28 December 2023

2023年中の柱1柱2のOECD文書リンクまとめ

昨年末に引き続き、2023年中に出された文書へのリンクを、このサイトからコピペしておこう。
その後、12月18日付けで
The Inclusive Framework also released today a statement updating the timeline to finalise the text of the MLC to implement the coordinated reallocation of taxing rights over the profits of the world’s largest and most profitable companies (Amount A of Pillar One).

なお、南繁樹弁護士らの「令和6年度税制改正大綱:ミニマム課税とOECD執行ガイダンス」は、ここから読める。また、柱1のAmount Aの多国間条約に対する米国でのpublic commentはこの米国財務省サイトにある。

25 December 2023

野田恒平・還流する地下資金(2023)

野田恒平氏の「還流する地下資金 : 犯罪・テロ・核開発マネーとの闘い」が、書物として公刊された

これがファイナンス誌上に連載されていた時期は、雑誌が毎月手元に届くと、まっさきにその頁を開くのが楽しみだった。全体として「読ませる」もので、きわめて啓発的だったからである。私が専門とする租税法との関係ではとりわけ実質的支配者(BO)の解説が必見であり、単行本化が強く望まれた。

表題においてマネー・ローンダリング(マネロン)という言葉を避け、「地下資金」という表現を用いたこと自体が、この分野の広がりと奥行きを正確に読者に伝えようとする野田氏の工夫である。野田氏は、マネロンという言葉から想像される範囲よりもはるかに広く、テロリストへの資金供与や大量破壊兵器拡散に寄与する資金供与を含む、巨大な資金移動の全体像を浮かび上がらせようとしているのである。その視野は、横軸において刑事政策から外交・安全保障政策に広がり、縦軸において国際規範・基準の形成から各国の制度設計と実施、さらには米欧の利害対立へと広がっている。野田氏はその経験から得た膨大な知見を深く消化し、自家薬籠中のものとして語っており、その非凡な筆力で読者を楽しませる。魅力的な関連ドキュメンタリー映画の紹介も、活き活きとした叙述を助けている。必ずしも各分野の専門家でない読者にとって、これを一書として通読できることは幸運である。

事件が法を作る。そして法は人が動かす。このダイナミズムを、野田氏は縦横無尽に語っている。どのようなアクターがいかなる経緯によって現行ルールを形成するに至ったか。野田氏の論ずるところを読んで、私は何度も、これまで断片的に見知っていたことがはじめてつながったような気持ちになった。



08 December 2023

租税法入門第3版

租税法入門第3版を出版していただきました。

第2版の刊行後5年余りの間に、税制改正が繰り返され、重要判例が登場し、注目すべき研究が公表されました。そこで、このような新しい動きを織り込んで、第3版としました。所得課税を中心に租税法の見取図を簡潔に描くこと、そのさい租税政策を意識すること、という基本方針に変更はありません。

租税法の学習を山登りにたとえると、所得課税を素材として租税法に入門するのは、よく整備された太い山道を登ることに似ています。登山者の往来も多く、議論の蓄積もあるので、初めて租税法を学ぶ方に適しています。日本における公的サービスの資金源としては社会保険料や消費税の比重が高まっていますが、租税法の学習にあたってまず所得課税に取り組むことの利点は明らかです。

ときおり、『租税法入門』という本書の題名が入門書のイメージにそぐわない、とおっしゃる方がいます。これに対しては、本書の初版への書評が次のように指摘してくれています。「本書は、租税法の入門書といっても、税金の計算方法を学ぶ書物ではなく、『租税法』という学問として、そのような計算を基礎付ける思想や計算の意味を考えて、あるべき課税の姿を考えようとする書物である。」(須藤典明「Book Review 租税法の明日を求めて 増井良啓『租税法入門 (法学教室ライブラリィ) 』を読んで」金融法務事情1998号[2014年]124頁)。まさにこの指摘の通り、現行法の骨格を学び、その基礎を問う営みへの入門、という意味として題名をご理解いただければ幸いです。

本書の改訂が可能になったのは、あたたかく励ましてくれた先輩・同僚・友人と、熱心に講義や演習に参加された方々のおかげです。安佐鎮裁判官は本書第2版の韓国語版を公刊されました。有斐閣編集部の皆さまはプロフェッショナルな仕事を遂行されました。感謝申し上げます。