Liam Murphy and Thomas Nagel, The Myth of Ownership: Taxes and Justice (Oxford University Press 2002) は、世界中で読まれてきた作品だ。伊藤恭彦教授による日本語訳もあり、日本の学界でもよく言及される。私もゼミで会読し、おおいに刺激を受けて、一人の法律家として応答を試みる論文まで書いた。
この作品に関して亜細亜大学の藤岡大助教授がごく最近、「『税と正義』と分配的正義構想」という論説を公表していた。分配的正義の包括的体系を棚上げにしたまま租税の正義だけを論じることはできない。このことを再確認させてくれる。
2022年6月9日の第12回税制調査会における藤谷武史教授の発表(当日の画面共有資料)においても、平成12年答申における分配的正義の議論の扱いに言及するくだりで、「税制の公平から分配の公平へ」というキーワードが出てきた(スライド5頁)。
Murphy and Nagelの主張が広く知られるようになったいま、租税政策の側では、分配的正義の諸構想に接合できるに足る《課税後》の分配状況に関する実証的知見の蓄積が、ますます大事な課題になってきているのだろうと思う。