09 May 2020

Ruth Mason, The Transformation of International Tax (forthcoming)

COVID-19拡大までの国際租税の動きについて,有益な見取り図を与えてくれる論文。著者はバージニア大学教授。

The Transformation of International Tax

American Journal of International Law, forthcoming July 2020

Ruth Mason

University of Virginia School of Law
【概要】この論文は,BEPSプロジェクトにより国際課税が変容したと論ずる。3章から成る。
  • 「Ⅰ 危機の時代の租税政策」では,各国が租税競争を余儀なくされる中で多国籍企業のアグレッシブな租税回避が横行したこと,2008年世界金融危機ののち20世紀型の増分主義的な改革が終焉してBEPSプロジェクトがはじまったこと,を示す。
  • 「Ⅱ 国際課税の変容」では,BEPSプロジェクトにより,国際課税における参加者,アジェンダ,規範,法形式が変容したと論ずる。規範の面では伝統的な二重課税の除去という規範に加え,筆者のいう「full taxation」という規範を各国が受容したとする。また,法形式の面では,ある国が課税しないなら別の国が課税するということで課税の真空を埋めるいわゆる「fiscal fail-safes」が設けられたとする。
  • 「Ⅲ 国際課税の将来」では,税収への影響,途上国を含めた包摂の度合い,説明責任,国際協定が固着して政策への制約になること,「full taxation」の概念としての不確定性,課税権の再配分について論ずる。この論文は,「full taxation」の概念が不確定であることを指摘し,そのために課税の真空を埋めても二重課税のリスクが高まると指摘する。そしていまや各国は,BEPSプロジェクトが避けてきた課税権の配分という課題に直面しているとする。これがBEPS2.0として経済のデジタル化をめぐって検討されていることであり,今後に影響する要素として,BRICs,米欧対立,租税単独主義,米国自体の変化があるとする。

  • 【コメント】国際課税の世界はこの十年で様変わりした。この論文は,何が変わったかを大きな構えで描く。国際課税の技術的な側面を知らない人にも理解しやすい。この間の動きを追いかけてきた専門家にとっても読みごたえがある。とくに,BEPSプロジェクトについていくつもの学説が冷淡な態度をとっている(脚注2の文献)のに対し,このプロジェクトが成し遂げたことをあたたかい眼で見つめている。他方で,Ⅲの部分の行論は,先行する批判を集大成している感があり,将来の見通しについては慎重である。その意味でもバランスがとれていると思う。