24 November 2019

消費増税の理論的検討

ジュリスト1539号である。藤谷教授の企画で,なぜいま消費増税なのか(14頁),「新しい経済」がどのような法的問題をもたらすか(15頁),という全体的な問題意識。論者により多くの指摘がなされているところ,とりわけ,
  • たばこ税や酒税などの個別消費税がきわめて逆進的であること(渕教授21頁)
  • 社会保険料の負担構造との比較(神山教授26頁)
  • 通関手続における物理的把握に代えて取引情報の把握を通じた消費税課税を行うという考え方(渡辺教授34頁)
  • 調査官としての消費者(consumers as tax auditors)という視角からの執行戦略(吉村教授38頁)
  • プラットフォームによる独立した経済圏の形成をみすえた制度設計と執行(藤岡教授45頁)
  • 金融サービスを消費税の課税の対象にとりこむための選択肢の提示(吉村教授51-52頁)
といった点が,印象的。私もお声がけいただき,日本マクドナルドの対応や,精通者の対談などを手掛かりに,軽減税率と価格設定の関係について意見を述べた(58頁)。

【特集】消費増税の理論的検討

◇特集にあたって●藤谷武史……14
◇課税ベースとしての消費・再訪●渕 圭吾……18
◇社会保障財源としての消費税――負担構造の観点から●神山弘行……23
◇経済の電子化と消費税制の対応●渡辺智之……30
◇消費税と情報――付加価値税の自己執行メカニズムを中心に●吉村政穂……36
◇「新しい経済」と消費税●藤岡祐治……42
◇非課税取引の再検討――金融取引を中心に●吉村典久……48
◇今後の消費税法上の解釈問題●増井良啓……54

ジュリスト 2019年12月号(No.1539)

20 November 2019

インドでPE帰属利得の討議草案

2019年4月18日付けで,この文書が出ていた。the Central Board of Direct Taxes, Department of Revenue, Ministry of Finance, Government of Indiaあてに提出されていた文書が,パブリックコンサルテーションのために公開されていた。PE帰属利得の範囲の明確化を図るためという。この段階ではインド政府の公式ポジションではないようであるが,インドの議論を垣間見ることができて興味深い。
  • パラ52あたりで,value creationの基準をチクリと批判。
  • 第5章で3つのアプローチを提示して,パラ81でまとめ。
  • 第6章の学説サーベイで売上高基準への志向を示す。
  • 第7章でAOAを批判。
  • 第8章で裁判例をみる。
  • 第9章で明確化のための提案。
  • 第10章で「重要な経済的プレゼンス」につき,user contributionを第4の要素としてカウント(パラ176)。
以上の議論をまとめるのが第11章で,おおきく,売上・労働(マンパワーと賃金)・資産の3要素による配賦によることを勧告(パラ199)。
three equally weighted factors of sales, employees (manpower & wages) and assets,
as under:
Profits attributable to operations in India =
‘Profits derived from India’ x [SI/3xST + (NI/6xNT) +(WI/6xWT) + (AI/3xAT)]
さらに,売上の2%は最低,課税を確保することを盛り込んでいる。

デジタル課税についてインド案と呼ばれてきたものが,どういう国内での背景をもっていたかが,今にして何となくわかる。ちなみに,明日からのPillar Oneに関するOECD事務局案のpublic consultationについては,途上国の中で支持する声もあるが,インドの批判も聞こえてくる。

解説として,Radhakishan Rawal, Attribution of Profits to a Permanent Establishment, APTB, Issue 5, 2019.

16 November 2019

経済のデジタル化,2019年OECDまとめリンク

Pillar Oneに関するpublic commentsが公開されていた。この機会に,2019年1月以降の文書へのリンクをまとめておこう。

1/29 Policy note  日本語アナウンス アナウンス
2/13  Public consultation document  アナウンス
3/08 これに対するpublic comments
3/13-14 Public consultation
5/31 Programme of Work  日本語アナウンス
10/09 Pillar Oneに関するpublic consultation document 日本語アナウンス アナウンス
11/08 Pillar Twoに関するpublic consultation document  アナウンス
11/15 Pillar Oneのpublic comments
11/21-22 Pillar OneのPublic consultation
12/09 Pillar TwoのPublic consultation

(追記)日本語アナウンスをリンク先にしてしまったけれど,ほとんど誤訳に近いレベルの訳語があてられている例があることには,注意が必要。たとえば1/29の日本語アナウンスで「独立起業原則」とあるのは,正しくは「独立企業原則」。また,「永財的に重要な所在地」とあるのは,重要な経済的プレゼンス(significant economic presence)のこと。★だからといって,訳をつけてくれていることに悪口をいうつもりは,全くない。江藤新平は箕作麟祥に「誤訳も妨げず,唯速訳せよ」と命じたという。より早く,より広く,できれば正確な訳が流布することを期待したいだけ★

Main entrance of OECD Conference Centre