所得税法72条は「災害又は盗難若しくは横領」という事由を掲げており,そこにいう「災害」は,所得税法2条1項27号で「震災,風水害,火災その他政令で定める災害」をいうと定義されている。これを受けた政令が所得税法施行令9条である。
大阪地裁は,所得税法施行令9条にいう「鉱害,火薬類の爆発その他の人為による異常な災害」にあたらないと判断した。一般論として
「人為による異常な災害」により損失が生じたというためには,少なくとも,納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者の関与しない外部的要因(他人の行為)による,社会通念上通常ないことを原因として損失が発生したことが必要であるとしたうえで,建物にアスベストが含まれていたことが 「人為による異常な災害」に該当するとはいえないと結論した。
大阪高判平成23年11月17日もこれをそのまま引用して控訴棄却。その後,上告受理申立がされたという。
1. 「異常な」災害にあたるかの判断基準として,大阪地裁は,
- 納税者の意思に基づかないことが客観的に明らかな,納税者の関与しない外部的要因を原因とするものであるかどうか
- 納税者による当該事象の予測及び回避の可能性
- 当該事象による被害の規模及び程度
- 当該事象の突発的偶発性(劇的な経過)の有無
2.本件の納税者が建物の施行業者などに対して損害賠償請求をしているかどうかは明らかでない。しかし,仮にそうしたとしても,建物が建てられた昭和50年から51年にかけての時期には建築部材の使用が違法ではなかったから,実際には勝訴することは難しいであろう。そうなると,一方で,民事訴訟による自力救済により何とか損害賠償金を受け取ることのできた人は所得税法との関係で「不法行為その他突発的事故により資産に加えられた損害につき支払を受ける損害賠償金」につき非課税とされ,他方で,損害賠償を受けられない本件のような納税者については所得税についても損失の控除ができない状態が残る,というアンバランスが生ずる。より一般的な文脈で髙橋祐介教授がNBL984号で指摘しているように,「税は自ら助くるものを助く」という状態が生ずるのである。
3.せめて,建て替えによって新たに取得した新しい建物の取得費に,本件の除去工事費用を含める,というような考え方は無理筋であろうか。なお,事案が異なり,土地と建物を一括して譲渡する過程で,建物取り壊しに際して除去費用が発生した,というような場合であれば,譲渡所得の算定上,譲渡費用に含めることが考えられよう。