Graetz (2016) Follow the Moneyは、国際課税に関するGraetz教授の論文集だ。歴史、事業所得、ポートフォリオ所得、ヨーロッパ、の4部構成で、20年にわたって公表されてきた9つの著名な論文を収録している。私も、これらの論文が公表されてきたそのおりおりに、おおいに刺激を受けてきた。
この論文集は、全体がopen accessになっていて、学習用教材としても使いやすい。そこで、日本で国際課税をともに学ぶ学生さんたちを念頭に、さらに一歩、身近なものにしてみたい、と考えた。
そのためのひとつのやり方として、この本の序文を演習で会読する、という仮想の設定のもとで、ChatGPTに会話台本を作成させてみた。
私のプロンプト:大学の演習で、この文書を会読して議論する、という設定で、会話台本をつくれ
以下が、ChatGPTの作成した結果をもとに、すこし手を加えたものだ。読んでみて、もし興味を覚えた方がいらっしゃったら、今度は、この本そのものをご覧いただければうれしい。
🎓大学演習会話台本:「Graetz『Follow the Money』序文を読む」
登場人物
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A教授(女性)…租税法・国際課税論の専門家。指導的かつ穏やかな語り口。
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Bさん(男性学生)…素朴な疑問を率直に投げかけるタイプ。
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Cさん(女性学生)…国際政治の視点から制度を考えるタイプ。
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Dさん(男性学生)…理論分析を重視し、批判的に読むタイプ。
【場面】大学ゼミ室。
テーマは「国際課税の制度構造とその政治経済的意味」。
学生たちはGraetzの『Follow the Money』序文を読み終えたところ。
【導入:金の流れを追う】
A教授:
さて、今日はGraetzの『Follow the Money』の序文を読みましたね。まず、この本のタイトル——「金の流れを追う」とは何を意味していると思いますか?
Bさん:
単に「税金の流れ」ってことですか?つまり、どの国でどれだけ取ってるか、みたいな?
A教授:
それも一部です。でもGraetzはもっと広い意味で使っています。お金の流れを追うとは、「資本や利益が国境を越えてどう動き、それに対して国家がどう課税権を主張するか」という制度の構造を解き明かす、ということなんです。
Cさん:
なるほど、税制の技術的な話ではなく、国家と市場の関係全体を見るということですね。
A教授:
その通り。彼は国際課税を“国家の政治経済的構造を映す鏡”と捉えています。租税を通じて、国家がどのように富を制度化しているかが見えるんですね。
【第1幕:源泉地と居住地】
Dさん:
序文の中盤では、1920年代の国際連盟がつくった「源泉地」と「居住地」の二原理が国際課税の基礎だと説明されていました。でも、もう100年も前の仕組みが、今も続いているのは驚きです。
A教授:
ええ。国際課税の骨格は100年前にできた枠組みなんです。つまり、どの国がどの所得を課税できるかを「源泉地」と「居住地」で分ける構造。けれど、Graetzが指摘するように、この枠組みはいまや揺らいでいます。なぜだと思いますか?
Bさん:
デジタル企業のせいですよね。どこで利益が生まれてるのか、わかりにくいから。
A教授:
そうですね。所得の「源泉地」を地理的に特定するのが難しくなっている。企業の「居住地」も、登記を動すなどして簡単に変えられる。つまり、国家の国境と課税の範囲が一致しなくなっているんです。
【第2幕:国際課税と国家主権】
Cさん:
このあたりで、Graetzが「国際課税は国家の主権の問題でもある」と言っていたのが印象的です。税って経済だけの話かと思っていたけれど、主権と深く結びついてるんですね。
A教授:
ええ。近代国家は、徴税を通じて国民を統合してきました。租税は国家の正統性の基盤なんです。
ところがグローバル化によって、国境を越える資本や企業が国家の課税権を相対化してしまった。だからこそGraetzは「国家がどのように財政的主権を再構築できるか」を問うているわけです。
Dさん:
つまり、税制改革は単なる技術ではなく、「国家の再設計」でもある、と。
A教授:
ええ。だから彼は税制を「社会契約」の一部として見るんです。
【第3幕:租税競争と協調】
Bさん:
最後の節で、租税競争と協調の話が出てきましたよね。僕は「競争」と「協調」って正反対のことだと思ってたんですが、Graetzは「同じ制度の二つの面」だと書いていました。どういう意味なんですか?
A教授:
いい質問です。国家は、資本を呼び込むために税率を下げたり優遇措置を作ったりします。これが租税競争。でもその結果、みんなが税収を失う「囚人のジレンマ」に陥る。だから、その弊害を抑えるために協調の仕組みが必要になる。つまり、競争があるから協調が生まれる、というのです。
Cさん:
OECDやG20のBEPSプロジェクトもその流れの一部ですね。でも、Graetzは「協調も政治的妥協の産物だ」とも言っていました。先進国が主導している構造は変わらないのでは?
A教授:
その通り。制度は常に力関係の上に立っています。だからこそ、租税協調は“政治的プロセス”なんです。単なる経済的効率化ではなく、誰がルールをつくるのか、という問題なんです。
【終幕:租税と社会契約】
Dさん:
Graetzは最後に「租税は社会契約の表現である」と締めくくっていますね。これは、租税を単なる財政手段としてでなく、正義や民主主義の制度的基盤と見るという立場なんでしょうか。
A教授:
ええ。国際課税を考えることは、「グローバルな正義」をどう制度化するかを考えることでもある。国家と企業、そして市民社会がどんなルールで富を分け合うか——それがこの本の主題です。
Bさん:
なるほど。国際課税って、すごく“政治哲学的”なテーマなんですね。
A教授:
そうなんです。数字よりも、「制度の背後にある理念」を読むことが、この本を理解する鍵といえるかもしれません。
【ゼミ討論のまとめ】
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「金の流れを追う」とは、制度の構造を解き明かすことを通じて資源配分の力学を分析すること。
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国際課税の構造(源泉地課税と居住地課税の二分法)は、もはや現実に適合しない。
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租税競争と協調は、単純な二項対立ではなく、国際制度の生成過程の両側面。
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租税は社会契約の表現だ。
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