井上康一弁護士は、仲谷栄一郎弁護士との共著や、仲谷弁護士・梅辻雅春税理士・藍原滋氏との共著で著名であるばかりでなく、近年もInternational Tax Groupの50周年記念の書籍に宮武敏夫弁護士とともにPreservation Principleという英文論文を公表するなど(日本語での講演録は租税研究858号所収)、租税条約の研究を続けてこられた。
その井上弁護士の新論文「米国の租税条約の憲法上の問題点」が東京大学ビジネスロー・ワーキングペーパー・シリーズにアップされた。【2023年11月追記改訂版がこれ】
二国間租税条約のネットワークは全世界で3000本以上あり、 いうまでもなく、国際ビジネスにおいて大きな役割を果たしている。 たとえば、日米の企業間で特許権の使用料が支払われるとき、日米租税条約によって使用料に係る源泉税の減免がなされることで、源泉税というタックス・コストなしに取引を構築することが可能となっている。
井上論文は、このような租税条約の米国連邦憲法上の位置づけについて隠れた問題を発見し、検討を加える。上院が条約を審議し、下院が歳入法案を先議するという憲法構造の下で、慣行上確立したかのように考えられている租税条約の審議過程に実は違憲論が存在することを明らかにし、 それにもかかわらずどうして問題が顕在化してこなかったかを沿革をさかのぼ って 考究する。
いわば elephant in the room というべき問題に光を当てたもので、大変興味深い。また、デジタル課税の多国間条約がこれから米国議会でどう扱われていくか、といった、最新の動きの背景を理解する上でも、本論文の知見が照らしだすものは大きいと考える。