25 August 2021

IBFDのBulletin75周年

Bulletin for International Taxation - 75th Jubileeのサイトで、1946年からの軌跡をたどることができる。創刊号は10のカテゴリーの情報を念頭においていた。

▼Hattinghさんの整理によると

  • 第1期 1946年から1950年代 基礎固めの時期
  • 第2期 1960年代 多国間主義の声が強まる、Muiderpoortへ移転
とのこと。1970年代以降の展開は、追ってサイトにアップされるだろう。

ここから登録すれば、誰でも昔の記事を読むことができる(ためしに登録してみたら1日で返事がきてダウンロードできた)。誌名が変わっただけでなく、いろいろとモデルチェンジして、時代に合わせて進化してきたことがわかる。

▼Hammerさんは、インタビューで次のように述べている。

  • Established in 1946, the Bulletin is dedicated to the study and dissemination of knowledge about international and comparative taxation from a multi-disciplinary perspective. It examines global tax policy changes and legal and related developments to provide professional and academic readers with the necessary background and perspective to face the challenges of the contemporary tax landscape.
  • Authors are mainly drawn from the worldwide community of tax academics in law and economics, policymakers and professionals. A special effort is made to enable young authors to publish their work.


18 August 2021

インドの間接譲渡遡及課税立法廃止

1.インドでは、最高裁のVodafone事件に関する判断を覆す形で、2012年の遡及立法で間接譲渡への課税をしていたところ、今回、遡及課税をやめる旨の法律改正。このニュースは、専門雑誌で話題を呼んだだけでなく、すでに多くのオープン・ソースでカバーされている。ちょっと検索するだけでも、たとえば、これとか、これとか、これとか。

2.そして、8月14日号のThe Economist誌に、Bygones are bygones: India consigns its tax time-machine to the pastという記事が載った。そこには、

  • 野党時代のBJPが遡及立法を批判していたこと
  • Cairn Energyが英印投資協定に基づく昨年の仲裁判断を受けて仏裁判所でインド政府の在パリ資産の凍結を勝ち取っていたこと
  • Vodafoneが蘭印投資協定上の仲裁判断を得ていたこと
などの経緯が簡潔に書かれている。それに続く分析が味わい深く、

  • 課税に関する紛争を国際法廷に委ねることに、インド政府が継続して不信感を抱いてきた
と記す。インドとしては、投資家が現地国を訴えることのできるタイプの条約はご免こうむりたい、というのである。こうして、2017年に英印投資協定が廃止、2016年に蘭印投資協定が廃止。そうなると、インドに投資する企業としては、紛争に直面したとき、インド国内の長期にわたる司法手続に訴えるしかなくなる。この記事は最後に、紛争処理に関するインドのアプローチは、インドがTPPやRCEPに加入しなかった主な理由ではないものの、将来のブロック加入への障害になるだろうと警鐘を鳴らす。(なお、Tax Notes Int'l, Vol.102, May 10, 2021, 813によると、日本の三井も、間接譲渡の課税を受けて仲裁を求めると報じられていたから、この話は日本企業にとっても「わがこと」の問題である。)

3.これに対し、8月18日の日経「インドに国際仲裁尊重の兆し Amazonに干天の慈雨」は、インドのスタンスが変わってくる兆しを報ずる。アマゾン・ドット・コムとフューチャー・グループの紛争につき、最高裁が、シンガポール国際仲裁センターが出した判断をインド国内で有効としたからである。

日経のこの記事の最後の段落は、積年の植民地支配によるトラウマに言及している。根が深い問題である。そういえば、Katharina PistorのThe Code of Capitalも、企業が現地国を訴える投資協定に批判的なまなざしだった。

4.従来から、租税条約については、課税当局間の相互協議を促進するためのソフトなつくりの仲裁条項が増えてきていたが、インド政府はこれに消極的であった。だから、日印租税条約にも、仲裁条項は入っていない。これは、現下の国際交渉でも重要なポイントである。というのも、デジタル課税の柱1をめぐっては、7月の声明で、

In-scope MNEs will benefit from dispute prevention and resolution mechanisms, which will avoid double taxation for Amount A, including all issues related to Amount A (e.g. transfer pricing and business profits disputes), in a mandatory and binding manner. 

とされており、義務的かつ拘束的な紛争処理メカニズムを志向しているからである。はたしてインドは歩み寄れるか。

13 August 2021

租税法学会第50回記念総会プログラム

くわしくは、ここにアップされている。オブザーバーの参加申込受付は10月1日からここで開始し、詳細は追って掲示するとのこと。プログラム概要をコピペしておこう。

《第1日目》

2021年10月16日(土)午後2時~午後5時

(1)記念講演「弁護士の専門化と最高裁」宮崎裕子(弁護士・前最高裁判事)

(2)記念報告「国際課税の地殻変動」渕圭吾(神戸大学)

(3)第1回租税法学会賞授与式

(4)租税法学会賞受賞記念報告

報告1「課税の契機としての財産移転」住永佳奈(京都大学)

報告2「租税回避と法―GAARの限界と解釈統制」本部勝大(立命館大学)

《第2日目》

10月17日(日)午前9時30分~午後3時30分

(1)議事総会(午前9時30分~10時)※会員のみ

会務報告、会計報告、その他

(2)研究総会(午前10時~12時)

「租税法の過去・現在・未来」① 3つの分科会

(3)議事総会(午後1時15分~20分)※会員のみ

(4)研究総会(午後1時30分~3時30分)

「租税法の過去・現在・未来」② 3つの分科会

06 August 2021

有害税制への対抗、アップデート

BEPS行動5で、有害税制フォーラム(FHTP:Forum on Harmful Tax Practices)によるピアレビューが継続している。その最新アップデートが、2021年8月5日に公表された。各国の具体的な措置が書かれているので、コピペしておこう。赤字や下線は増井による。

  • At its April 2021 meeting, the Forum on Harmful Tax Practices (FHTP) took new conclusions on 25 regimes as part of the implementation of the BEPS Action 5 minimum standard.
  • Based on an earlier government commitment, the Australian Offshore banking regime has now been abolished, with grandfathering provided to existing taxpayers within the FHTP’s timelines.
  • In addition, the Philippines will abolish its Regional operating headquarters regime as of 1 January 2022 (without grandfathering) and is "potentially harmful but not actually harmful" for the time being.
  • The United States has also confirmed its intention to abolish the Foreign derived intangible income (FDII) regime, which has therefore been classified as "in the process of being eliminated".
  • Government commitments were also made for six other regimes that are now "in the process of being amended/eliminated" (Dominican Republic, Gabon, Sint Maarten and Jordan).
  • As Trinidad and Tobago was not able to fulfil its commitment to abolish its Special economic zone regime within the agreed timelines, it is now considered "harmful".
  • Two newly introduced regimes were concluded as "not harmful" (Hong Kong (China) and Georgia).
  • Finally, the FHTP reviewed 12 regimes for the first time and these are now "under review" (Armenia, Eswatini, Honduras, Lithuania and Pakistan).
下線部からわかるように、米国がFDIIを廃止する意思を確認している。最後の行のEswatiniは、南アフリカの王国で、旧国名はスワジランド。より詳しくは、一覧表がここにある。

このピアレビューは、各国が作った税制を名指しして有害と判定する。いきおい、政治的に神経を使うところが多いだろう。公表されたものには結論だけが書かれており、内部における議論の詳細は外部からはよくわからない。

その中で、文脈を含め解説してくれている貴重な記録として、吉村浩一郎弁護士による下記のものがある。
同弁護士は、2015年4月から2017年10月までの間、OECD租税委員会の事務局の一員として有害税制フォーラムの運営に携わっていた。公開情報のみに基づく解説であっても、内部の事情を知っている人の解説なので、とおりいっぺんのサマリーとは質が違う。

上記の記録は、専門家の間でもあまり知られていない媒体である。しかし、こうして記録に残っていることで、あとになって活きることが多いのではないか。現下の文脈に即していえば、まさにpillar 2につながる話である。

04 August 2021

移転価格Country Profilesがアップデート

 8月3日付のこのページ。リンクをコピペしておく。日本のcountry profileは、金融取引とAOAのところが新しい。

COUNTRY PROFILES

Last updated: 3 August 2021

These country profiles focus on countries' domestic legislation regarding key transfer pricing principles, including the arm's length principle, transfer pricing methods, comparability analysis, intangible property, intra-group services, cost contribution agreements, transfer pricing documentation, administrative approaches to avoiding and resolving disputes, safe harbours and other implementation measures. The information contained in these profiles is intended to clearly reflect the current state of countries' legislation and to indicate to what extent their rules follow the OECD Transfer Pricing Guidelines.