インドネシア国籍の漁船員の住所が日本国内にないと判断した事例。
判決は,住所の意義について「社会通念に照らし,その場所が生活の本拠たる実体を具備しているか否か」で判断するとしたうえで,「船舶内は,その者にとってあくまで勤務場所にすぎないのであって,その乗船員がその地に定住する者としてその社会生活上の諸問題を処理する拠点としての生活の本拠は,その乗船員が生計を一にする配偶者や親族の居住地,あるいはその乗組員が,船舶で勤務している期間以外に通常滞在して生活する場所である」と述べた。この判示で,住所が日本国内にないという結論を導き出せそうである。
ただし,判決はさらに,「動産であり移動する船舶それ自体は『国内』であるということはできない」と判示する。この点,日本の国旗を掲げる船であれば,日本の法律の施行地であるというべきではないか。
この訴訟で争われていない問題は,日本とインドネシアの間の租税条約の適用関係である。本件の漁船員の勤務は,「他方の締約国(日本国)内において行われる場合」(15条1)にあたるのであろうか。