25 July 2020

金融庁,恒久的施設に係る参考事例集の一部改定

7月22日付けで一部改定されていた。改定の趣旨として,次のように説明されている

  • 金融商品取引法第二条に規定する定義に関する内閣府令が改正され、海外の投資運用業者が、海外における業務を継続することが困難になった場合に、金融庁長官の承認を得て日本で一時的に業務を継続できることとなりました。
  • これを受け、金融庁は、当該承認を得て日本で一時的に業務を継続する者の独立代理人の要件等の明確化を図るため、関係当局と協議し、今般、国外ファンドと投資一任契約を締結し特定の投資活動を行う国内の投資運用業者と同様に独立代理人に該当するかどうかの判定を行うこととして、「参考事例集」等を改定しましたので公表します。

→本体は以下からみることができる。

「参考事例集」(PDF:134KB)(令和2年7月22日一部改定)

「Q&A」(PDF:67KB)(令和2年7月22日一部改定)


→なお,同日付けで出された災害等により海外における業務継続が困難になった金融事業者が本邦で一時的に業務を行うための承認制度に関するQ&Aにも,PEについて次の短い言及がある。以下そのまま引用する。
【税法関係】(問3) 外国投資運用業者の役職員が業務継続の目的で来日し、国内で賃借したオフィス、または国内関連投資運用業者のオフィス内で業務継続を一定期間(90 日以内)行う場合、業務継続のみを行うのであれば、当該外国投資運用業者の顧客への営業活動を当該オフィスから行ったとしても、その場所が税法上の恒久的施設(いわゆる PE)として認定されることはない、との理解でよいか。(答)本制度の活用によって、税法の解釈に何らかの変更がなされるものではなく、個々に判断されることになりますので、個別に税務署等にご相談ください。

22 July 2020

Intertaxの48巻8/9号でコロナ特集

「新型コロナと財政政策」の特集として13編。おおまかに分けて,総説編,地域編,国際課税編といったくくり。最後の論文などはかなり辛口で,租税条約の適用について今期のゼミで議論したことと密接に関連。

COVID-19 Nordic Responses (p. 754) 

Åsa HanssonCécile Brokelind

COVID-19 and Fiscal Policies: Tax Policy and the COVID-19 Crisis (p. 794) 

John VellaAlice PirlotRichard Collier

12 July 2020

Doumaさんの人気courseraはこんなシラバスだった

Rethinking International Tax Lawのオンラインコースは2016年くらいから好意的なレビューがあるし,受講者数も多い(本日現在で37815人登録だった)。そこで,オンライン授業の環境になったのをきっかけに,そのシラバスがどうなっているかを眺めてみた(我流Faculty Developmentのつもり)。

6週間の計画で,多国籍企業の国際的タックスプランニングを理解しようとする。そしてこの目標に至るために必要な知的道具立てを,いくつかの柱をたてて講じる。次の構成だ。
  • 国際的タックスプランニング―基本設例(base case)の提示
  • 法人税制のデザイン
  • 国際課税と租税条約の原則
  • 移転価格
  • EU法と国家補助
  • タックスプランニングと倫理的側面
まず第1週ではbase caseとして,多国籍企業がどういうふうに国際的タックスプランニングをしているかを示す。受講者の関心をかきたてるためのいわゆる「つかみ」か。具体的には,2014年の欧州委員会による調査文書をもとに,Amazonがルクセンブルグに知的財産保有会社をおいて欧州各国に進出したときのしくみが紹介される。この例は,米国法とルクセンブルグ法のミスマッチとか,利子費用の控除によって課税所得が減少することとか,ルクセンブルグ課税当局がAmazonに与えたtax rulingとか,それがEU法上の国家補助金の禁止ルールとの関係で問題になることとか,初回にしてはずいぶんいろいろなことが入っている。そこで,これらをひとつひとつ解きほぐしていくだよ,と受講者を安心させて,第2週以下の構成につなげる。

こうして到達目標をはじめに提示しているので,その後の数週間分の学習の方向性がくっきりと見えることになる。なので,法人税制のデザインとか,源泉地課税と居住地課税の調整とか,移転価格とか,EU法上の国家補助とか,それぞれの学習内容はいたってオーソドックスな教科書的内容であっても,受講者は「やっていこう」という動機が継続できるだろう。山頂への見晴らしがよい登山道を歩いていくようなものだ。第6週には,全体のまとめとして,いろいろなステークホールダー(国際機関・各国政府・多国籍企業・アドバイザー・NGOなど)のキー・パーソンにインタビューしている。多様な立場があることを受講者に実感してもらうことで,タックスプランニングの倫理的側面に注意を向けるというやり方。

オンライン授業の工夫もいろいろ参考になる。
  • courseraらしくビデオを数分単位で細分化してある。
  • ビデオの途中で,「ここはつまづくかな」というポイントで,2択の簡単な質問が出てきて,受講者の知識習得を確認して次に進む,というつくり。
  • 毎週,van Raadさんへのインタビューがある。
  • 応用編のトラックがあって,「一歩先に」行きたい人がみることができる(たとえば移転価格の週には無形資産の応用編)。
  • ビデオを文字に書き起こしたファイルもある。
  • 必読文献と参考文献を区別してリンクをはってある。
レビューにもあったが,BEPS実施やEU法のその後の動きを反映しておらず,すこし古くなっている感じはある。DoumaさんもLeidenからAmsterdamに移ったから,まったく同じ形でのアップデートが出るのかどうかはわからない。とはいえ,国際課税を速習するコース設計のひとつの到達点としていまでも参照できると思う。

05 July 2020

最判令和2・7・2クラヴィス事件

消費者金融業者Xが,顧客から受領した制限超過利息等に係る収益の額を益金計上して法人税申告
→Xが破産,過払返還請求権に係る破産債権が確定
→Xが破産債権者に一部を配当
Xが更正の請求(その理由は,過払金返還請求権に係る破産債権が破産手続において事後的に確定した場合には,当該請求権の発生原因となった制限超過利息等に係る受領金額を当該受領の日が属する各事業年度に遡って益金の額から減額して計算すべきであるというもの)
大阪高判平成30年10月19日判例タイムズ1458号124頁がこれを認めていたところ,最高裁で破棄自判。

最高裁は,まず一般的に,次のように述べる。
  • 法人税の課税においては,事業年度ごとに収益等の額を計算することが原則であるといえるから,貸金業を営む法人が受領し,申告時に収益計上された制限超過利息等につき,後にこれが利息制限法所定の制限利率を超えていることを理由に不当利得として返還すべきことが確定した場合においても,これに伴う事由に基づく会計処理としては,当該事由の生じた日の属する事業年度の損失とする処理,すなわち前期損益修正によることが公正処理基準に合致するというべきである。
そして,破産した法人の場合についても,次のように述べて同じことがあてまはるとする。
  • 法人税法は,事業年度ごとに区切って収益等の額の計算を行うことの例外として,例えば,特定の事業年度に発生した欠損金額が考慮されずに別の事業年度の所得に対して課税が行われ得ることに対しては,青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越し(57条)及び欠損金の繰戻しによる還付(80条)等の制度を設け,また,解散した法人については,残余財産がないと見込まれる場合における期限切れ欠損金相当額の損金算入(59条3項)等の制度を設けている。課税関係の調整が図られる場合を定めたこのような特別の規定が,破産者である法人についても適用されることを前提とし,具体的な要件と手続を詳細に定めていることからすれば,同法は,破産者である法人であっても,特別に定められた要件と手続の下においてのみ事業年度を超えた課税関係の調整を行うことを原則としているものと解される。そして,同法及びその関係法令においては,法人が受領した制限超過利息等を益金の額に算入して法人税の申告をし,その後の事業年度に当該制限超過利息等についての不当利得返還請求権に係る破産債権が破産手続により確定した場合に前期損益修正と異なる取扱いを許容する特別の規定は見当たらず,また,企業会計上も,上記の場合に過年度の収益を減額させる計算をすることが公正妥当な会計慣行として確立していることはうかがわれないことからすると,法人税法が上記の場合について上記原則に対する例外を許容しているものと解することはできない。このことは,上記不当利得返還請求権に係る破産債権の一部ないし全部につき現に配当がされ,また,当該法人が現に遡って決算を修正する処理をしたとしても異なるものではない。
こうして,「上記の場合において,当該制限超過利息等の受領の日が属する事業年度の益金の額を減額する計算をすることは,公正処理基準に従ったものということはできないと解するのが相当である。」と述べて,本件について更正の請求の要件を満たさないとした。これが原判決を破棄する理由。

さらに,次のように述べて,自判。
  • 以上に説示したところによれば,本件各通知処分が最後配当及び追加配当がされる前にされたことをもって違法であるということもできないから,本件各通知処分は適法であり,また,上告人が本件債権1及び2の発生原因となった制限超過利息等に対応する法人税相当額を保持することについて法律上の原因がないということもできない。したがって,被上告人の主位的請求及び予備的請求に理由がないことは明らかであり,これらの請求をいずれも棄却した第1審判決は正当であるから,被上告人の控訴を棄却すべきである。

IFA Cahier 2020が出ていた

1939年以来のcahierで,今回はその第105巻になる。

まず105aが,BEPS防止措置条約実施条約(MLI)によって租税条約ネットワークがどう変わっているかを検討。General Reportは次の2部構成。
Part One: Impact of the BEPS Actions and the MLI on the Tax Treaty Network
1.1. Background to the BEPS Actions and the MLI
1.2. Direct impact of the BEPS Actions and the MLI
1.3. Indirect impact of the BEPS Actions and the MLI(BEPSプロジェクトの過程で締結された二国間租税条約や,MLI署名後に締結された二国間租税条約に対する影響)
Part Two: Practical Implementation of Provisions of the MLI
2.1. Procedural aspects(批准や統合テクストの問題)
2.2. Interpretation issues relating to the MLI and the covered tax agreements
2.3. Interpretation issues relating to other tax treaties
2.4. Tax planning after the BEPS Action Plan
41の支部レポートをもとに,租税条約ネットワークがどう変容しているかを実証的に示している。日本の支部レポートは中村真由子会員が執筆。

105bは,情報交換の問題を扱う。General Reportは次の章立て。
1. Instruments and processes of international application
2. Instruments and processes of regional application(EU法とUS FATCA)
3. Select issues on the handling of tax information subjected to EOI(秘密保持・データ保護・内部通報保護・盗まれたデータの使用)
4. Impacts of virtual currencies on the established EOI frameworks
5. Conclusion
40の支部レポートとEUレポートが基礎になっている。日本の支部レポートは安井欧貴会員が執筆。EUレポート81頁では,欧州司法裁判所に係属中のこの事件についてもコメントされている。

コロナ渦の中,例年どおり国際共同研究の成果が公表されることになってよかった。11月にはオンラインのプログラムを予定。