Takayuki Nagato, Pillar 2 as a De Facto New Revenue Allocation Mechanism, Tax notes international, Volume 112, October 2, 2023, 23-37
長戸貴之教授(学習院大学)によるOECDの柱2(Pillar 2)の最新論評。柱1が米国不参加の可能性により行き詰まりを見せる中、「柱1抜きの柱2」が大きな多国籍企業のみなし超過利益に関する事実上の税収分配メカニズムとなり、軽課税投資ハブを不当に有利に扱うと主張する。
長戸論文によると、柱2の勝者は投資ハブである。15%ミニマム税率は世界規模での加重平均法定税率25%よりも十分に低いから、利益移転の誘因は残る。2021年12月にQDMTTが不透明な過程で登場し、軽課税国が優先して税収を確保できることとなった。QDMTTの優先は途上国に有利であるといわれることがあるが、途上国の課税ベースは既存の移転価格ルールに基礎を置いており、利益移転を防げないなど多くの問題を抱える。QDMTTは、投資ハブが抜け穴を用いて競争的な租税環境を維持しつつ、追加的税収を得る機会を提供する、というのである。
柱2の勝者が投資ハブであるというのはいかにも皮肉な結果である。柱2を支持する論者は、そうなってしまわないように、投資ハブ以外の途上国がGLOBEルールを採用できるよう能力開発を行うことを推奨するであろう。また、IIRやUTPRをピグー税ととらえ、「軽課税国の行動を変容させ最低税率による課税を講じさせるための政策手段」と考えた場合には、税収分配に力点を置くのとはまた異なる視角が得られるであろう。
長戸論文は、その鋭い主張に必ずしも全面的に同意しない人にとっても、精読に値する。前半部分では、ふたつの柱がいかなる過程を経て現在の形になったかを、関連する一次文献と二次文献を読みぬいて浮かび上がらせる。かつて米国法の事業再生について論じたときと同じ客観的な筆致で、米国バイデン政権以前、バイデン政権による柱2の中心課題化、これに反発する勢力の巻き返しを、くっきりと描き出す。グローバルミニマム税の登場が2018年の仏独の提唱にかかること(25頁)、PSAの回想録を用いた事実探求、QDMTTが登場した経緯が「部外者にとって完全なミステリー」であるとの率直な指摘(30頁)、QDMTTをCFCルールに優先させることへの批判など、読みごたえがある。