源泉徴収制度が合憲であるとした大法廷判決である。憲法29条や18条についても争われたが,憲法14条違反にならないとしたくだりで,次の制度理解を示している。すなわち,所得税法が給与の支払者を源泉徴収義務者としたのは
給与の支払をなす者が給与を受ける者と特に密接な関係にあって,徴税上特別の便宜を有し,能率を挙げ得る
という点を考慮したからだ,というのである。そして,そのことには合理的理由があり,憲法14条に違反しないとしている。ここにいう「特に密接な関係」がある者を源泉徴収義務者にする,という制度理解は,最高裁の最近の判決でも参照されている(破産管財人が弁護士報酬や破産会社元従業員に対してする支払に関する最判平成23年1月14日民集65巻1号1頁)。その意味でも,重要な判決である。
もっとも,改めてこの大法廷判決を読んでみると,「担税者」という言葉をつかっているなど,現在の議論からみてやや違和感をおぼえるところがある。たとえば,憲法84条について
担税者の範囲,担税の対象,担税率等を定めるにつき法律によることを必要とした
と述べている。このような言葉づかいについては,橋本公亘・租税判例百選第2版171頁(1983年)が,
この判決は「担税者」という用語を用いているが,これは財政学上の用語であるから,「納税義務者」とした方がよかったと思われる。
と指摘していた。金子宏・租税法第20版868頁(2015年)も,
ただし,この判決の用語や論理には,問題が少なくない。
とコメントしている。用語の点で,その後の議論は,より法律に即した表現をとってきたように感じられる。論理の点では,最判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(大嶋訴訟)の大法廷判決が憲法14条の違憲審査基準を定立している。時代の経過とともに,一方で生き続ける用語やロジックがあるとともに,他方で変化(進化?)していくものがあるということだろうか。