24 August 2023

2023 IFA Cahierが公刊されていた

今年も国際租税協会(IFA)のCahierが公刊された。毎年思うことだが、多数国からの情報をまとめて整理するのは、たいへんな作業だったろうと感ずる。Volume 107Aが949頁あり、108Bが857頁ある。今年からオンラインのみで提供することとなり、紙媒体の会員送付はなくなった。

107A: Sharing and shifting of corporate losses – The new profit shifting? は、法人の欠損金利用を扱う。General Reportが論ずる項目は、繰越や繰戻、組織再編成、グループ通算、外国PE、ハイブリッドミスマッチ、人為的欠損金の作出など。EUレポートがある。39の支部が報告書を提出。日本のbranch reportは吉村浩一郎弁護士が執筆された。

107B: Good faith in domestic and international tax lawは、信義誠実の原則を扱う。40の支部が報告書を提出。日本のbranch reportは池田義典教授が執筆された。General Reportの目次は下記引用のような感じで、その2.4の一部で信義則による納税者保護の論点を扱う。タキゲン事件最高裁判決にも言及している。

Part One: Introduction
Part Two: Good faith in domestic tax law
2.1. Good faith in common law and civil law jurisdictions
2.2. The role of good faith in the tax legal system
2.3. The role of good faith in enacting retrospective or retroactive tax legislation
2.4. The relationship of good faith principles to the administration of the tax system
Part Three: Good faith in international tax law
3.1. Good faith and the VCLT/UN Charter
3.2. Good faith in treaty interpretation
3.3. Good faith and potential treaty breaches
Part Four: Remedies for a breach of good faith
Part Five: Conclusions and recommendations

これをもとに、2023年10月のCancun大会で、議論することになる。

租税法学会の総会案内がアップされていた

租税法学会のこのページである。

2023年10月14日(土)、国士舘大学世田谷キャンパスで、西本靖宏教授を総会幹事として開催。全体のテーマは 「『資産』課税の諸相と現代的課題」。

地方資産課税としての固定資産税の現状と将来像―人と領域の結びつきの流動化も含めて―
    報告:手塚貴大(広島大学)   コメント:柴 由花(椙山女学園大学)
財産評価に法又は司法ができること
    報告:浅妻章如(立教大学)   コメント:吉村典久(慶應義塾大学)
人の国外移転と税制
    報告:住永佳奈(西南学院大学)   コメント:青山慶二(千葉商科大学)
企業価値の源泉としての無形資産と租税法の対応
    報告:吉村政穂(一橋大学)   コメント:南 繁樹(長島・大野・常松法律事務所)

今回から企画趣旨が案内に付されていて、どういう趣旨でこういう柱をたてたがよくわかる。

23 August 2023

ジュリスト誌のインボイス特集

ジュリスト1588号で「インボイス制度が始まる」という特集が出た。

特集 インボイス制度が始まる

インボイス制度の実施とその将来像/西山由美

課税仕入れを巡る問題/藤谷武史

インボイス制度(適格請求書等保存方式)の概要/染谷浩史

登録制度と免税点制度/金井恵美子

インボイス制度と独禁法・下請法・フリーランス法/白石忠志


今年の10月1日からインボイス制度(適格請求書等保存方式)が導入される。このことを念頭においたタイムリーな企画。西山論文はインボイスの保存が仕入税額控除の形式要件であるという解釈を示し、立法論として課税事業者識別番号への移行が不可欠であると主張する。藤谷論文は、インボイス施行後も残る論点を3点指摘し、とくにその第3点につきADワークス事件最高裁判決が課税仕入れに伴う「難しさ」を示す事例であるとする。染谷論文は、インボイス制度の意義と仕組みを記載事項の詳細に立ち入って説明し、その円滑な導入に向けた多層的な取組みを示す。金井論文は、豊富な実務経験に基づき、インボイス制度となっても仕入先が登録している場合は仕入税額控除に大きな変化がないこと、事業者免税点制度との関係で2割特例の終了が新たな壁になること、を論ずる。白石論文は、独禁法・下請法・フリーランス法の適用上のポイントが「濫用行為」に当たるかどうかであるとし、具体的な事例へのあてはめにおける論理を分析する。それぞれが有益な論文であるだけでなく、全体としてシンポジウムのような感じを与える。

この号には、国際合意を踏まえたミニマム課税の法制化(吉村政穂)の新法解説があり、国際課税関係の判例評釈が2件(6号所得への源泉徴収(吉村浩一郎)と来料加工と管理支配基準(長戸貴之))。租税法に関心のある人にとって、手に取って読んでおきたい号となった。

02 August 2023

井上康一・米国の租税条約の憲法上の問題点

井上康一弁護士は、仲谷栄一郎弁護士との共著や、仲谷弁護士・梅辻雅春税理士・藍原滋氏との共著で著名であるばかりでなく、近年もInternational Tax Groupの50周年記念の書籍に宮武敏夫弁護士とともにPreservation Principleという英文論文を公表するなど(日本語での講演録は租税研究858号所収)、租税条約の研究を続けてこられた。

その井上弁護士の新論文「米国の租税条約の憲法上の問題点」が東京大学ビジネスロー・ワーキングペーパー・シリーズにアップされた。【2023年11月追記改訂版がこれ

二国間租税条約のネットワークは全世界で3000本以上あり、 いうまでもなく、国際ビジネスにおいて大きな役割を果たしている。 たとえば、日米の企業間で特許権の使用料が支払われるとき、日米租税条約によって使用料に係る源泉税の減免がなされることで、源泉税というタックス・コストなしに取引を構築することが可能となっている。

井上論文は、このような租税条約の米国連邦憲法上の位置づけについて隠れた問題を発見し、検討を加える。上院が条約を審議し、下院が歳入法案を先議するという憲法構造の下で、慣行上確立したかのように考えられている租税条約の審議過程に実は違憲論が存在することを明らかにし、 それにもかかわらずどうして問題が顕在化してこなかったかを沿革をさかのぼ って 考究する。

いわば elephant in the room というべき問題に光を当てたもので、大変興味深い。また、デジタル課税の多国間条約がこれから米国議会でどう扱われていくか、といった、最新の動きの背景を理解する上でも、本論文の知見が照らしだすものは大きいと考える。