29 October 2019

Tax Administration 2019

すでに9月に出ていた報告書である。

第1部の比較税務行政の情報が例年通り充実しているだけでなく,第2部の旬の話題が多彩で面白い。たとえば,第11章では,A blockchain scenario studyと題して,オランダの税務当局の3名が,分散台帳技術(DLT)の今後について4つの将来シナリオを描いている。
  • DLTが経済界や消費者に浸透し,政府がキャッチアップに失敗するシナリオ
  • 政府がDLTが繁栄する余地を設け,DLTがフルに潜在力を発揮するシナリオ
  • 政府がDLTを採用し主導して,情報をフルに取得するシナリオ
  • DLTに対する公衆の信用が失われてしまい,技術がテイクオフに失敗するシナリオ
未成熟の段階における新しい技術に対して政府がどのような態度をとるかによって,将来におけるグリップが異なってくる。つまり,政府がもつ情報上の地位が異なってくる,というのが,このシナリオからわかること(201頁)。どうなるかわからないところで,未来予測をたててみる。外れたとしても,意味がある。

他の章でも,行動洞察(behavioural insights)の応用とか,フリーランサーの納税とか,まさに旬の話題についていろいろと興味深い議論。

国税局,ゴーン被告流用認定,の新聞記事

28 October 2019

私大授業料の消費税法上の「非課税」

私大、悩める授業料 入学者減懸念、転嫁難しく
という記事が,毎日新聞2019年10月24日東京夕刊にでていた。この記事は,リンク先の公開版で読める箇所で,
収入となる授業料や入学金は、教育を受ける側の負担を抑える目的などで非課税とされているが、支出となる施設整備や物品購入費は課税されるからだ。
と述べている。これは,
  • 消費税法の課税事業者たる私立大学は,売上について,授業料や入学金が非課税となる(6条,別表第一11号イ)。
  • しかし,その結果として,仕入税額控除との関係では,課税売上割合が95%に満たないときの区分計算の必要(30条2項)などからして,取引の前段階で消費税が課されていても,税額控除ができない。
  • このことが,授業料などの値上げが難しい中で,経営を圧迫する。
ということだと思われる。上記引用文にいうところの,支出となる施設整備や物品購入費は「課税される」という表現は,前段階の事業者が売上税額を納税しているという意味と,私立大学が仕入税額控除できないという意味とを,両方含意しているものと読んでおきたい。そうなると,病院経営について保険診療報酬との関係でかねてより指摘されてきたような問題と,同型のものであることがわかる。

なお,毎索(毎日新聞記事データベース)で上記記事の全文を読んでみると,いくつかの私立大学の対応が紹介されていて,各大学の広報担当者のプレゼンの仕方が大事なのだなと思わせる。

21 October 2019

ダイナミックプライシング

日経の記事によると,小売業にダイナミックプライシングが広がってきている。
→ということは,消費税込みの価格が,売れ残りを防ぐためにきめ細かく変動するということ。

日本の小売価格の決まり方は,ダカールのバザール店頭で消費者が値切り交渉をして,売り手との間でおおらかなコミュニケーションが行われるような決まり方とは異なっているな,と前から思っていた。いまやこういう具合に,AIを活用した価格設定戦略が出てきているのであったか・・・


ノジマやビック、瞬時に価格変更 需給反映し上げ下げ

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2019/10/21 1:30
日本経済新聞 電子版
需給や繁閑をみて価格を変動させる「ダイナミックプライシング」が小売業に広がってきた。家電量販大手のノジマはこのほど全184店で商品表示をデジタル化した「電子棚札」を導入。ビックカメラも2020年度中に全店で対応する。企業は精緻なデータ分析をもとに柔軟に値段を上げ下げし、需要を取り込む狙いだ。

09 October 2019

OECD Secretary-General Tax Report to G20 Finance Ministers and Central Bank Governors – October 2019

これである。日本語のプレスリリースもある。日経の記事

Public consultation documentはこれ。そこにいうAmount Aは,MNEのグループの超過利益を対象にするから当然にseparate entity approachを踏み越えているし,売上に基づく定式で市場国に配分するからarm's length principleを破る。もちろん,PEなどの既存のthresholdなくしてnexusありとみる。ようやくここまできたか。

Amount Cのところで,legally binding and effective dispute resolutionをかませているところには,仲裁を拒否してきたインドなどへの強烈なメッセージを感ずるところ。

これからが胸突き八丁だろう。Public consultation documentの17頁にpublic comment用の7つのquestionsがあるから,みんなで積極的にinputしていきませう。

06 October 2019

移転価格の問題にすぎない

ある会合で,日本の学者が,それは移転価格の問題にすぎない,と指摘した。韓国から来訪した報告者はただちにその意図を理解し,両者の間でコミュニケーションが成り立った。他の出席者からも,特に追加の指摘がない。ここで,私だけが,なぜそれが移転価格の問題であるのか,共通了解から取り残されている気がした。そこで,報告者が準備した図表を確認し,この取引については当事者の間でこれこれの経済的価値の移転がある点につき,かくかくしかじかの課税をする,という趣旨ですよね,と確認した。報告者の応答は,然り,というもの。

この段階まできて,ようやく気が付いた。指摘をした学者も,報告者も,日本の実定制度としての租税特別措置法66条の4にしばられず,広い意味で移転価格という言葉を用いているのだということを。関連法人間の国際取引に適用範囲を限定するか否かという違いだけではない。66条の4は,独立当事者間価格で取引があったものとして法人税申告をしなければならないと書いてあって,取引価格の是正というたてつけになっている。だから,小松芳明教授などはわざわざ,価格操作規制税制という表現を用いていた。あるがままの取引には手を触れず,操作された価格を是正する,というイメージである。

これに対し,各国の移転価格税制の型が異なることはかねてより知られてきたし,OECD移転価格ガイドラインは「正確に描写された取引の認識」について論ずる中で例外としての取引の引き直しに言及するようになった(パラ1.119以下)。とりわけBEPSプロジェクト以降,税務調査の力点も,国別報告事項などの全体像をもとに,グローバルな利益獲得におけるグループ内各国事業体の果たす役割を大局的にみる傾向が強まり,「ここでもっと利益がでてなければおかしいんじゃないですか?」といった視点になってきているときく。

こういった幅をもった移転価格という言葉について,論者の間では共通了解が成り立っていて,たまたま私がそれについていっていなかった,ということだったようである。会合に出席することで,こうして少しずつ,人様の共通了解と自分の理解とのズレを学んでいくのだろう。