格の問題にすぎない

ある会合で,日本の学者が,それは移転価格の問題にすぎない,と指摘した。韓国から来訪した報告者はただちにその意図を理解し,両者の間でコミュニケーションが成り立った。他の出席者からも,特に追加の指摘がない。ここで,私だけが,なぜそれが移転価格の問題であるのか,共通了解から取り残されている気がした。そこで,報告者が準備した図表を確認し,この取引については当事者の間でこれこれの経済的価値の移転がある点につき,かくかくしかじかの課税をする,という趣旨ですよね,と確認した。報告者の応答は,然り,というもの。

この段階まできて,ようやく気が付いた。指摘をした学者も,報告者も,日本の実定制度としての租税特別措置法66条の4にしばられず,広い意味で移転価格という言葉を用いているのだということを。関連法人間の国際取引に適用範囲を限定するか否かという違いだけではない。66条の4は,独立当事者間価格で取引があったものとして法人税申告をしなければならないと書いてあって,取引価格の是正というたてつけになっている。だから,小松芳明教授などはわざわざ,価格操作規制税制という表現を用いていた。あるがままの取引には手を触れず,操作された価格を是正する,というイメージである。

これに対し,各国の移転価格税制の型が異なることはかねてより知られてきたし,OECD移転価格ガイドラインは「正確に描写された取引の認識」について論ずる中で例外としての取引の引き直しに言及するようになった(パラ1.119以下)。とりわけBEPSプロジェクト以降,税務調査の力点も,国別報告事項などの全体像をもとに,グローバルな利益獲得におけるグループ内各国事業体の果たす役割を大局的にみる傾向が強まり,「ここでもっと利益がでてなければおかしいんじゃないですか?」といった視点になってきているときく。

こういった幅をもった移転価格という言葉について,論者の間では共通了解が成り立っていて,たまたま私がそれについていっていなかった,ということだったようである。会合に出席することで,こうして少しずつ,人様の共通了解と自分の理解とのズレを学んでいくのだろう。

29 September 2019

租税法のキーワード

2019年10月からの消費増税で租税への関心が高まることを予想して,法学教室の10月号でミニ特集「租税法のキーワード」が組まれた。練達の先生方が,わかりやすく解説してくださっている。学生のみなさんには,是非読んでほしい。

◆特集2 租税法のキーワード
1 租税法律主義…渕 圭吾……43
2 課税要件…一高龍司……46
3 消費税の軽減税率…西山由美……49
4 給与所得控除…浅妻章如……52
5 経済のデジタル化と税制…髙橋祐介……55

ちなみに,巻末の「編集デスク」のところで鈴木さんが書かれていることであるが,この10月号の定価表示は
定価1540円(~9月30日 税8%)
定価1569円(10月1日~ 税10%)
本体1426円
となっている。消費税相当分を含めた総額表示で(消費税法63条),移行時期を織り込んだもの。こんな身近なところにも,消費税法が関係している。大学の図書館でオンラインで読める人にとっては,気にならないことかもしれないけれど。

26 September 2019

税制調査会答申(2019)

経済社会の構造変化を踏まえた令和時代の税制のあり方である。

末尾の27頁にリストアップされている主な報告書は,内閣府の次のリンク先から読むことができる。

平成28年6月24日から

平成25年6月24日から平成28年6月23日まで


21 September 2019

Atul Gawande, Being Mortal (2014)

2016年の日本語訳でようやく読んだ。衰え死すべき生物であることが何を意味するか。ひとつひとつのエピソードが心を打つ。原井宏明氏の訳もいい。たとえば,娘のシェリーが父親をアシステッド・リビングに入れたときのくだりは,こんな感じ。
シェリーがもっとも気になったことは,人生で父親が何を大事にしていたか,入所で何を諦めざるをえなかったのかについて施設の職員がほとんど興味を示さなかったことだった。この点について無知であることを自覚すらしていなかった。職員は自分たちのサービスをアシステッド・リビングと呼んでいるかもしれないが,誰ひとりとして父親をアシストして生活できるようにすること――父親にとってもっとも大事な人との絆や喜びをどうすれば保てるのかを考えること――を自分の仕事だと自覚しているようには見えなかった。職員の態度は残酷さよりも,無理解さの結果のようだったが,トルストイが言ったように,この二つの間に根本的な違いがあるのだろうか?(98頁)
ぼくの知らなかったコンセプトも,いろいろと紹介されている。たとえば,社会情動的選択理論(socioeomotional selectivity)。このところ何となく,割引率という概念が気になってきたけれど,残されたタイムスパンに関する視点という説明ですっきりするところがあるような気がする。

みすず書房の上のリンクから一部をダウンロードして読めるし,2015年のこのビデオも見ることができる。

16 September 2019

OECDのTax Certainty Day

OECD releases latest dispute resolution statistics at its first Tax Certainty Day
である。

Mutual Agreement Procedure Statistics for 2018
によると,約75%の移転価格事案が,条約に適合しない課税を全部または一部解決する合意に達しているという。

MAP Outcomes
(cases closed in 2018)



15 September 2019

上田市名誉市民称号贈呈式の模様

上田市名誉市民称号贈呈式(金子宏氏)
59 views•Published on Sep 11, 2019
である。

上田市役所のページは,ここ

金子宏 氏 (令和元年度贈呈)

金子宏氏写真
 金子宏氏は、昭和5年に殿城村(現在の上田市殿城)で生まれ、上田松尾高等学校(現在の上田高等学校)を卒業し、東京大学法学部に入学。卒業後は、同学部の助教授、教授を歴任し、現在は東京大学名誉教授。
 租税に関する研究を重ね、租税法を独立した法分野に発展させるとともに、地方税法においても公正・適正な課税に多大な影響を与え、地方自治に貢献されました。また、課税要件の理論的解明という課題に初めて取り組み、今日の租税法学の基礎を築かれました。
 既存の租税制度の改善についても、長期にわたり政府税制調査会の審議に参加し、昭和63年の抜本税制改正の基礎となった答申の作成において中心的な役割を果たされました。
 特に、固定資産税については、地方財政審議会特別委員として、総務大臣の諮問に応じて固定資産評価基準の改正に貢献されています。
 このような多年にわたる功績が評価され、平成30年11月に上田市出身では初となる「文化勲章」を受章されました。

14 September 2019

会計検査研究に,租税支出関係の論文

第58号(2018年9月発行)
イギリス及びスウェーデンの予算過程における租税支出と会計検査院-付加価値税の租税支出を意識して-(PDF形式:9,063KB) 関口 智
である。付加価値税についても国民への説明責任を果たそうとしている両国の経験が,興味深い。関口教授は,結びのところで,次のように述べている。
日本が軽減税率を導入するということは,C効率性の低下を招くことになる。つまり,税収調達力の低下と,それによる国民への受益の姿を説明する必要性が高まることになる。
すこしバックナンバーをみてみると,会計検査研究は,2017年3月にも租税支出の特集を組んでいた。

会計検査研究第55号
区分タイトル著者
巻頭言租税支出の政治的要素と政策的含意(PDF形式:881KB)横山 彰
特集号:「租税支出と評価」によせて米国における租税歳出の定義を巡る議論とわが国税制へのインプリケーション(PDF形式:856KB)森信 茂樹
特集号:寄稿論文地方自治体の税負担軽減措置について-アメリカ州政府の租税支出レポートを中心に-(PDF形式:1,781KB)上村 敏之
特集号:寄稿論文法人課税の租税特別措置-実態と経済的帰結-(PDF形式:1,210KB)佐藤 主光
特集号:寄稿論文租特透明化法等の意義と限界-租税特別措置の透明性はどこまで高まったのか-(PDF形式:1,054KB)田中 秀明
特集号:査読付き論文寄附金控除制度と租税支出-公益法人の寄附金収入に与える影響に関する実証分析-(PDF形式:993KB)高橋 隆幸
野間 幹晴
黒木 淳
八幡 修啓

07 September 2019

名古屋高判平成29年12月14日 金地金の持込み

Xさんが,以前に購入していた金地金36kg(本件金地金)を,三菱マテリアル(A社)の名古屋店に持ち込んだ。A社の精錬した金地金とスワップ取引をして,A社で保管。四日市税務署長は,「資産の譲渡」ありとして,所得税の更正処分。

名古屋地判平成29年6月29日は,「資産の譲渡」ありとした。いわく,
交換としての法的性質を有する本件スワップ取引により、原告が所有していた本件金地金の所有権がAに移転し、その対価(反対給付)として原告に所有権が移転した同社にて製錬した金地金をもって、原告による本件金地金の保有期間中に抽象的に発生していた増加益が具体化されたものと解するのが相当である。そうすると、本件スワップ取引により、本件金地金について「資産の譲渡」があったものというべきである。
これに対し,名古屋高判平成29年12月14日は,「資産の譲渡」なしとした。すなわち,
本件契約のうち、本件交換・保管取引は、交換と寄託(混蔵寄託)からなる混合契約の形をとっているものの、スワップ取引部分に係る交換は、寄託(混蔵寄託)をするための単なる準備行為にすぎず、本件交換・保管取引は、実質的には寄託(混蔵寄託)契約であると認めるのが相当である。 
としたうえで,次のように述べる。
本件交換・保管取引は、実質的には寄託(混蔵寄託)契約であり、所得税法33条1項に規定する「資産の譲渡」に該当しない。したがって、控訴人が、本件スワップ取引により本件金地金を交換したことは、「資産の譲渡」に該当しない。
この事件はこれで確定。

契約で交換と寄託の両方があるとしている以上,契約解釈として交換の部分を無視するのは,やや苦しい。所得税法33条1項の「譲渡」概念の解釈の側から,譲渡担保について「譲渡」なしとする取り扱いや,所得税法58条の交換特例の起源が実務取り扱いにあったことが,手がかりになりうるか。阿部雪子・新判例解説Watch, Vol.24, 219は,所得が実現しているが課税を繰り延べるという考え方。

インターネット上で,「金 取引」で検索するだけで,ずいぶんたくさんの情報がヒットする。「gold irs」の検索だと,米国の貴金属業者が課税やマネロンのルールをたくさん紹介しているから,ちょっとした比較法もできそう。ゼミ報告の小論文などに,うってつけの素材だろう。

日比谷図書文化館,ドナルド・キーン追悼企画

たまたま立ち寄ったときに,
追悼企画 関連展示
「ドナルド・キーンが遺したものと日本語教科書」
〇 期間:2019 年 9 月 1 日(日)~10 月 20 日(日)
〇 場所:日比谷図書文化館 3 階 図書フロア エレベータ前ホール
を見た。キーンさんが米国海軍日本語学校で使った『標準日本語讀本』が展示してある。学習者の知的好奇心をかきたてる,すぐれた教科書だった。19歳のキーンさんは,難しい漢字を何度も何度も書いておぼえ,外国語としての日本語を習得した。

日比谷図書文化館がイベントや展示をしていることは,以前から知らないではなかった。でも,これほど面白いものだと,今回はじめて感じた。また行ってみたい。

ドナルド・キーン氏追悼企画チラシ画像.png

01 September 2019

仏デジタルサービス税vs.米ワイン関税引き上げ

The Economistの8月22日付けのこの記事は,フランスが7月25日に導入したデジタルサービス税(DST)について論評する。

まず,フランスのDSTは,GAFA税と通称されており,米国の大きなIT企業を対象にし,しかも課税対象となるサービスも選択的に設計している。つまりフランスのDSTは一国主義的な措置。

ここから先が,今後起こることへの予測になる。米トランプ政権の対応として,大きくふたつの方向。
1)国際協調の方向でのシナリオーー米のWTOへの提訴,さらに,OECDにおける経済のデジタル化をめぐる国際合意策定プロセスの加速(国際合意ができたらDSTをやめると仏はいっている)
2)一国主義の方向でのシナリオーー米国がフランスから輸入するワインなどを標的に関税を引き上げる

視界に飛び込む次の絵から受ける印象は,明らかに2)の方向である。


30 August 2019

日米租税条約を改正する議定書が,発効

財務省の2019年8月30日付けのこの報道発表である。2013年1月に署名されてから,米国上院の承認が遅れて,ようやく発効に至った。2013年6月発表の紹介論文。その後,(米国が署名していない)BEPS防止措置実施条約が,米国以外との国々と日本国の間で締結された二国間租税条約を,塗り替えてきている。

2019年8月30日
財務省

アメリカ合衆国との租税条約を改正する議定書が発効しました

1 本日、日本国政府とアメリカ合衆国政府との間で「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約を改正する議定書」(2013年1月24日署名)を発効させるための批准書の交換が東京で行われました。

2 これにより、本改正議定書は、本日(批准書の交換の日)、効力を生じ、次のものについて適用されることとなります。
 (1) 源泉徴収される租税に関しては、2019年11月1日以後に支払われ、又は貸記される額
 (2) その他の租税に関しては、2020年1月1日以後に開始する各課税年度

  仲裁に関する規定は、次のものについて適用されることとなります。
 (1) 本日において両国の税務当局が検討を行っている事案
 (2) 本日の後に検討が行われる事案

  情報交換及び徴収共助に関する規定は、対象となる事案又は租税債権に係る課税年度にかかわらず、本日から適用されます。

【参考】本改正議定書の条文及び概要
・「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約を改正する議定書」(和文(PDF:118KB)英文(PDF:80KB)
・「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国政府とアメリカ合衆国政府との間の条約を改正する議定書によって改正される条約等に関する交換公文」(和文(PDF:111KB)英文(PDF:47KB)
・本改正議定書の概要

29 August 2019

SMU David R Tillinghast Global Taxation Conference 2020: BEPS 2.0: Voices from a Digital Asia

経済のデジタル化をめぐって,国際会議の案内が出ていた。下記末尾にcall for papersあり。

SMU David R Tillinghast Global Taxation Conference 2020: BEPS 2.0: Voices from a Digital Asia

The Tax Academy proudly supports the SMU David R Tillinghast Global Taxation Conference that will be held in Singapore on 31 March and 1 April 2020.
The inexorable march of technological advancements and rapid evolutions in business models across entire industries, both in the digital and the “digitalized” economy, are challenging the traditional norms of international taxation as never before. The focus will be on Asia-Pacific perspectives in addressing the challenges of digitalisation, a voice that is seldom heard in the vigorous international debates around redesigning international taxation around an architecture that will be future-ready for therapidly evolving business models arising from disruptive technologies such as Artificial Intelligence, Cloud Computing, Big Data, 5G, Fintec, the Sharing economy and the 4th Industrial Revolution and the Internet of Things.
Call for Papers!

28 August 2019

米国2017年税制改正の国際課税の論点整理

Congressional Research Serviceによるこの報告書。2017年税制改正による外国子会社配当益金不算入,GILTI, FDIIといった基本的なルールの意味を整理したうえで,GILTIやBEATなどによせられた批判に対応して改正の選択肢を記している。経済のデジタル化をめぐって浮上しているミニマム税について理解するうえでも,役に立つ。

27 August 2019

連結納税制度の見直しについて

税制調査会総会に報告された,専門家委員会のこの文書である。

当日の資料一覧は,以下からダウンロードできる。

第24回 税制調査会(2019年8月27日)資料一覧