29 May 2026

ブックオフのレシートに「内税10%」と書いてあるのはなぜ?

【ある昼休み、大学の学生食堂で】

Aさん(質問者):このあいだ、ブックオフに本を売ったんです。

Bさん(租税法研究者):断捨離ですか。

Aさん:研究室の本棚が崩壊しかけていたので。

Bさん:大学人らしい理由ですね。

Aさん:それで、こんなレシートをもらいました。

> 合計 3,245円

> 内税対象額(10%)3,245円

> 内税(10%)295円

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Aさん:ちょっと疑問なんですが。

Bさん:何でしょう。

Aさん:私は本を買ったのではなく、売ったんですよ。

Bさん:そうですね。

Aさん:しかも一般消費者です。

Bさん:そうですね。

Aさん:なのに「内税295円」と書いてある。

Bさん:そうですね。

Aさん:もう少し情報量の多い返事をお願いします。

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Bさん:まず最初にお断りしておきますが、これは税務相談ではありません。

Aさん:租税法の先生らしい予防線ですね。

Bさん:あくまで制度の説明です。さて、このレシートを見て、「一般消費者から買い取ったのに、ブックオフは仕入税額控除できるのか」という疑問ですね。

Aさん:まさにそれです。

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Bさん:消費税法の原則から確認しましょう。仕入税額控除を受けるためには、原則として適格請求書、つまりインボイスが必要です。

Aさん:私はインボイスなんて発行していません。

Bさん:もちろんです。一般消費者は通常、適格請求書発行事業者ではありません。

Aさん:すると、ブックオフは控除できないのでは?

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Bさん:もし本当にそうなら、古本屋は困ります。

Aさん:なぜですか。

Bさん:考えてみてください。古本屋は誰から本を仕入れますか。

Aさん:ほとんど一般消費者ですね。

Bさん:中古車店は。

Aさん:一般の人ですね。

Bさん:リサイクルショップは。

Aさん:やはり一般の人ですね。

Bさん:もし全員に「インボイスをください」と言わなければならないとしたら。

Aさん:それだと商売になりませんね。

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Bさん:そこで法律は例外を設けています。古物商が、適格請求書発行事業者でない者から古物を買い受ける場合には、一定の要件の下で、帳簿のみの保存によって仕入税額控除が認められます。

Aさん:なるほど。

Bさん:これが、「古物商特例」です。

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Aさん:ところで、ブックオフは本当に古物商なんですか。

Bさん:実は、ここは確認が必要です。古物商でなければ、この特例は使えません。ブックオフコーポレーション株式会社は、古物営業法上の古物商許可を受けています。同社の表示によれば、

> 古物商許可番号  神奈川県公安委員会  第452760001146号

となっています。

Aさん:ちゃんと許可を取っているんですね。

Bさん:全国展開している古本チェーンですからね。

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Aさん:古物商だということはわかりました。古物商の買い取りに例外があることも、さっきうかがいました。じゃあ、この例外の法律上の根拠はどこにあるんですか。

Bさん:いい質問です。消費税法30条7項です。もっと正確には、その委任を受けた 消費税法施行令49条1項1号ハ(1)です。この規定が、古物商による古物の仕入れについて、帳簿保存のみで仕入税額控除を認めています。

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Aさん:すると、このレシートの「内税295円」は何なんですか。

Bさん:あなたが納税した消費税ではありません。

Aさん:うーん、そこが知りたいところです。

Bさん:例えばブックオフは、3,245円で本を仕入れた→後で販売する→その販売に係る消費税を計算する、という流れになります。その際、3,245円の中に含まれる消費税相当額を計算すると295円になります。

Aさん:だからレシートに表示されているわけですか。

Bさん:そうです。これはブックオフ側の経理・税務処理のための表示なのです。

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Aさん:だんだんわかってきました。要するに、「私は295円の消費税を払った」という意味ではない。

Bさん:ええ。

Aさん:「私は295円を国に納税する」という意味でもない。

Bさん:ええ。

Aさん:しかし、ブックオフはその295円相当を仕入税額控除の計算に用いる。

Bさん:その理解でいいと思います。

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Aさん:なんだか不思議ですね。私から見ると消費税を納めた記憶がないのに、相手方は仕入税額控除を受けちゃいますよ。

Bさん:そこが中古品流通に関する制度設計の特徴です。厳密にインボイスを要件とすれば中古市場が機能しなくなる。そこで、「古物商であること」「棚卸資産として仕入れること」などを条件として、例外を認めているのです。

Aさん:ふーん。制度の厳密さと実務の必要性との妥協点ですね。

Bさん:現実の租税法令はこの種の妥協の積み重ねでできている、とすらいえますよ。

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★まとめ★

ブックオフが一般消費者から古本を買い取る場合、売主は通常、適格請求書発行事業者ではない。そのため売主がインボイスを交付することはない。しかし、ブックオフは古物営業法上の古物商であり、販売用棚卸資産として古本を仕入れているため、消費税法30条7項および消費税法施行令49条1項1号ハ(1)のいわゆる古物商特例により、帳簿保存のみで仕入税額控除を受けることができる。

レシートに表示された「内税10%」「内税295円」は、売主である一般消費者の納税額を意味するものではなく、ブックオフ側の課税仕入れ処理において用いられる税込価格の内訳表示である。これは、インボイス制度の下で中古品流通市場を維持するために認められた例外の一つである。

★参考文献★

佐野恵一郎「適格請求書等保存方式の諸課題に対する一考察-円滑な導入に向けた特例等のあり方について」税務大学校論叢109号277頁、370-381頁(2023)