10月から駒場の大学1年生のみなさんとご一緒に、「法Ⅱ」という授業で実定法学に入門している。教科書は森田(2020)。この本のChapter 1がすばらしいことはすでに述べた。
Chapter 2の合意に関するストーリーも読み応えがあって、物々交換の世界→契約法の導入→貨幣の導入→評判による解決→反復継続による信頼形成ときて、Greif (JEH 1989)で閉じるあたり、まことに憎い構成だ。森田教授のonline appendixも参照。ただし、実定法学入門を標榜するぼくの授業では、貨幣を利用することを「契約法によらない対処法」(33頁)と表現している点については、注釈が必要だった。日本の実定法では、売買は代金の存在を前提としていて(民法555条)、契約法の規律を受けるからだ。
今日はChapter 3を読んで、要件・効果の組み合わせである「ルール」について考えた。
- 作成主体、適用対象、実施主体の話がわかりやすい
- ルールの望ましさの判定基準として、目的と手段を考えるというのも、法道具主義の本書らしいすっきりした話だ
- サッカーのルールの具体例は、サッカーになじみのない読者を念頭に、もうすこし説明が必要(バックパスルールの例で「間接フリーキック」の意味がわからない方もいた)
- 校則の具体例は、高校生活を送ったことのある若者にとって、とてもわかりやすい例
- ルールの規律密度が高まっていく現象を、校則の「成長」や、センター試験(2020年度(2021年1月実施)をもって廃止され現在は大学入学共通テスト)の受験ルールなどで例解するのも、わかりやすい
- ここからrule versus standardの話につなげていくのは容易
全体として、だいぶ前に宮澤俊義を意識して書いたこのコラムと響きあう内容で、「ことばによる統制」の意義を考えさせるChapterだ。
校則の例が出てきたことを受けて、今日の授業の後半では、大阪髪染め訴訟の地裁判決をみんなで読んでみた。多くの問題点があるところ、焦点はふたつにしぼった。①校則の性質と、②地裁判決の構成だ。②については、下級審における争点整理と事実認定の決定的重要性など。授業で触れなかった点について最後にフロアから質問が出て、持ち帰って調べたところ、不法行為に基づく損害賠償債務の遅延損害金の計算は複利計算ではなく単利計算だった(最判令和4年1月16日民集76巻1号1頁)。いやー、勉強になりました。
来週のテーマは「解釈」。ある最高裁判決を読む予定。さらに、同じコマの「法Ⅱ」を別クラスで担当している白石忠志教授に、遠藤聡太「鳥獣保護管理における銃猟行為の刑法的規律」Law&Practice 19号(2026年2月)掲載予定の存在を教えてもらったので、ぼくのクラスでもどこかでとりあげたい。このクラスで読む時期には、いま話題の熊出没がおさまっていればいいのだけど。
No comments:
Post a Comment
Comments may be moderated for posts older than 7 days.