06 October 2019

移転価格の問題にすぎない

ある会合で,日本の学者が,それは移転価格の問題にすぎない,と指摘した。韓国から来訪した報告者はただちにその意図を理解し,両者の間でコミュニケーションが成り立った。他の出席者からも,特に追加の指摘がない。ここで,私だけが,なぜそれが移転価格の問題であるのか,共通了解から取り残されている気がした。そこで,報告者が準備した図表を確認し,この取引については当事者の間でこれこれの経済的価値の移転がある点につき,かくかくしかじかの課税をする,という趣旨ですよね,と確認した。報告者の応答は,然り,というもの。

この段階まできて,ようやく気が付いた。指摘をした学者も,報告者も,日本の実定制度としての租税特別措置法66条の4にしばられず,広い意味で移転価格という言葉を用いているのだということを。関連法人間の国際取引に適用範囲を限定するか否かという違いだけではない。66条の4は,独立当事者間価格で取引があったものとして法人税申告をしなければならないと書いてあって,取引価格の是正というたてつけになっている。だから,小松芳明教授などはわざわざ,価格操作規制税制という表現を用いていた。あるがままの取引には手を触れず,操作された価格を是正する,というイメージである。

これに対し,各国の移転価格税制の型が異なることはかねてより知られてきたし,OECD移転価格ガイドラインは「正確に描写された取引の認識」について論ずる中で例外としての取引の引き直しに言及するようになった(パラ1.119以下)。とりわけBEPSプロジェクト以降,税務調査の力点も,国別報告事項などの全体像をもとに,グローバルな利益獲得におけるグループ内各国事業体の果たす役割を大局的にみる傾向が強まり,「ここでもっと利益がでてなければおかしいんじゃないですか?」といった視点になってきているときく。

こういった幅をもった移転価格という言葉について,論者の間では共通了解が成り立っていて,たまたま私がそれについていっていなかった,ということだったようである。会合に出席することで,こうして少しずつ,人様の共通了解と自分の理解とのズレを学んでいくのだろう。

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