特徴的なのがその第4章で、納税協力の社会的経済的側面を論ずる。
- 納税者の観点からアプローチ
- 昨年の2025年版では、タックス・ギャップの測定方法(第4章)と税務行政の役割(第5章)を論じていた
- 既存研究で明らかにされてきた知見を総合
- 納税コンプライアンスは、摘発確率と罰則だけでなく、制度の簡素さ、法的安定性、申告支援、源泉徴収・第三者情報、行政能力、公平感、政府への信頼、納税モラルの相互作用による
第4章冒頭の2つの段落(101頁)は、次のように述べている。
課税当局によるコンプライアンス確保の取組みを促進または制約する社会的・行動的要因を理解するためには、納税者の視点を考慮することが有益である。高水準の納税コンプライアンスは、さまざまな制度的・社会的・経済的要因の所産であり、税務行政と納税者との相互作用の結果として生じる。欧州委員会の『Mind the Gap報告書』(2025a)は、各国のコンプライアンス執行の枠組みおよび能力、ならびにその基礎にある決定要因について、包括的かつ詳細な分析を行った。同報告書を補完するものとして、本章は、納税者の視点から納税コンプライアンスを論じる。本章の前提は、納税コンプライアンス確保の取組みが社会構造の中に埋め込まれていること、および、納税コンプライアンスを構成する相互補完的な諸要素を認識することがタックス・ギャップを縮小する取組みに資すること、である。
本章は次のように構成される。4.1で、「租税に対する市民の意識」に関するフラッシュ・ユーロバロメーターのデータから、EUがコンプライアンス執行に取り組むことに対する市民の支持が確認される。また、この節では、租税逋脱と納税コンプライアンスに関する基礎的な合理的選択モデルも紹介する。4.2で、納税コンプライアンスの測定を論じ、租税制度の健全性を示す戦略的指標としてのタックス・ギャップの役割を強調する。4.3で、租税制度のさまざまな側面が、納税者のコンプライアンス行動にどのような影響を及ぼすかを分析的に整理する。4.4で、『Mind the Gap報告書』の国別概要票における分析を参照しつつ、税務行政が有するコンプライアンス執行能力(compliance enforcement capacity)の重要性を強調する。4.5で、自発的納税意欲(tax morale)を論じ、4.6で、本章を通じて取り上げられるフラッシュ・ユーロバロメーターの各変数に対する回答を左右する社会経済的属性を分析する。
この最後の4.6の分析は、次のような結果を示している(114頁以下)。
- 自営業所得を主たる所得源泉とする者は、租税回避・脱税対策をEUの優先事項と考える確率が10.6ポイント低い。資本所得者では16.1ポイント低い。
- 自営業者は、申告を容易と考える確率が6.0ポイント低く、専門家を利用する確率が3.6ポイント高い。ところが、税制を公平と評価し、課税当局の支援を十分と考える確率は、むしろ給与所得者より高い。
- 所得額そのものよりも、所得をどのように稼得しているか、すなわち給与、自営業、年金、社会給付、資本所得という所得源泉の違いの方が、多くの認識を強く説明する。