30 November 2020

首藤重幸教授古稀祝賀退職記念論集がアップされていた

ここと,ここから,ダウンロードできる。目次は,以下のとおり。

江泉芳信教授 加藤哲夫教授 首藤重幸教授 古稀祝賀退職記念論集 早稲田法学第95巻第 3 号(第 2 分冊)
 論 説
要綱行政の再検討   李   斗 領  (189)
審査請求における審査庁の管轄決定の標準時    岡 田 正 則  (225)
イギリスにおける司法審査請求の今日的要件についての一考察─いわゆる「第 2 段階目の上訴に関する基準:Second Appeal Criteria」の司法審査請求への適用の意義と射程─    長 内 祐 樹  (243)
我が国国際租税法における法令遵守確保策─OECD/ICAP プログラムを展望して─ 川 端 康 之  (269)
持続可能な土地市場政策・法への模索(下)─ドイツにおける農業構造の変動と農林地取引法の動揺─ 楜 澤 能 生  (291)
フクシマ後の原発安全規制と司法審査─基本設計論に着目して─  黒 川 哲 志  (337)
事業承継税制の諸問題   小 池 正 明  (355)
ロースクールでの行政法教育とその成果    小 島 延 夫  (385)
許認可又は免許の更新   小 林 博 志  (413)
原子力規制の変化と行政訴訟に関する一考察─川内原発設置変更許可取消訴訟・福岡地裁判決の検討を中心に─ 下 山 憲 治  (441)
行政の裁判的統制におけるコンセイユ・デタモデルの可能性─ヨーロッパ比較行政裁判制度からみたフランス─ 杉 原 丈 史  (465)
制限行為能力者の納税義務履行行為に関する若干の考察─租税法における私人の行為に係る基礎的考察─ 高 野 幸 大  (495)
自衛隊災害派遣法制の一考察  田 村 達 久  (525)
処分性拡大再論と訴訟選択論に関する一試論    趙   元 済  (551)
消費課税における中小事業者─消費税の性質論を基礎として─  西 山 由 美  (583)
市場規制としてのプリンシプルとその実効性確保    坂 東 洋 行  (607)
地方議会による所属議員に対する出席停止の懲罰議決の司法審査について   人 見   剛  (639)
違法な課税処分をめぐる国家賠償訴訟─固定資産税の誤課税に関する公定力克服の「その後」─ 平 川 英 子  (665)
税務行政の ICT 化の現状と当面の課題    藤 曲 武 美  (691)
地方交付税法第 6 条の 3 第 2 項の解釈と運用    森   稔 樹  (717)
防衛の需要を充足するための土地調達をめぐる法的問題について─ドイツにおける防衛目的の土地調達における衡量判断の枠組みを参照して─  山 田 真 一 郎  (741)
イギリスにおける付加価値税制度と税収ギャップ(Tax Gap)    山 元 俊 一  (771)
学術世界の生態系─アメリカ連邦取引委員会 vs. OMICS 事件を契機として─ 山 本 順 一  (797)
株式対価 M&A と課税─株式交付に対応する課税制度のあり方─ 渡 辺 徹 也  (825)

28 November 2020

ITをめぐる国際政治,米欧の「大取引」を求める論説

The Economist誌2020年11月21日付けBriefingの,次の記事である。
A grand bargain

その論旨はおおきく,3段から成る。
1)ITにおける米国の覇権に中国が挑戦しているとの認識の下で,トランプ政権はHuawei排除などdecouplingに動いたが,今後の米国はEUやインド,日本などと組むべきだ。米欧対立は競争・課税・プライバシーなど多くの局面で存在するが,妥協の余地はある。国が私企業のようにふるまう傾向を放置すると,インターネットの分断(splinternet)によりデジタル保護主義が蔓延してしまう。
2)こういう背景のもとで,いまこそ,大きな取引(a grand bargain)が必要だ。欧州は米IT企業の権益を保障し,その代わり,米国は規制や課税などを受け入れる。問題はそれをどこまで公式のしくみにするか。
3)妥協に至るのは難しい。しかし,二国間協定やゆるい協力よりも,より頑健で(robust)で特化したアプローチが必要だ。たとえばWorld Data OrganizationとかGADD(General Agreement on Data and Digital InfrastructureつまりデジタルインフラにおけるGATT,これなども参照)のようなもの。

この記事が英国の視点から書かれていることに注意は必要である。2)でいう「大取引」の妥協の内容などは,欧州にとって虫のいいことをいっているような気がしなくもない。しかし,なかなかよく取材してある。かつての地政学は地理的領域を基礎にしていたところ,デジタル化の進んだいまや,分析の単位はプラットフォームである,という指摘(第16段落)などは,なかなか秀逸だ。21世紀前半における体制選択が,技術の在り方にかかっている。自由な民主主義を掲げる国々が,どうやって協調路線を組むか。第12段落や第13段落では,Robert Knakedigital trade zoneや,それよりもよりゆるやかな提案として,日本のAPIが米のCNASと独のMERICSとともに打ち出したtechnology allianceに言及している。G20で2019年に打ち出されたOsaka Trackや,Global Parthership in AI(これに関する日本の記事)なども,「大取引」にむけての萌芽として言及されている。

問題はもちろん,3)で論じられているように,「本当に現実化するのか?」だ。この記事は,最後の第34段落で,1944年にブレトンウッズ体制ができたことを引き合いに出して,コロナは世界大戦とは異なるものの,コロナ渦を生き延びることが十分な動機付けを与えるかもしれない,と結んでいる。「幸運に恵まれれば(with luck)」という修飾語つきではあるが。

デジタル経済をめぐる国際課税の動きについては,これまで,巨大IT企業のレントの争奪戦という見地から,Joseph Bankman, Mitchell Kane & Alan O. Sykes, Collecting the Rent: The Global Battle to Capture MNE Profits, 72 Tax Law Review 197 (2019)が導きの糸のようにぼくは思っていた。これに対し,今回のこの記事は,技術圏(technosphere)をめぐる地政学的文脈に光を当てている。よくよく考えなければならない。