法学教室の2023年10月号が「トピックで考える租税法」という特集を組んだ。次の先生方が、旬の話題について高い水準を保ちつつ、それぞれ3頁ずつでわかりやすい解説を提供してくださっている。
1 インボイス制度の導入――消費税…酒井貴子……42
2 法人の租税優遇措置――法人税…長戸貴之……45
3 副業をめぐる税制――所得税…加藤友佳……48
4 生前贈与と税制――相続税・贈与税…平川英子……51
5 BEPS包摂的枠組み――国際課税…堀 治彦……54
ちょうど4年前、法学教室は2019年10月号で「租税法のキーワード」という特集を組んでいた。他の学習誌でも、法学セミナーの2023年9月号が「いまこそ知りたい『税法』入門」という特集を組んでいる。導入にふさわしい教材が充実してきている。よろこばしい。
日本税務研究センターの「金子共同研究会」の成果として、日税研論集84号として「所得税の再分配機能ー理論と現実」が公刊された。私の論文も掲載していただいた。以下に目次をコピペしておく。
第１章 米国の所得税と再分配 長戸貴之
第２章 英国の所得税と再分配 増井良啓
第３章 フランスの所得税と再分配 平川英子
第４章 カナダにおける所得格差の変遷と所得税制の再分配における問題点 漆さき
第５章 OECD加盟国における所得税と再分配 藤岡祐治
第６章 日本の所得税の再分配機能 神野直彦
ケースブック租税法が、2023年9月に第6版になった。
第5版が出たのが2017年10月だったから、それからもう6年。手元の索引で数えてみたら、新しく追加された判決が76件あった。この数え方は、東京高判平成29年2月23日（残波事件）以降のところを数えただけなので、実際にはもうすこし多いかもしれない。
もともとの初版は2004年8月公刊で、そのときは680頁あった。その後の授業経験を踏まえ、改版のたびに、あるいは「新しい投資形態と所得課税」の編を削り、あるいは「租税法と憲法」の章を削り、といった工夫がなされてきた。分量を抑制しつつ内容を充実するために、フルに取り上げていた事件をNotes and Questionsに移動したり、判旨引用をやめて過去の版への参照にとどめたり、といったこともあちこちで敢行されている。こうして今回の第6版は644頁になった。
かつて初版を使った授業に出席された方から、この第6版について、うれしいお便りをいただいた。そのまま引用する。
私が法科大学院で勉強したときに読んだ［初版］からこんなに版を重ねて、しかし分量はほとんど増えていない編集の妙に驚きました。論文や資料の引用についても、自分が学生として拝読していたときはほとんど気づかなかった工夫が随所に施されていて、感銘を受けました。
「スリムで筋肉質」になった教材を使って、今年もあとすこしで授業開始である。
＊2023/09/20/13:13JST追記→第5版から第6版への変更点をまとめたNoteに接した。ずいぶん変わったものだ。たとえば§330.01税率など、法定税率と実効税率の違いが明記され、参考文献も企業の立地競争との関係が学べるものに更新された。
G20首脳宣言の日本語仮訳が外務省サイトに出ていた。国際課税はパラグラフ62。原文では改行なしに文章が続くが、ここでは見えやすいよう、勝手に分解して引用する。下線は今後の作業日程に関する言及であり、引用者が勝手に下線を付けた。サミットに先立ち、OECD事務総長からG20首脳への報告書が出ているので、それを参照して、これも引用者が勝手に、首脳宣言の言及する報告書などにリンクを張っておいた。
夏休みを経てだいぶ時間がたったが、備忘のためにポストしておこう。
2023年6月20日、JCTがPossible Effects of Adopting the OECD’s Pillar Two, Both Worldwide and in the United Statesを出し、柱2の採用により米国の税収が減るとした。これを批判するのが、Clausing, The Revenue Consequences of Pillar 2: Five Key Considerations, Tax Notes Int’l Vol.111, July 24, 2023, 359
7月17日、JCTが、下院歳入委員会の公聴会に先立って、Background And Analysis Of The Taxation Of Income Earned By Multinational Enterprisesを出した。
7月19日、公聴会が開かれた。タイトルが「Biden’s Global Tax Surrender Harms American Workers and Our Economy」というどぎついもので、下記の録画からは米国下院の厳しい雰囲気が伝わる。この中で柱2を支持するPeter Barnesの発言が注目される。
Hearing Information
Wednesday, July 19, 2023, at 2:00 PM in Room 1100 of the Longworth House Office Building.
Witness List:
Panel 1
Michael Plowgian
Deputy Assistant Secretary for International Tax Affairs, Department of Treasury
Witness Statement
Panel 2
Mindy Herzfeld
Professor of Tax Practice, University of Florida Levin College of Law
Witness Statement
Adam Michel
Director of Tax Policy Studies, CATO Institute
Witness Statement
Anne Gordon
Vice President, International Tax Policy, National Foreign Trade Council
Witness Statement
David Schizer
Dean Emeritus and Harvey R. Miller Professor of Law and Economics, Columbia Law School
Witness Statement
Peter Barnes
International Tax Advisor and Of Counsel, Caplin & Drysdale
Witness Statement
