19 February 2025

市民権課税の文献リンク更新

Digital nomadの課税について検討している方とお話ししていて、市民権課税についての基本的な文献の話になり、かつてそれを紹介した私のブログのリンクが切れていたことがわかった。そこで、以前のブログのリンクを修復したうえで、このブログには新しいリンク先を張り付けておく。

1.まず、小塚教授による翻訳はここから。これは再掲。

2.つぎに、Mason教授の新著については、彼女のこのサイトからコピペした以下。Reconsidering Citizenship Taxation (with Tsilly Dagan), in Taxing People: The Next One Hundred Years, Cambridge University Press (2025).

3.なお、Ivan Lazarov & Sam van der Vlugt, Blueprint for Individual Income Taxation Reform in a Globalized World (2025)については、このポストでも触れた。所収された長戸論文の日本語での概要は、租税研究904号でも読める。

もし国際課税の領域で、企業課税一点張りから、より基本的な個人課税に対して知的関心の力点の移動があるとするならば、おもしろいこと。以前から、ファンドマネジャーは結局個人だから、結局のところ個人課税こそが大事だという話はあった。HNWIとか国外転出時課税とかいった伝統的な視点だけにとどまらない。いろいろと掘るべき問題が埋まっている感じ。

08 February 2025

国際課税で博士論文を書く人のためのDocMIT

アムステルダムのIBFDで、国際課税で博士論文を書く人のための会合に顔を出してみた。いわゆるDocMIT、正式名称はDoctoral Meeting of Researchers in International Taxationだ。2日間で15本の博士論文(の卵)について、それぞれ20分で研究計画をプレゼンし、30分で教授陣からコメントを受けていた。

どうしてこういう会合をはじめたか。以下のような考慮があったという。博士論文を書く人は普通、一つの大学で一人の指導教員と向き合って執筆準備をしていく。でも、同じような問題意識を持って論文を書こうとしている人が他の大学にいることもあるし、教員側からみても複数の眼からみることによってより多角的かつより深い指導ができる。だったら、ちょっと規模を広げて研究会の形にし、みなであれこれ論評しあうのが有益ではないか。こういう考え方から始まったという。もう何年も続けているとのこと。

今回の参加者はEU域内の大学だけでなく、英国(ケンブリッジ)や豪州(メルボルン)からの人もいた。EU域内の大学で論文を書いている人で、アンゴラやバングラデシュからの参加者もいた。日本の大学の博士課程からの参加者はいなかった。

トピックはさまざまで、G20各国と低所得国との間の租税条約の機能とか、EU財源のための目的税の提言とか、EU法と国際法が衝突する場合に加盟国のとるべき手段とか、CSRと租税回避に関する実証研究のレビューとか、租税誘因措置がASEAN統合の中でどうなっていくかとか。必ずしも国際課税ではなく、税制とジェンダーに関する報告もあった。研究手法もさまざまで、法律や判例を整理していく伝統的な法学のやり方だけでなく、社会学的なものとか経済学的なものとか、いろいろあった。若い研究者たちがどういうトピックに関心をもっているのかを垣間見ることができたと思う。

議論の中身は日本の大学での研究指導と変わらないところが多かったと思う。必ず質問が出たのが、research questionが適切に定式化されているかどうか。ぼく自身もつねづね、「適切な問いを立てることができればもう8割方できたようなもんですね」と公言しているので、これにはまったく違和感がなかった。

欧州の大学でもやはりそうなっているのか、と感じたのが、ひとまずたてた作業仮説を論証するために用いる方法が適切かについて、かなり自覚的な議論がされていたこと。つまり、research methodに関する反省だ。一例をあげれば、インドネシアの方のある博士論文の立てた問いが、伝統的な法学の手法によって処理できるものなのか、率直な疑問が呈された。あなたの論文で本当にやりたいことは国際関係論の専門家の指導を仰がないと、きちんとした形にならないのではないか、という指摘である。こういう指摘は外部からならではのものかもしれない。

セッションのあと、その方とすこし話をする時間があった。ASEANを対象にする場合には、EU法のような法的枠組みにのっけた議論が難しい。方法論上の限界はわかっているのだけれど、ちょっと苦労しているのです、と教えてくれた。その方のもともとのresearch questionは、Pillar 2の下でインドネシアの租税誘因措置をどうしていくべきか、というものだったという。所属先の指導教員の助言により、それだけではひねりがないということで、ASEAN統合との関係に視野を広げてきたとのこと。その状態のものをここに持ってきたら、「それってあなたの手持ちの方法で料理できるのですか」と問われたというわけ。ここからどうするかがまさに大事な課題。外部指導教員のsecond opinionのような形をどこまでとることができるかは、もちろん所属大学でのアレンジメントの問題。research questionをうまく工夫して修正してくことで、見えてくるものがあるかもしれない。どういう風に進めるにせよ、この方にとってなかなか得難い機会になったものと思う。

今回のDocMITには豪華なおまけがあった。

  • 指導教員側の一人として米国から来ていたStephen Shay教授の講演。トランプ政権によるUTPRへの攻撃を予想して、租税条約の無差別条項(具体的には資本無差別24条5項)にUTPRが違反するか、という論点が、再びスポットライトを浴びることが述べられた。増田貴都弁護士のTNI論文が、大きく取り上げられていた。
  • Blueprint for Individual Taxation Reform in a Globalized Worldの成果が本になった。この本には、長戸貴之教授が寄稿しており、ぼくもはやく読みたい。

なお、上記のDocMITと並行して、ポストドクターの人たちの会合があり、AIを用いる場合の課税庁の説明責任について激論が戦わされるなど、いろいろ面白いことがあった。また、本来、ぼくがこのこれらの会合に顔を出したのは、お世話になった方の退職記念セミナーに出るためだったが、これについてはもう書く時間がない。これからスキポール空港に向かう。

IBFDの本がopen accessになっていた

オランダのIBFDで出版している本の多くが、オープンアクセス化されていた。
知らなかった人には朗報。すでに知っていた人も、さらにfree accessを増やしていくそうなので、機会を見つけてリンク先をながめてみるといいかも。