04 June 2026

ミュンヘン会合の成果が公表されていた(続き)

 4部構成になっているといったが、特集全体の相互関係は、次のように読み取ることができる。

  • Part 1 は「国際課税の一般原理」を問う
  • Part 2 は「どの国が事業所得に課税すべきか」を問う
  • Part 3 は「所得課税以外の代替的財源は何か」を問う
  • Part 4 は「どの形式で協力を実現するか」を問う

すなわち、Part 1 は「国際課税秩序を正当化する原理は何か」を扱う。Riedel は、各国の法人税政策が国境を越える外部性を生むため、国内厚生と国際厚生は一致しないという経済学的出発点を与える。これに対し、Risse and Meyer は、国民所得は各国が自由に処分できる純粋な国内的産物ではなく、国際的な所有権秩序・市場秩序の相互承認に依存するという哲学的基礎を与える。この二つを軸に、Hebous and KlemmがAI課税を論じ、HeyがSTPが国際課税秩序の一般原理になりうるかを批判的に検討し、Bakerが人権・納税者権利という制約条件を加える。

Part 2 は、事業所得課税の課税権配分に関する2論文。Masui 論文が「居住地課税の後退」を論じ、Titus 論文が「市場国・途上国課税権の要求」を論じることで、Part 2 は従来の国際法人税秩序の中心軸を揺さぶる。なお、研究会合にはもう一本、生産地課税に関する論文ドラフトが提出されていたが、ここには収録されていない。

Part 3 は、「法人所得課税だけで国際課税秩序を構成できるのか」という問題に進む。Schön の関税論文は、関税を単なる通商政策ではなく、国際課税秩序の一部として再配置する。Xu のVAT・間接税論文は、国際課税論の中心が法人税に偏っていることを批判し、VAT、デジタル取引税、気候関連賦課金を統合的に考えるべきだとする。Báez Moreno の純資産税論文は、富裕税復活論を検討するが、制度設計と執行上の構造的困難を強調する。

Part 4 は「どの形式で国際課税秩序を維持するのか」を扱う。Kofler 論文は、外国企業・外国人・外国産品に対する無差別原則を、租税条約、通商法、投資法、EU法の交錯点で検討する。van Weeghel 論文は、租税条約の役割を正面から再検討する。最後の Philip Baker の多国間協力論文は、OECD、UN、地域的枠組みの将来を見渡し、2025年以後の国際協力の不確実性を総括する。

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複数の異なる論者がそれぞれの主張を投げかけているだけに、特集全体から一義的な政策の方向性を読み取ることは困難だ。それでも、全体を通覧して、次のようなメッセージを感じ取ることができた。
  • 効率性と正義の対立(補完)
  • 包括的多国間主義と控えめな制度部品論の対立
  • 先進国中心秩序とGlobal South要求の対立
もっと読み込めば、building blocksをどう組み立てるかについては、さらにいろんな読みが可能だろう。

ぼくの継続的問題関心からは、tax mixにおけるVATの役割が大事だと思う。この点については、2つの論文が同じ方向を向いている。Masui論文は「居住地ベース法人課税が弱まるなら、次に何が中心になるか」という問いから、VAT・仕向地ベース消費課税の比重上昇のシナリオを描く。Xu論文は「国際課税論が法人所得税に偏りすぎている」という問いから、VAT・間接税を中心に据えるべきだとする。出発点は違うが、到達点はかなり近い。つまり、両者は「法人所得税中心、居住地vs.源泉地の国際課税」から、「VATを中核とする仕向地ベースのtax mix」への重心移動を示唆する。

これに対し、Riedel論文とTitus論文は、法人所得税またはDSTを通じて、市場国・利用者所在地国にヨリ多くの課税権を配分する方向だ。また、Schön論文とKofler論文は、関税、DBCFT、国境調整、VATとの関係を通じて、仕向地ベース課税の法的・制度的限界を検討する。もし出席できていれば、こういったあたりの相互関係を突っ込んで議論できたかもしれない。