東京高裁は、法人税法22条2項について、次のように述べる(着色は引用者による)。
同項にいう「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受け」は資本等取引以外の取引の例示であり、それゆえに同項は、「資産の販売、有償又は無償による資産の譲渡又は役務の提供、無償による資産の譲受けその他の取引で資本等取引以外のもの」に関わる収益の額を益金の額に算入すべきことを規定しているのである。もとより、適正な額より低い対価をもってする資産の譲受け(低額譲受け)の場合であっても、譲受けの時点において、資産の適正な価額相当額の経済的価値の実現が認められることは無償譲受けの場合と同様であるから、この価値を収益としてその額を益金の額に算入すべきである。また、たまたまその一部のみを対価として現実に支払ったからといって、無償譲受けの場合と異なり、時価相当額との差額部分の収益が認識され得ないものとすることは、公平を欠くこととなる。隠れた重要な問題として、譲り受けた資産の取得価額は、どうなるのか?たとえば、時価100万円の株を30万円で買ったとする。この例で、「資産の適正な価額相当額」は、100万円である。ゆえに、この判示部分からは、「その額」である100万円を益金算入するといっていることになる。しかしトクをしているのはあくまで「差額部分の収益」たる70万円だから、100万円を益金計上してしまうと、何らかの形で30万円を同時に損金算入しないとつじつまがあわない。つまり30万円は株の取得価額とするわけではないようである。明示されていないのであるが、この判決はどうやら、実際に取得に要した30万円を株の取得価額とするのではなく、100万円をもって取得価額とすると考えているように読める(以下A説という)。
A説は、時価100万円の株を無償で取得した場合についても、株の取得価額を100万円とすることにつながるだろう。入ってきたものに対する課税に着目するロジックである。所得税で資産を時効取得した場合、一時所得課税がされ、その資産の取得費を一時所得課税の対象となった資産の時価とする東京地判平成4年3月10日と、親和的である。しかし、株のキャピタルゲイン(ロス)につき前所有者の手元で課税されたかどうかに着目する考え方とは、そりがあわない。
解釈論としては、A説とは異なる考え方も成立しうる。受贈益としては70万円を益金に計上し、株の取得価額は支出した金額をベースに30万円とするのである(以下B説という)。もっとも、B説だと、のちに株を譲渡したときに、A説よりもより大きな金額が課税ベースに含まれることになる。また、株の前所有者の手元で株の含み損益が時価ベースで清算されている場合には、ダブルパンチが重なってしまう。𓀆
なお、東京高裁は、法人税法22条4項を手掛かりにして株式評価のあり方を論じている点でも、注目される(争点3)。この事件は他にも論点が多彩で、地裁の段階では、受取配当益金不算入に係る負債利子控除の計算のやり方(法人税法施行令22条)の選択についても、納税者が申告時に原則法を選択した以上あとで簡便法に変更できないとした(争点7)。
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