17 July 2026

東京高判令和6年4月11日 棚卸資産の判断基準

1.ある特別目的会社が、本件物流施設(6階建ての倉庫)を取得し、譲渡した。納税者が16億円の消費税還付申告、課税庁が消費税の更正処分。事案から推測すると、おそらくプロロジスパーク茨木の案件だろう。浅妻章如「ブログだったもの」が、研究会の記録をアップしている(驚くべきことに研究会終了とほぼ同時だった)。

2.棚卸資産にあたるかは、どういう基準で判断するか。本件では、地裁判決高裁判決のいずれも、結論として、本件物流施設が消費税法36条5項にいう「棚卸資産」に該当する、とした。しかし、判断基準が異なる。

  • 地裁判決 棚卸資産とは、営業活動としての販売をすることを主たる目的として取得・保有するもの
  • 高裁判決 不動産のうち企業が通常の営業過程において販売することを目的として保有するものは棚卸資産にあたり、企業が特別目的会社である場合には、特定資産の流動化に係る業務の過程において販売することを目的として保有するものは棚卸資産にあたる
この他にも、高裁判決は、地裁判示部分から「類型的に」を削る、控訴人主張に応答して「反復継続などの要件は求められていない」と判示する(=1回限りの売却でも棚卸資産になる障害にはならない)など、いくつもの修正を加えている。ただし、
  • かかる目的の有無については、①保有主体の属性、②保有主体の事業目的、③保有に至った経緯、④取得時の当該資産の使用・収益・処分等に係る方針(売却か自己利用か投資か)、⑤(保有後に仕訳を変更した場合には)保有後に変更を合理的とすべき事情の有無・内容等の客観的事実により判断される
という①から⑤の要素については、地裁判決の提示した5つを高裁判決も踏襲した。

3.地裁と高裁の判断基準は、どこが違うか。
  • 地裁の「主たる目的」基準の場合、目的間の比較を行って、販売目的が賃貸目的よりも優越している、だから棚卸資産にあたる、というロジック
  • 高裁の「通常の営業過程における販売目的」基準の場合、販売と事業過程との機能的な結び付きがある、だから棚卸資産にあたる、というロジック(なお、特別目的会社の場合につき、この基準を具体化して、「特定資産の流動化に係る業務の過程」における販売目的、と判示しており、事案との関係ではこちらが結論の導出に効いている)

このように基準が異なることを受けて、高裁判決は、地裁判決を次のように改めた。
  • 地裁判決中の「本件投資法人に対する販売がその主たる目的」を、「本件投資法人への販売がその目的」に改めた。「主たる」の一語の削除が、目的の優越性を不要としたことを示す。
  • 融資関係の事実を詳しく追加して、売却が最初から資産流動化の事業工程に組み込まれていたことを示す根拠とした。
  • テナントへの賃貸につき、本件物流施設を販売する目的を達成するための手段ないし一過程と位置付けた。つまり、「賃貸目的と売却目的のどちらが主たる目的か」を論ずるのではなく、賃貸行為自体を資産流動化過程の内側に取り込んで判断している。同じことを再度言い換えると、賃貸収益を得ていたという事実を、売却目的と競合する事情ではなく、売却目的を実現するための事情として再構成した。
4.高裁判決は「棚卸資産」の範囲を広げたのか?
  • 一般論のレベルでは、必ずしもそうとはいえないだろう。地裁のように「主たる目的」を基準にすれば、企業の通常の営業過程とは無関係な一回的な転売であっても、取得の主目的が転売なら棚卸資産となる可能性がある。高裁の基準は、事業過程への組込みを重視するものであり、単純な広狭関係ではない。
  • もっとも、本件のような特定目的会社については、棚卸資産該当性を認めやすくする方向に働く。売却目的が賃貸目的より「主」である必要がない。一回限りの売却でも足りる。テナントへの賃貸を売却準備の一過程として評価できる。資産流動化計画に沿った売却は特定目的会社の通常の営業過程そのものだ。こういった事情があるからである。

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