法科大学院の学生さんがゼミで減価償却について報告するというので、住永佳奈「課税における減価償却についての基礎的考察(1)(2完) 芸術作品である楽器を素材として」法学論叢187巻4号63頁、188巻1号35頁を読んでみた。
米国の租税裁判所の判例を素材にして、くわしい分析がなされている。ニューヨーク・フィルハーモニックのヴァイオリニストSimon夫妻が、トルテ弓を購入し、減価償却したところ、それが認められた。1994年の判決である。租税裁判所は、トルテ弓が値上がりしているという事実は減価償却の可否に影響しないとした。また、課税庁はトルテ弓が芸術作品であるから減価償却を認めないと主張していたが、租税裁判所はこの主張を退けた。
この論文は、日本の通達や裁決との比較も行い、日本法における美術品の減価償却の可否の判断は明らかではないと指摘する。おわりに、のところでは、内在的価値と事業における用益という二つの価値を資産が併せ持つ場合に、減価償却を認めるかという問題が、物のみならず人についても生ずる、と結ぶ。こうして、教育支出に関する別の研究ともつながる。