25 July 2021

Virtues and Fallacies of VAT: An Evaluation after 50 Years

誕生から50年、いまやVATは世界160か国の基幹税になっている。その長所と短所を考察する論文集が出た。うしろのほうで、ぼくも書かせてもらった。日本の消費税はどうやってインボイスなしに動かしてきたのか。そのことを論じている。この共同研究で学んだことを延長して、英語圏の読者に届ける仕事。以下に目次を掲げておく。

Chapter 1 Introduction: VAT Does Well, but Does it Well Enough?                    
Robert F. van Brederode

Part I: Technical Topics

Chapter 2 Revenue Performance            
Pierre-Pascal Gendron 

Chapter 3 Neutrality v. Equality    
Christian Amand 

Chapter 4 Rate Policy: Evaluating the Arguments for a Single v. Multiple Rates                
Robert F. van Brederode

Chapter 5 Exemptions in VAT: A Theoretical Overview of Traditional and Newer VAT Systems
Christian Knotzer & Sebastian Pfeiffer
                        
Chapter 6 Counting the Costs of VAT Compliance     
Chris Evans & Richard Krever                

Chapter 7 VAT Gaps in Developing Countries:    Measurement, Administration, and Politics        
Pierre-Pascal Gendron & Richard Bird 
                
Chapter 8 Susceptibility to Fraud             
Robert F. van Brederode  
                                        
Chapter 9 Value Added Tax Adjustments                
Kathryn James & Karoline Spies

Chapter 10 Transfer Pricing                
Kathryn James & Karoline Spies

Chapter 11 Vouchers and VAT        
Jeroen Bijl
                    
Chapter 12 The Evolving Concept of Fixed Establishment in EU VAT Law    
Aleksandra Bal
    
Chapter 13 How Are Holdings Holding on with VAT?                    
Charlène Herbain & Christopher Thompson
                    
Chapter 14 VAT Refunds in Developing Countries    
Marius van Oordt                 
                        
Chapter 15 Digital Cross-Border Supplies        
Simon Thang & Nicolas Shatalow

Chapter 16 Supplies Below Cost Price or Free of Charge
Madeleine Merkx                 

Chapter 17 VAT Treatment of Donations in the Light of Green Policy Objectives
Bettina Spilker & Benedikt Hoffmann       

Part II: Country Treatises

Chapter 18 The New Zealand Broad-Based, Uniform-Rate GST: Virtue or Fallacy?
David White
        
Chapter 19 Japan's Consumption Tax Experiment: Operating a VAT Without a Tax Invoice    
Yoshihiro Masui

Chapter 20 The Destination Principle in International Trade in Services: The Chinese Experience     
Yan XU                    

Chapter 21 VAT in Colombia: The Need for a Brand-New Architecture?                    
Catalina Hoyos                    

Chapter 22 India: The Challenges of Implementing VAT in a Federal State
Sacchidananda Mukherjee        

Chapter 23 The VAT under Excess Capacity: The Case of Ethiopia                    
Marius van Oordt                                

20 July 2021

IFA Japan Branch Webinar: PPT

2021年7月19日15時~16時30分、IFA日本支部のウェブセミナーがZoomで行われた。平川雄士会員の司会で、川端康之会員が「租税条約の解釈 - 濫用防止とPPT(主要目的テスト)」と題する報告を45分。しかるのち、吉村典久会員、赤松晃会員、中村真由子会員のコメント、フロアからの(書面)質問、それらに対する川端会員の応答があった。

多くの知見が披瀝され、MLI7条がいかにパワフルな規定であるかが参加者の間で共有されたと思う。セミナーの記録は近く、租税研究に掲載される予定。

セミナーのやりとりの中で、私の印象に残った点を記しておこう。

  • 日本の二国間所得税条約におけるPPTの導入状況が、いまや7-8割に達しつつあるとのこと。入っていない条約例についても、今後時間がたてばMLI7条型のPPTで埋まっていく見通し。古いタイプのPPTを有する条約もいくつかあるので、当面の間その解釈適用が実務上問題になる。
  • PPTで実務感覚が変わったか?これに対しては、がらっと変わったというわけではないが、もやもやした感じだ、という率直な感想が述べられた。もやもやしているというのは、濫用というくらいだとよっぽどひどいもののはずだけど、「主たる目的の一つ」というからにはけっこう広いんじゃないか、ちょっとしたことで否認されちゃうかも、危機管理できているのか、こういったあたりが不明確だから。
  • 租税条約の特典を利用するための条約漁りとは別に、りそな銀行外国税額控除事件の事案のように、租税条約を利用しないことで現地国の納税を増やし、そのことにより(居住地国たる)日本において外国税額控除によって納税額を減らす、といったパターンも対象になるか。川端会員の日税研論集78号の論文251頁の指摘を参照しつつ、この点について吉村会員からコメントがあり、川端会員からsaving clauseの関係など応答があった。私は思わず、組織再編税制の「適格外し」のプランニングに対して法人税法132条の2の適用があるか、という論点を思い出した。租税条約上に「税務署長の認めるところにより計算することができる」云々の適用効果をもつ規定があれば、法人税法132条の2と同様の問題状況になるだろう。これに対し、MLI7条1の適用効果は、「当該特典は、与えられない(a benefit under the Covered Tax Agreement shall not be granted)」というもの。よって、条約の特典が与えられず、相手国の国内法の水準で課税されている場合に、条約の特典を与えて相手国(=現地国)の課税を増やす、という方向には働かないように思われた。
昨年から連続開催してきた日本支部ウェブセミナーも、今回で一区切り。開催に尽力された関係各位に感謝。秋以降、APACのウェブセミナーや、IFA 2021 Virtual Eventなどが予定されている。

19 July 2021

IFA 2021 Virtual Event

下記の案内が公告されていた。そのままコピペする。

  • IFAバーチャルイベントのご案内

IFA本部から、IFA 2021 Virtual Eventの案内が届きましたので、日本支部の皆様にお知らせいたします。CET(中央ヨーロッパ時間)とJST(日本)の時差は8時間です。
【開催日時】11月29日(月)14時30分~18時30分、30日(火)11時~21時、12月1日(水)14時30分~18時
【場所】Webinar(Online)
【テーマ】"The Global Tax Agreement: the Two-Pillar Solution"
  11月29日月曜日はIFA/OECDのセッション、30日火曜日は各地域によるセッションで、IFAの包括的な枠組みに焦点を当てます。最終日12月1日水曜日はYINとWINのバーチャルセッションが開催されます。

IFA会員の登録は無料です。参加の登録は9月からの開始を予定しております。このセッションはライブで行われますが、セッションは録画され、後日視聴できるようになります。スケジュールはこちら。詳細につきましては、www.ifa.nl にアクセスするか、IFA事務局にメールしてください。 

                                                                                                        (2021/7/13)

16 July 2021

柱2に対する中国の反応には、どんな背景が?

TNIにでていたWei Cui, What Does China Want From International Tax Reform?によると、中国政府の利害関係は次のようになっているらしい。

【あらあらの論旨】

まず前提として、

  • 2008年以降、法人所得税が頑健な税収源であり、今後もそうである。
そのうえで、居住地ベース課税についても、源泉地ベース課税についても、おおきな方針の転換が進んできたという。
  • 全世界課税からの退却。2007年の企業所得税が居住地ベース課税を強化したが、その直後の2009年に日英がテリトリアル方式に移行した。この動向に反応して、実際上、中国企業の対外活動に適用される規定は厳格には執行されない方向になった。例として、管理支配地主義、CFCルール、外国税額控除の国別限度額、海南自由貿易港
  • 中国ビジネスを魅力的にする。2008年からの数年間、SATは外国企業の租税回避つぶしのアナウンスを出した(Beneficial Ownershipとか、間接譲渡とか、LSAとか)。しかし2013年以降、これらは外資誘致政策に反するようになる。そこでSATは外資にやさしいアプローチへと転換した。例として、2015年に条約適用申請手続の簡易化、2019年にBeneficial Ownershipルールを緩和、2015年にSATの課税強化アナウンスをドロップ。ただし租税競争に乗り出したのではなく、法人所得税率は25%。
  • ここで、香港の意味が大きい。①中国本土にとって、可動性ある資本への低税率を可能にする。②国際金融ハブとしての香港の地位を利用する。
こういう背景から推論して、次のような見立てを提示している。
  • 柱2のIIRについて、有志連合に率先して入ることはない。なぜなら強力な居住地ベース課税をとらないから。UTPRについても同様。
  • 香港の金融ハブとしての地位を守り、アイルランドやシンガポールより不利にならないようにしたい。
  • DSTをドロップしなければならない立場でもなく、柱1はあまり問題ではない。
  • 全体的には、a good multilateralistとして振る舞う機会になる。
というのである。

【コメント】

雑駁な感想をいくつか。

  • 日本では、2008年以降数年間に出された中国当局のアクションがよく知られている。しかしこの論文によると、環境が大きく変化した。居住地ベース課税からの退却とか、外資誘致路線への切り換えとか。どこまで変化しているか。要検討。
  • 中国にとっての香港の意味。本土で実施できない低税率をグリップのきく香港で享受する。グローバル金融ハブとして利用する。この権益を守る。これが柱2への対応の基本線になるというのは、plausible。
  • 米国の読者に向けて書いてある。中国は米国と似た立場にあるという指摘がはじめにいくつか出てくるが、個人所得税の比重とか、ちょっと事実に合わないような点もあるのでは?また、技術覇権をめぐる米中対立からすると、柱1への中国の対応もそれなりに気になるが、ここはあっさりした扱い。

11 July 2021

G20財務大臣会議の声明

7月1日の包摂的枠組みにおける合意を受けて、OECD事務総長からの報告があり、ベネチアで開かれた20か国財務大臣・中央銀行総裁会議の声明(2021年7月10日)が出た。声明は、次のように述べている(財務省サイトの日本語仮訳から該当部分をコピペし、勝手に下線やリンクなどをつけた)。

長年にわたる議論を経て、昨年得られた進捗に基づき、我々は、より安定的でより公正な国際課税制度に関する歴史的な合意を成し遂げた。我々は、7 月 1 日に OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」が公表した「経済のデジタル化に伴う課税上の課題に対応する二つの柱の解決策に関する声明」において示された、多国籍企業の利益の再配分と効果的なグローバル・ミニマム課税に関する 2 つの柱の重要な構成項目を承認する。我々は、OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」に対して、10 月の次回会合までに、残された課題を迅速に解決し、2 つの柱の詳細な実施計画と合わせて、合意された枠組みの範囲内で設計項目を最終化することを求める。我々は、国際合意にまだ参加していないOECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」の全ての参加国・地域に対して、国際合意に参加するよう招請する。我々は、OECD/G20「BEPS 包摂的枠組み」への途上国の参加を通して得られた進捗の評価に関する途上国との協議プロセスを歓迎し、OECD による報告書を10 月に期待する。

なお、「まだ参加していない」国はこの間に2つ減ったとの報道がある。大きな課題として、最低税率の水準とか、DSTなどとの適切な調整などがどうなるか。また、米国議会との関係がどうなるか。目が離せない。

02 July 2021

BEPS包摂的枠組みで、柱1と柱2について声明

139か国のうち、130か国が声明に合意した。アイルランドのように入っていない国も協議を続けるのだろう(アイルランド政府の声明はこれで、全体的には支持するが、柱2について15%というところに留保をつけたといっている)。

声明の英語とフランス語はここ。吉村教授が日本語の抜粋訳とコメント(はやい!)。

6月のG7の声明から一歩進んだ点をみてみよう。まず、柱1について、G7声明は「大規模で高利益の多国籍企業について10%の利益率を上回る利益のうちの少なくとも20%に対する課税権を市場国に与える」としていた。これに対し、今回のIFの声明では、柱1について、たとえば、

  • スコープ→全世界200億ユーロ以上売上高かつ10%以上収益率を有する多国籍企業とされた(条約発効後7年後のレビューを経て円滑な実施を条件に100億ユーロ)
  • ネクサス→市場国から少なくとも100万ユーロの収益を得る場合とされた(GDPの小さな国は25万ユーロ)
  • 分割対象利益(quantum)→残余利益(=売上高の10%を超過する利益)の20-30%を、収益ベースの配分キーを用いて市場国に配分するとされた
  • ほかにも、課税ベースの決定とか、セグメンテーションとか、二重課税排除とか、マルチ条約を策定することとか、いくつかの点が具体化された
つぎに、柱2について、G7声明は「国別での15%以上のグローバル・ミニマム課税にコミットする」としていた。この点につき、今回のIFの声明では、たとえば、
  • 最低税率→所得算入ルール(IIR)と軽課税支払ルール(UTPR)の目的のための最低税率は少なくとも 15%とされた
  • 共通アプローチ→採用は義務ではないが、採用を選択した国は、IFの合意に整合するやり方で実施し、他のIFメンバーの適用を受け入れるものとされた
  • スコープ→BEPS行動13(国別報告)で定められた7億5000万ユーロの閾値を満たす多国籍企業とされた
  • 実効税率の計算→国ごとの計算
  • 実施時期→2022年に法制化、2023年に発効
  • ほかにも、カーブアウトとか、米国GILTIとの共存とか、いくつかの点が明記された
なお、柱1と、一国主義的措置としてのデジタルサービス税との関係については、今回のIFの声明では「新しい国際課税ルールの適用と、すべてのデジタルサービス税その他類似の措置の撤廃との間で適切な調整を行う予定」とされている。(EUの対応についてこの記事)。

IFの声明は、結びとして、次のステップについて以下のように記している。
  • グローバル最低実効税率と適用除外の間に直接の関係があることを認識する
  • 2021年10月までに合意の枠内での設計上の要素につき最終決定をするために協議を続ける
来週のG20を経て、さらに議論が続いていく。なお、以前のプレスリリースのように、今回も日本語版のプレスリリースが出たら、追記したい。→出たので追記(2 July 12:36 Tokyo Time)。

01 July 2021

Carbon Pricingまとめリンク

日本政府の複数の会議体で検討しているので、リンクを張っておく。
ちなみに、6月18日に閣議決定された骨太の方針2021には、「第2章(3)成長に資するカーボンプライシングの活用」として、次の記述がある(下線は引用者による)。
市場メカニズムを用いる経済的手法(カーボンプライシング等)は、産業の競争力強化やイノベーション、投資促進につながるよう、成長戦略に資するものについて、躊躇なく取り組む。クレジット取引については、企業ニーズの高まりを踏まえ、非化石証書やJクレジットに係る既存制度を見直し、自主的かつ市場ベースでのカーボンプライシングを促進する。その上で、炭素税や排出量取引については、負担の在り方にも考慮しつつ、プライシングと財源効果両面で投資の促進につながり、成長に資する制度設計ができるかどうか、専門的・技術的な議論を進める。国境調整措置については、我が国の基本的考えを整理した上で、戦略的に対応する。