第三小法廷の判決がここで読める。
財産評価基本通達(評価通達)6は、評価通達の定めによって評価することが著しく不適当と認められる財産の価額は国税庁長官の指示を受けて評価する旨を定めている。 これに依拠して、札幌南税務署長が、不動産鑑定士による鑑定評価額に基づいて財産評価を行い、課税処分。第三小法廷は、当該事案において、これが租税法上の一般原則としての平等原則に違反しないとした。
判決文はまず、次のように述べる。
(1) 相続税法22条は、相続等により取得した財産の価額を当該財産の取得の時における時価によるとするが、ここにいう時価とは当該財産の客観的な交換価値をいうものと解される。そして、評価通達は、上記の意味における時価の評価方法を定めたものであるが、上級行政機関が下級行政機関の職務権限の行使を指揮するために発した通達にすぎず、これが国民に対し直接の法的効力を有するというべき根拠は見当たらない。そうすると、相続税の課税価格に算入される財産の価額は、当該財産の取得の時における客観的な交換価値としての時価を上回らない限り、同条に違反するものではなく、このことは、当該価額が評価通達の定める方法により評価した価額を上回るか否かによって左右されないというべきである。
そうであるところ、本件各更正処分に係る課税価格に算入された本件各鑑定評価額は、本件各不動産の客観的な交換価値としての時価であると認められるというのであるから、これが本件各通達評価額を上回るからといって、相続税法22条に違反するものということはできない。
そのうえで、平等原則との関係で、次のように説示する(ゴチックと下線は増井による)。
(2)ア 他方、租税法上の一般原則としての平等原則は、租税法の適用に関し、同様の状況にあるものは同様に取り扱われることを要求するものと解される。そして、評価通達は相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであり、課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることは公知の事実であるから、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても、合理的な理由がない限り、上記の平等原則に違反するものとして違法というべきである。もっとも、上記に述べたところに照らせば、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められるから、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するものではないと解するのが相当である。
しかるのち、この説示を本件事案に次のようにあてはめる。
イ これを本件各不動産についてみると、本件各通達評価額と本件各鑑定評価額との間には大きなかい離があるということができるものの、このことをもって上記事情があるということはできない。
もっとも、本件購入・借入れが行われなければ本件相続に係る課税価格の合計額は6億円を超えるものであったにもかかわらず、これが行われたことにより、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価すると、課税価格の合計額は2826万1000円にとどまり、基礎控除の結果、相続税の総額が0円になるというのであるから、上告人らの相続税の負担は著しく軽減されることになるというべきである。そして、被相続人及び上告人らは、本件購入・借入れが近い将来発生することが予想される被相続人からの相続において上告人らの相続税の負担を減じ又は免れさせるものであることを知り、かつ、これを期待して、あえて本件購入・借入れを企画して実行したというのであるから、租税負担の軽減をも意図してこれを行ったものといえる。そうすると、本件各不動産の価額について評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことは、本件購入・借入れのような行為をせず、又はすることのできない他の納税者と上告人らとの間に看過し難い不均衡を生じさせ、実質的な租税負担の公平に反するというべきであるから、上記事情があるものということができる。
こうして、次の結論を導いた。
ウ したがって、本件各不動産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが上記の平等原則に違反するということはできない。
はやくも日経新聞が「「路線価否定」の課税訴訟、相続人側の敗訴確定 最高裁」と報じているし、ネット上では実務に対する影響が論じられている。もともと、評価通達の法的位置づけや、客観的な交換価値としての時価との関係、平等原則との関係は、いずれも基本中の基本の論点であり、これらについて第三小法廷が判断を下したことは大きな意味をもつ。判決文の読み解きのための格好の素材。(1)と(2)の相互関係も注目されるが、以下では(2)のアとイを一読しておこう。
アの判示部分は、課税庁が、特定の者の相続財産の価額についてのみ評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることは、合理的な理由がない限り、平等原則に違反して違法としている。この判示部分には「たとえ当該価額が客観的な交換価値としての時価を上回らないとしても」と付言されている。理由付けとして挙げているのは、「そして」に続く文章で、①評価通達が相続財産の価額の評価の一般的な方法を定めたものであること、②課税庁がこれに従って画一的に評価を行っていることが公知の事実であること、である。
アの判示部分は、ここから、本件の事案の処理に直結する一般論を述べる。すなわち、相続税の課税価格に算入される財産の価額について、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある場合には、合理的な理由があると認められる、という。かかる合理的な理由があると認められれば、当該財産の価額を評価通達の定める方法により評価した価額を上回る価額によるものとすることが平等原則に違反するものではないと解している。
こうして、具体的にどういう事情があれば合理的な理由があることになるかが、重要なポイントとなる。この点を本件について明らかにするのがイのあてはめ部分である。いろいろなことが読み取れるが、とくに重要なポイントは以下。
- 通達評価額と鑑定評価額との間に大きなかい離があるというだけでは上記事情があるとはいえない
- しかし・・・
- 本件では6億円を超える課税価格が0円になっていた
- 被相続人と上告人らが租税負担の軽減をも意図して本件購入・借入を行っていた
- そうすると、評価通達の定める方法による画一的な評価を行うことが実質的な租税負担の公平に反するというべき事情がある
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