第一小法廷の令和5年3月6日判決、令和4年(行ヒ)第10号だ。
納税者は、本件各課税期間において、事業として、転売目的で、全部又は一部が住宅として賃貸されているマンション合計84棟(本件各建物)を購入した(本件各課税仕入れ)。上告人は、転売までの間、本件各建物を棚卸資産として計上し、その賃料を収受した。
争点は、本件各課税期間の消費税について
- 個別対応方式により、本件各課税仕入れが課税対応課税仕入れに区分されるか(納税者の申告)、それとも、
- 共通対応課税仕入れに区分され、控除対象仕入税額は、消費税額の全額ではなく、これに課税売上割合を乗じて計算した金額となるか(税務署長の更正処分)
最高裁は、後者を支持した。まず、一般論は、3つの段落から成る(下線は裁判所ホームページのまま、色とボールドは引用者による)。
- 消費税法は、生産、流通等の各段階で二重、三重に税が課されて税負担が累積することを防止し、経済に対する中立性を確保するため(税制改革法10条2項)、課税期間中に行った課税仕入れに係る消費税額を当該課税期間の課税標準額に対する消費税額から控除するものとしている(消費税法30条1項1号)。もっとも、同法は、所定の場合において当該課税期間中に行った課税仕入れにつき用途区分が明らかにされていないときは、課税仕入れに係る消費税額に、課税売上割合、すなわち、課税期間中の所定の売上げの総額に占める課税資産の譲渡等に係る売上げの割合を乗じて計算する方法により控除対象仕入税額を計算するものとし(同条2項2号)、また、帳簿及び請求書等の保存がない場合には原則として当該課税仕入れに係る消費税額の控除を認めないものとする(同条7項)など、課税の明確性の確保や適正な徴税の実現といった他の目的との調和を図るため、税負担の累積が生じても課税仕入れに係る消費税額の全部又は一部が控除されない場合があることを予定しているものということができる。
- そして、個別対応方式により控除対象仕入税額を計算する場合において、税負担の累積が生ずる課税資産の譲渡等と累積が生じないその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れにつき一律に課税売上割合を用いることは、課税の明確性の確保の観点から一般に合理的といえるのであり、課税売上割合を用いることが当該事業者の事業の状況に照らして合理的といえない場合には、課税売上割合に準ずる割合を適切に用いることにより個別に是正を図ることが予定されていると解されることにも鑑みれば、課税資産の譲渡等とその他の資産の譲渡等の双方に対応する課税仕入れは、当該事業に関する事情等を問うことなく、共通対応課税仕入れに該当すると解するのが消費税法の趣旨に沿うものというべきである。このように解することは、課税仕入れを課税資産の譲渡等「にのみ」要するもの(課税対応課税仕入れ)、その他の資産の譲渡等「にのみ」要するもの(非課税対応課税仕入れ)及び両者「に共通して」要するもの(共通対応課税仕入れ)に区分する同条2項1号の文理に照らしても自然であるということができる。
- そうすると、課税対応課税仕入れとは、当該事業者の事業において課税資産の譲渡等にのみ対応する課税仕入れをいい、課税資産の譲渡等のみならずその他の資産の譲渡等にも対応する課税仕入れは、全て共通対応課税仕入れに該当すると解するのが相当である。
しかるのち、この一般論を本件の事実関係にあてはめ、次のように結論する。
- 本件各課税仕入れは上告人が転売目的で本件各建物を購入したものであるが、本件各建物はその購入時から全部又は一部が住宅として賃貸されており、上告人は、転売までの間、その賃料を収受したというのである。そうすると、上告人の事業において、本件各課税仕入れは、課税資産の譲渡等である本件各建物の住宅としての賃貸にも対応するものであるということができる。
- よって、本件各課税仕入れは、その上告人の事業における位置付けや上告人の意図等にかかわらず、共通対応課税仕入れに該当するというべきである。
なお、本件については、過少申告加算税がかからない「正当な理由」の有無も争われ、最高裁は「正当な理由」なしと判断した。この点については、同日に第一小法廷によって下されたムゲンエステート事件に関する令和3年(行ヒ)第260号と同旨。