26 May 2021

ニセコの不動産売却、札幌国税局の徴税

2021年5月26日 5時00分付けで、朝日新聞デジタルに、「1.4億円徴税、タイ当局通じ催告 条約適用外でも協力」という記事が掲載された。マルチ税務行政執行共助条約の適用外だったという。おやと思って確認してみたら、たしかに、2021年3月16日時点の情報では、タイはこれに署名はしていたが、まだ寄託や発効には至っていない。

他方で、この事案ではサモアの不動産会社がからんでおり、サモアとの関係では同条約の適用がある。上記の表のSamoaの欄をみると、2016年1月12日に発効しているからである。ということは、会社をめがけてかかっていってもらちがあかず、実質経営者たる個人をめがけてはじめて徴収の実があがる、ということか。

この記事の事実関係には、法的にみて興味深い点がいろいろと含まれている。とくに重要と思われるのが、国家間の徴収共助が機能するためには、フォーマルな条約ネットワーク以上に、国家当局間の連携関係がものをいうということ。また、この記事では実質経営者個人に対する「心理的なプレッシャー」がかかって納税に至ったと分析されており、これなどは、法執行におけるナッジ(nudge)の観点から検討すべき材料にもなるだろう。



21 May 2021

玉川上水の水銀

羽村から四谷まで、はるばると玉川上水がひかれたのが、承応2年(1653年)のこと。江戸の人口が増える中、上水道が必要だった。水道経営にあたり、玉川兄弟の家が水銀を徴収した。水銀と書いて「みずぎん」と読む。水銀は、江戸の給水区域の武家と町方が支払った。

この水銀の性質について、伊藤好一・江戸上水道の歴史(吉川弘文館1996年)94頁(→この本の書評)は、受益者負担の水道料というだけでは説明しきれず、年貢の徴収権(知行高)とみる可能性を示唆している。その理由は以下。

  • 町方では、町で上水を利用しない者があっても、表屋敷を持つ限り水銀を支払った
  • 武家では、上水を引き取らなくなっても、水銀を負担しなければならなかった
  • 水銀は水上修復料として徴収することを許されていたが、水道普請については水銀とは別に普請修復金を徴収していた
  • 由来として、玉川家が水道完成の恩賞として200石分を与えられ、それでは役を勤めるのが困難であるというので水銀の徴収に変えられた(ただしこの200石分が知行高であるのか切米高であるのかが問題であると指摘されている)

請負人が税金を徴収する。公権力なのか民間主体なのかがあいまいな代官的豪商。こういう興味深い状況が近世初期には存在したというのである。

その後、幕府の官僚機構が整備されていく中で、元文4年(1740年)、玉川庄右衛門と清右衛門は玉川上水水役から罷免される。江戸の上水支配は玉川兄弟の子孫から取り上げられ、水銀は公金として幕府の金蔵に入るようになった。

14 May 2021

占領下昭和21年の財産税法・戦時補償特別措置法に至る時期の史料

昭和財政史の第7巻で、法律成立に至る経緯がわかる。司令部と主税局の間のやりとりが、日付を追って、臨場感あふれる記録になっている。

そして、これを補足する資料集がある。『資料・金融緊急措置』である。これも、オンラインで簡単にみることができる。

たとえば、財政再建計画大綱要目(昭和二〇年一一月五日閣議了解)。ここの182頁にある。戦争で膨らんだ巨額な公債、連合軍駐屯関係経費、賠償より生ずる国庫負担、そしてハイパーインフレーションの発生。こういった難題に直面した時期の文書だ。異様な緊迫感をもって迫ってくる。

戦後インフレ諸対策の立案(PDF:3885KB)

なお、ドッジラインに至る時期の日銀の動きについて、伊藤正直教授のこの論文



11 May 2021

トルテ弓は減価償却できる資産か

法科大学院の学生さんがゼミで減価償却について報告するというので、住永佳奈「課税における減価償却についての基礎的考察(1)(2完) 芸術作品である楽器を素材として」法学論叢187巻4号63頁、188巻1号35頁を読んでみた。

米国の租税裁判所の判例を素材にして、くわしい分析がなされている。ニューヨーク・フィルハーモニックのヴァイオリニストSimonが、トルテ弓を購入し、減価償却したところ、それが認められた。1994年の判決である。租税裁判所は、トルテ弓が値上がりしているという事実は減価償却の可否に影響しないとした。また、課税庁はトルテ弓が芸術作品であるから減価償却を認めないと主張していたが、租税裁判所はこの主張を退けた。

この論文は、日本の通達や裁決との比較も行い、日本法における美術品の減価償却の可否の判断は明らかではないと指摘する。おわりに、のところでは、内在的価値と事業における用益という二つの価値を資産が併せ持つ場合に、減価償却を認めるかという問題が、物のみならず人についても生ずる、と結ぶ。こうして、教育支出に関する別の研究ともつながる。