平成20年11月26日の株主総会で、年間合計8000万円の範囲内で、取締役会に一任。取締役会は、
- 代表取締役Aについて、各月180万円、冬季賞与500万円、夏季賞与500万円
- 取締役Bについて、各月140万円、冬季賞与200万円、夏季賞与200万
と決めた。12月22日に、事前確定届出給与の届出。職務執行期間は平成20年11月27日から平成21年11月26日まで。
ところがその後、平成21年7月6日の臨時株主総会で、業績悪化を理由に夏季賞与の減額を次のとおり決議。
- Aについて、夏季賞与を250万円
- Bについて、夏季賞与を100万円
としたわけである。会社がこの減額について法人税法施行令69条3項の変更届出をしないまま、冬季賞与は法人税法34条1項2号に該当するとして損金算入の確定申告をした。川崎北税務署長が、損金不算入とする更正。これを争ったのが本件である。
東京地判平成24年10月9日訟月59巻12号3182頁、請求棄却。会社が控訴したが、東京高裁も原審を引用して控訴棄却。確定。
2.裁判所の判示
東京地裁は一般論として、次のようにいう(下線は引用者による)。
内国法人がその役員に対してその役員の職務につき所定の時期に確定額を支給する旨の事前の定めに基づいて支給する給与について一の職務執行期間中に複数回にわたる支給がされた場合に,当該役員給与の支給が所轄税務署長に届出がされた事前の定めのとおりにされたか否かは,特別の事情がない限り,個々の支給ごとに判定すべきものではなく,当該職務執行期間の全期間を一個の単位として判定すべきものであって,当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における全ての支給が事前の定めのとおりにされたものであるときに限り,当該役員給与の支給は事前の定めのとおりにされたこととなり,当該職務執行期間に係る当初事業年度又は翌事業年度における支給中に1回でも事前の定めのとおりにされたものではないものがあるときには,当該役員給与の支給は全体として事前の定めのとおりにされなかったこととなると解するのが相当である。
そして、本件について、冬季賞与は事前確定届出給与に該当しないとした。また、納税者の主張に応答する中で、職務執行期間を複数の期間に区分し、各期間の対価を個別的に定めたものであると会することができるなどの「特別の事情」は、本件では認められないと述べている。
3.ふたつの理由づけ
東京地裁は上記の一般論に続く部分で、一般論を支えるふたつの理由づけを示す。
- 株主総会の決議の趣旨として、全期間を一体的に定めたと解されること
- もし個々の支給ごとに判定すべきものとすれば、事前の定めに複数回にわたる支給を定めておき、その後、個々の支給を事前の定めのとおりにするか否かを選択して損金の額をほしいままに決定するなどの弊害が生ずるおそれがないということができないこと
後者の理由は、一般論を導き出すための論証としてどのくらい強いものだろうか。業績悪化事由があれば減額を認めるのがポリシーである以上、実体面で濫用があったというのではなく、所定の手続を履行しなかったことがまずかった、ということであろうか。
これに対し、前者の理由をつきつめていくと、決議の内容を工夫することで、事前の観点から経営者報酬を合理化しインセンティブを引き出す、という課題に、法人税法のほうから接近する道が見えてくるようにも思われる。
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