12 July 2020

Doumaさんの人気courseraはこんなシラバスだった

Rethinking International Tax Lawのオンラインコースは2016年くらいから好意的なレビューがあるし,受講者数も多い(本日現在で37815人登録だった)。そこで,オンライン授業の環境になったのをきっかけに,そのシラバスがどうなっているかを眺めてみた(我流Faculty Developmentのつもり)。

6週間の計画で,多国籍企業の国際的タックスプランニングを理解しようとする。そしてこの目標に至るために必要な知的道具立てを,いくつかの柱をたてて講じる。次の構成だ。
  • 国際的タックスプランニング―基本設例(base case)の提示
  • 法人税制のデザイン
  • 国際課税と租税条約の原則
  • 移転価格
  • EU法と国家補助
  • タックスプランニングと倫理的側面
まず第1週ではbase caseとして,多国籍企業がどういうふうに国際的タックスプランニングをしているかを示す。受講者の関心をかきたてるためのいわゆる「つかみ」か。具体的には,2014年の欧州委員会による調査文書をもとに,Amazonがルクセンブルグに知的財産保有会社をおいて欧州各国に進出したときのしくみが紹介される。この例は,米国法とルクセンブルグ法のミスマッチとか,利子費用の控除によって課税所得が減少することとか,ルクセンブルグ課税当局がAmazonに与えたtax rulingとか,それがEU法上の国家補助金の禁止ルールとの関係で問題になることとか,初回にしてはずいぶんいろいろなことが入っている。そこで,これらをひとつひとつ解きほぐしていくだよ,と受講者を安心させて,第2週以下の構成につなげる。

こうして到達目標をはじめに提示しているので,その後の数週間分の学習の方向性がくっきりと見えることになる。なので,法人税制のデザインとか,源泉地課税と居住地課税の調整とか,移転価格とか,EU法上の国家補助とか,それぞれの学習内容はいたってオーソドックスな教科書的内容であっても,受講者は「やっていこう」という動機が継続できるだろう。山頂への見晴らしがよい登山道を歩いていくようなものだ。第6週には,全体のまとめとして,いろいろなステークホールダー(国際機関・各国政府・多国籍企業・アドバイザー・NGOなど)のキー・パーソンにインタビューしている。多様な立場があることを受講者に実感してもらうことで,タックスプランニングの倫理的側面に注意を向けるというやり方。

オンライン授業の工夫もいろいろ参考になる。
  • courseraらしくビデオを数分単位で細分化してある。
  • ビデオの途中で,「ここはつまづくかな」というポイントで,2択の簡単な質問が出てきて,受講者の知識習得を確認して次に進む,というつくり。
  • 毎週,van Raadさんへのインタビューがある。
  • 応用編のトラックがあって,「一歩先に」行きたい人がみることができる(たとえば移転価格の週には無形資産の応用編)。
  • ビデオを文字に書き起こしたファイルもある。
  • 必読文献と参考文献を区別してリンクをはってある。
レビューにもあったが,BEPS実施やEU法のその後の動きを反映しておらず,すこし古くなっている感じはある。DoumaさんもLeidenからAmsterdamに移ったから,まったく同じ形でのアップデートが出るのかどうかはわからない。とはいえ,国際課税を速習するコース設計のひとつの到達点としていまでも参照できると思う。

1 comment:

  1. https://ec.europa.eu/competition/elojade/isef/case_details.cfm?proc_code=3_SA_38944
    がAmazon事件へのリンク。2017年にクロ判定。
    https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_17_3701

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