24 August 2025

VATと給与所得

1.租税法入門第3版311頁のコラムで、所得税法28条1項の給与所得に当たると、消費税の課税仕入れの定義から外れ、仕入税額控除の対象にならない旨を記した。例によって言葉足らずで、どうしてこんなことをわざわざ書いたのか、読者の方に伝わらなかったかもしれない。補足しておこう。

2.たとえば、株式会社Aが従業員Bに対して給与を支払ったとしよう。

株式会社A ―> 従業員B

支払給与は、事業者の消費税において課税仕入れの対象から除外されている(消費税法2条1項12号)。課税仕入れにならないということは、つまり、A社(事業者)は、支払給与を課税ベースに含めて消費税を納税する、ということである。その反面、従業員Bは給与所得者であって、消費税の事業者ではないから、消費税の申告をする必要がない。こうして、給与に係るVATのしくみとしては、会社が納税を一手に担う。給与所得者は税務署とやりとりをしなくてもすむ。

3.このことを、所得税法の源泉徴収のしくみと照らしあわせると、重要なことがわかる。

A社が従業員Bに給与を支払うと、人件費として損金に算入され、法人税の課税ベースからは外れる。この給与は受け取った側の従業員の給与所得になり、個人所得税がかかるのであるが、現実に納付を行うのは源泉徴収を行うA社である。つまり、従業員の所得税ではあるのだが、会社が従業員に代わって源泉徴収するわけだ。この源泉徴収は精密にできていてほとんど誤差がなく、しかも、誤差がある場合には年末調整によって会社の段階で精算が完了する。いくつか例外はあるものの、多くの場合、所得税との関係でも、給与所得者は税務署とやりとりをしなくてもすむのである。

4.所得税法の現実の執行がこのような状態であることは、消費税法との関係で給与所得者を納税事務にかかわらせないやり方と、平仄がとれている。給与所得者がこのような立場にあることは、日本の税制を理解する上で、重要なポイントである。だから、わざわざコラムにした。

なお、消費税法の課税仕入れの定義において所得税法28条1項を参照する立法政策については、給与所得の定義に多くを依存しすぎである、という評価が可能かもしれない。この点は、消費税法基本通達1-1-1のような基本中のキホンに関係する。BradfordのX-Taxにもつながる。これだけでは(また)言葉足らずであり、さらに長大な補足が必要になってしまうが・・・

No comments:

Post a Comment

Comments may be moderated for posts older than 7 days.