21 August 2020

Digitalisation of the economy - key public documents 2015-2020

BEPS Action 1のサイトに,これまでの文書へのリンクがある。一覧性があり便利なので,そのままcopy & pasteしておく。
その後,2020年6月にMnuchin letter to four European finance ministersがあり,OECD Secretary-General Angel Gurríaの声明。

2020年8月にblueprintsがInclusive Frameworkに回覧される→ustax-by-maxにまとめ。 今後のタイムラインについては,8月4日付けのこの記事が次のように記す。以下そのまま原文を引用。
  • The OECD had planned to present the blueprints to the relevant OECD working parties and the Inclusive Framework country members by the end of last week. Countries will have until the end of August to comment;
  • The blueprints will be sent for approval of the Inclusive Framework at a meeting in September 2020;
  • They will be presented for final approval/adoption at the OECD Inclusive Framework meeting scheduled for 8–9 October 2020; and
  • The OECD Inclusive Framework will report to the G20 Finance Ministers meeting on 15–16 October 2020, followed by the G20 Leaders’ summit on 21–22 November 2020.

17 August 2020

不平等研究の文献バトル,コロナ以前

Saez and Zucman, The Triumph of Injustice - How the Rich Dodge Taxes and How to Make Them Pay (2019)は,勇ましい書物である。読者の心を突き動かして,鼓舞するようなところがある。ところがその文献リストには,不平等をより小さく見積もるAuten and Splinter (2019)などが,載っていない。米国で貧富の格差が増加していることがすでに顕著な事実であるだけに,多くの読者は,一つの推計から特定の政策に飛びつく危険があるのではないか。実際には,より精密な実証結果を求めてプロのエコノミストの間で具体的な数字の当否が真剣に議論されている。この事実は,法律家の観点からみても,もっと広く知られてよいと思う。(なお,この書物によるeconomic substance doctrineの理解や,国家主権のとらえ方については,法律家として言いたいことがないわけではないが,ここでは触れない。)

まさにこのような学問的論争の様子を伝えるのが,The Economist2019年11月30日号の記事Measuring the 1%だ(TaxProfBlogにも一部を抄録)。COVID-19以前のものではあるが,なお有益。ほんの数頁で,多くの文献をサーベイしている。そして,Piketty, Saez, Zucmanらの推計よりもヨリ小さな数字を示す研究があることに注意を促して,政策形成者に慎重さを求めている。この記事が出されたのは,米国大統領選挙で民主党候補を誰にするかが争われ,WarrenやSandersが財産保有税の構想を打ち出していた時期である。大きな論点は4つ。

トップ1%の所得 欧州では所得集中がそれほどでもないというのがBlanchet et al. (2019)。そして前述のAuten and Splinter (2019)が,課税と社会保障の効果を考慮に入れた場合には,米国でもトップ1%の所得のシェアは1960年代以降増えていないとする。Auten and Splinter (2019)によると,Piketty, Saez, ZucmanによるDistributional National Accountのプロジェクトには,個人所得税の申告に出てこないmissing GDPの扱いにいくつかエラーがあるという。

中間層の所得停滞 Rose (2016) これ

労働分配率の減少 Rognlie (2015)  Smith et al. (2019)  Cette et al. (2019)

富の計測 Auten et al. (2013)  Hirschl and Rank (2015) Saez and Zucman (2016) Smith et al. (2020) Jakobsen et al. (2020)

この記事に対しては,LSEの人が反論をアップしている。こうして論争は続く。新型コロナ感染症の拡大は富の分配状況にも大きな影響を与えているはずであり,それを織り込んだ事実認識が今後特に重要。日本の現況についても,プロによる精密な計測が待たれる。

FATCAに対する法廷闘争,アップデート

エコノミスト誌の次の記事は,欧州のGDPRを根拠にした法廷闘争が係属していることを報じている。Hands off, Uncle Sam --- Should personal financial data be sent to foreign tax authorities?  Activists argue current rules favour transparency over privacy

Jennyという偽名で提起したテストケースらしい。検索してみたら,こんな記事でていた

ECJはこの7月にも,privacy shieldにクロ判定を突き付けている。そのソースは,これや,これなど。今後,FATCAやCRSに基づく越境データ移転について,ECJとして何らかの判断を下すことになるのか。要注意。

14 August 2020

国連専門家会合,2020年10月のための文書

国連の21st Session of the Committee of Experts on International Cooperation on Tax Matters, 20 October – 6 November 2020, Virtual informal meetings
のための文書が,パブリックコメントのために公開されていた

中でもデジタル経済との関係で注目されるのが,automated digital servicesから生ずる所得に対してグロスの源泉地課税を許容する新しい条文ドラフトだ(New Article 12B – INCOME FROM AUTOMATED DIGITAL SERVICES)。これは,OECDのPillar Oneのunified approachとは,全く異なる。

注意すべきは,下記のように文書の位置づけが示されていることである。あくまで,議論のプロセスの過程にある文書と見ておくべきだろう。
At its 20th session in June 2020, a drafting group composed of those seeking consideration of an additional provision in the UN Model Tax Convention to deal with certain aspects of taxation in an increasingly digitalized economy was mandated to put forward a draft of a proposal along those lines.  This process is without prejudice to the ultimate inclusion or otherwise of any provision in the UN Model and it was recognised that it should take on board not only the calls in favour of such a provision, but also relevant discussions about clarifying objectives and recognizing practical complexities. 
The input document will next be considered in a Subcommittee meeting prior to the Committee’s twenty-first session.  The proposal should be read in the context of previous papers considered by the Committee:   E/C.18/2020/CRP25 of 30 May 2020 and  paper E/C.18/2019/CRP12  of 5 April 2019, as well as paper E/C.18/2019/CRP16 of 30 September 2019 which was not formally considered by the Commission but which informs the discussion.
-    Drafting Group Proposal – Possible Tax Treaty, Provision on Payments for Digital Services
-    Drafting Group Cover Note

アルゼンチンのTeijeiroさんのコメントはこれで,米中の強い反対に直面するだろうと指摘している。

10 August 2020

駒場ゼミ,夏休み自主勉強会

正規のゼミは終わったけれど,その後,夏休み中にゼミ生有志で自主的にthe Economistを読もうという企画が自然発生。すべて学生さんの発案で,これをメイン記事にして,香港からの移住の記事と,グローバルな移民の記事を読んだ。参加者のリサーチも相まって,お盆休みらしからぬ深い議論になった。オンライン夏合宿みたいな感じ。


Inoue and Miyatake, Preservation Principle

井上康一弁護士と宮武敏夫弁護士の近著「プリザベーション原則」は,同原則の意味を比較法的に探る好論文である(Koichi Inoue and Toshio Miyatake, Preservation Principle, in Guglielmo Maisto ed., Current Tax Treaty Issues: 50th Anniversary of the International Tax Group (IBFD 2020) 101-156)。ここにプリザベーション原則とは,国内法上認められる租税の減免を租税条約が制限することがないという考え方のこと。これを明記する条項として日米租税条約1条2などがある。

井上=宮武論文は,米国財務省による説明と異なり,プリザベーション原則が所得税条約と国内租税法との一般的に承認された関係を示すものではないことを,各国の実例によって明らかにする。それは米国特有の憲法構造に由来するものであって,多くの国々では共有されていないというのである。さらに,租税条約を適用する結果として,国内法だけを適用する場合よりも課税が重くなる場合の扱いについて,各国の扱いがまちまちになっており,非対称的な結果が生ずることを具体例で示す。

井上弁護士は2007年のIFA京都大会の機会にも論文を寄稿された(Bulletin for International Taxation, Vol. 61, No. 9/10) 。今回の共著論文は,英文のものとしてはこれに続くものと位置付けられる。いかにもInternational Tax Groupらしく,比較法の知見を活かすことでプリザベーション原則の意味を掘り下げた。そのことによってプリザベーション原則の役割を相対化することに成功しており,学術的な貢献が大きいと思う。租税条約と国内法の関係については,あたかも天から降ってきたかのごとき原則があるのではなく,あくまで各国の憲法構造によって決まるのである。かねてより私も租税条約の受け皿規定が果たす役割を重視しており,この論文の方向には共感するところがある。総論的分析における一元論・二元論や序列などについての記述には近年の国際法・憲法学説の展開を踏まえてさらに検討すべき点もありそうだが,3つの具体例に関する分析は非常に説得的である。

井上=宮武論文の目次はこの第5章のところをみればわかる。3が総論的分析で,4から6が具体例の分析である。1.序論 2.プリザベーション原則をめぐる議論状況 3.プリザベーション原則一般の分析 4.ソースルールの変更 5.PE閾値テスト 6.事業所得の課税――AOAの適用 7.結語

この論文を所収する書籍には,他にも,租税条約に関する興味深い論文が所収されている。とくに第1章で,John Avery Jones氏と宮武敏夫弁護士が,International Tax Groupの50年にわたる知的活動を活写している。International Tax Groupは,ひとつの論文を公表するために納得のいくまでじっくりと時間をかけてきたという。デジタル化が進みスピードへの要求度が高まった現在においてこそ,この姿勢を見習いたいものである。

07 August 2020

租税法学会第49回総会がオンラインで

学会ページへのリンクがこれ。その末尾に明記されているように,今回は会員のみの参加で,例年と違ってオブザーバーの傍聴不可。研究総会のプログラムを引用しておく。
「消費課税の将来構想」
 ①研究報告
「消費課税の意義と将来構想」報告:渡辺智之(一橋大学)コメント:田中治(同志社大学)
「近時の消費税法の改正とその課題」報告:酒井貴子(大阪府立大学)コメント:望月爾(立命館大学)
「越境取引と消費税」報告:西山由美(明治学院大学)コメント:田中啓之(北海道大学)
「経済のデジタル化・キャッシュレス化と消費税」報告:野一色直人(京都産業大学)コメント:渡辺徹也(早稲田大学)
「脱炭素社会と消費課税~車体課税を中心として」報告:柴由花(椙山女学園大学)コメント:神山弘行(東京大学)
②質疑討論