井上康一・移転価格税制についての素朴な疑問(税務研究会出版局2025)は、「国際税務」連載時から注目されたが、一書になってさらにインパクトが増した。
資源制約のある日系多国籍企業にとっての現実的かつ効果的対応策を提示する、という本書のアプローチは、魅力的である。
提案の方向性は理にかなっている。すなわち、日系多国籍企業の移転価格対応策として、「外国子会社との国外関連取引に係る営業利益率に関する固めの適正レンジを設定し、当該国外関連取引の実態に合った親子間契約書を整備し、上記レンジ内に外国子会社の実際の営業利益率が収まるようなメカニズムを盛り込み、それを実行していくこと」(600頁)を提案している。
とりわけ、日本親会社に重要機能等が集中し外国子会社は単純機能等のみというよくある事案でTNMMが適用される場合を念頭において、「事後の正当化に腐心することではなく、異常値の正常化に取り組むこと」(607頁)、「取引の正当化から、取引の適正化へと舵を切ること」(618頁)を推奨する点が、いいと思う。
本書の提案が、移転価格の実務を第一線で担う方々にどう受け止められていくか、これからが楽しみだ。
なお、寄附金課税と移転価格課税の関係の論点のように、すでに対話が始まっている例もある。参照、池田義典・移転価格課税と国外関連者寄附金課税を再考する―独立企業間価格 vs.時価、および租税条約の解釈を中心に―。
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