29 April 2021

税の国際的情報交換の今後

IFA香港支部主催のセミナー「Future Types of Information Exchanges & Tax Co-operation: What Lies Beyond the Horizon?」が、いま終わった。15年前にはここまでの情報交換は考えられなかった、という導入からはじまって、次の10の問いについてパネルがなごやかに語った。

  • 短い歴史
  • 濫用的タックスプランニングの義務的開示
  • ギグエコノミー
  • 暗号資産
  • EUとOECDの関係、アジアにおける含意
  • FATFのAML
  • 他の展開可能性→CRSの不動産情報への拡大、MDRに関係して国籍や居住地の取得情報、クレジットカード情報
  • プライバシーの懸念→2015年IFA Basel大会の12提案、EUのGDPR、シンガポールでFATCAを争う例
  • 各国の対応
  • BRITACOMの動き
大変多くの情報を60分でわかりやすく整理し、次の展開可能性に触れていて、理想的なセッション運営だったと思う。

パネルのメンバーは
Michael Olesnicky, Baker & McKenzie, Hong Kong
Masato Ohno, Meiji University, Japan
Saeon Han, Korea National Tax Service, Korea
KR Sekar, Deloitte, India (やむを得ず当日は欠席)
Anu Anand, Inland Revenue, New Zealand
Barbara Voskamp, Loyens & Loeff, Singapore
で、お互いの発言をよく聴きあっていたのが印象的だった。

28 April 2021

VAT fraudとのたたかい

EUを中心に旬なトピックが、技術を用いた対応だ。

  • S. Jafari, Combining Modern Technology and Real-Time Invoice Reporting to Combat VAT Fraud: No Revolution, but a Technological Evolution, International VAT Monitor, 2020 (Volume 31), No 3, Published:18 May 2020
  • R. Ismer and M. (Magdalena) Schwarz, Combating VAT Fraud through Digital Technologies: A Reform Proposal, International VAT Monitor, 2019 (Volume 30), No 6, Published:3 October 2019

2019年に、EUがVAT GAPの報告書を出している。

国際機関でも、いろいろな取り組み。

27 April 2021

租税競争から補助金競争へ?

IFA香港支部主催のウェブセミナーのタイトルが「Other types of competiton」となっていて、どういうことなのかなと思っていた。実際にセミナーを視聴したところ、柱2のGloBEの影響にかんがみて、租税競争からほかのタイプの国家間競争に移行する可能性があるか、という問題提起だった。

セミナーは60分、次の5つの問いをめぐって経験者が自由に語る、というスタイル。

  1. 米国Biden tax proposalsが柱2に与える影響は?
  2. 香港やシンガポールはどう対応すべきか?
  3. 柱2は競争をなくすか?
  4. 税率で競争できないなら、他の手段で競争することになるか?
  5. 各国が投資家に受け入れられるためにはどうしたらいいか?
問題設定の理論的基礎になっていたように思われるのが、パネリストの一人が書いたこの論文だ。From Tax Competition to Subsidy Competition, 42 University of Pennsylvania Journal of International Law 445 (2020)
視聴してみて、アジア太平洋の投資環境が、国家補助に対するEU法上の規制がかかる欧州と異なるということを改めて感じた。5つの問いのうち、4や5では、TPPのことや、租税の確実性のことなどに言及されていた。

なお、途中で出てきた議論には、Noam Noked, Defense of Primary Taxing Rights, 40 Virginia Tax Review 341 (2021)の分析が顔を出していた。

08 April 2021

20 か国財務大臣・中央銀行総裁会議声明

イタリア議長国G20の2nd Finance Ministers and Central Bank Governors Meetingが4月7日に声明を出した。ここで日本語の仮訳を読める。うしろのほうのパラグラフで(パラグラフ番号が見当たらないので仮訳だと6頁下の部分)、税制についてこう述べている。

我々は、世界規模で公正、持続可能かつ現代的な国際課税システムのための協力を継続していく。我々は、2021 年半ばまでに、第 1 の柱及び第 2 の柱の青写真に関する報告書という強固な土台の上で、グローバルなコンセンサスに基づく解決策に至ることについて引き続きコミットしている。我々は、今日までの進捗を認識し、G20/OECD「BEPS 包摂的枠組み」に対し、設定された期限までに合意に至ることを目指して、残された未解決の課題に対処するよう求める。我々は、国際的に合意された税の透明性基準の実施における進捗を認識し、OECD による暗号資産に関する自動的情報交換に係る提案の検討についての進行中の作業を支持する。我々は、7 月の税制と気候変動に関するハイレベル税シンポジウムにおける建設的な議論を期待する。我々は、新型コロナウイルス危機対応における税と財政政策に関する OECD の更新された報告書に留意する。我々は、途上国に対する持続可能な税収基盤を築くための能力強化に関する支援への我々の関与を再確認し、OECD に対して、G20/OECD「BEPS 包摂的枠組み」への参加を通じた進捗に関する報告書を用意し、国内資金動員の努力をさらに支援することが可能な分野を特定するよう求める。

くわしい内容はOECD事務総長からの報告書OECD Secretary-General Tax Report to G20 Finance Ministers and Central Bank Governorsで記されており、そこには各種文書へのリンクが脚注の形で付されている。これまでの流れを一覧するのに便利。この報告書は一見すると長く見えるが、じつはCOVID-19関連のAnnex Aが長いだけで、本文は30頁強。

網羅的にではなく選択的に、上の声明に、OECD事務総長からの報告書に出てくる各種文書へのリンクを対応させると・・・

「我々は、2021 年半ばまでに、第 1 の柱及び第 2 の柱の青写真に関する報告書という強固な土台の上で、グローバルなコンセンサスに基づく解決策に至ることについて引き続きコミットしている。」

「我々は、7 月の税制と気候変動に関するハイレベル税シンポジウムにおける建設的な議論を期待する。」→この報告書

「我々は、新型コロナウイルス危機対応における税と財政政策に関する OECD の更新された報告書に留意する。」→これが上記のAnnex A

06 April 2021

山岳遭難救助はヘリコプターなくして語れない

日本山岳救助機構合同会社、略称jRO(ジロー)、英文社名 : Japan Rescue Organization LLCのページによると

警察ヘリと防災ヘリと自衛隊ヘリには救助費用がかかってこない。一方の民間ヘリは有料で、救助費用は遭難者が負担することになる。ちなみにある航空の場合、捜索・救助の料金は1時間あたり46万5000円。

とのこと。

この例は、サービスの利用者が対価として手数料を支払う方式か、それとも、公的主体が公共財を提供してその財源は租税公課などでまかなう(=つまり利用者自身は役務の対価を支払わない)方式か、を考えるうえで、具体的なイメージがわきやすい。だいぶ前にも、ここでとりあげたことがある。

この例の一歩先に、では救急車を呼んだ場合はどうか、そもそも医療制度の財源調達はどうか、といった話がどんどん広がってくる。