いつも租税判例研究会の様子は、浅妻教授の「ブログだったもの」に詳しく掲載される。しかし今回はまだのようだ。私の聞き取り精度が低いため浅妻教授の代わりにはならないが、独断と偏見に基づきここにノートしておく。そのような性質のものなので、評釈者や発言者のお名前はあえて記さない。
【事案】親と子の間で借地権設定→親から子に現金贈与→相続時精算課税の選択→相続開始
【争点】本件借地権相当額を相続税の課税価格に加算すべきか?
【原告らの主張】原告ら(相続人)は、贈与税の除斥期間が過ぎているから加算すべきでないと主張した。
相続税法21条の15第1項にいう相続税の課税価格に加算すべき相続時精算課税適用財産というためには、特定贈与者からの贈与に係る贈与税について課税当局による課税権限の行使が可能であることが必要となる。そうすると、特定贈与者からの贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間が経過したことにより、課税当局による課税権限の行使が不可能となった場合には、相続時精算課税適用財産として相続税の課税価格に加算することは許されない。
【判旨】 請求棄却
ア 原告らは、平成22年3月9日に提出した相続時精算課税選択届出書に係る財産の贈与を受けた平成21年以後の年である同年中に、対価を支払うことなく本件借地権相当額の経済的利益を受けたことにより、当該経済的利益を贈与により取得したものとみなされる(相続税法9条)。
そのため、本件借地権相当額は、特定贈与者である亡Fからの贈与により取得した財産として相続時精算課税の適用を受けるものであって、原告らの贈与税の課税価格の計算の基礎に算入されるものに該当する。これに対し、その該当性を否定する規定は相続税法その他関連法令において見当たらない。
したがって、本件借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算されるべきものである。
【原告の主張に応答する判示部分(下線は増井による)】
イ(ア)原告らは、上記第2の5(原告らの主張)(1)及び(2)のとおり、本件借地権相当額の贈与に係る贈与税に対する更正決定等の除斥期間は既に経過していたから、同贈与税について課税当局による課税権限の行使は不可能であり、本件借地権相当額は、本件相続税の課税価格に加算することができない旨主張する。
しかし、相続税法21条の15は、相続税の課税価格に加算される相続時精算課税適用財産の範囲について、相続税精算課税制度の適用を受ける財産のうち「当該取得の日の属する年分の贈与税の課税価格計算の基礎に算入されるもの」と規定するにとどまり、これを超えて、納税者の申告や税務署長の更正決定等により贈与税の課税価格に算入されたものとは規定していない。そのほか、同法の規定や本件全証拠によっても、原告らの主張を裏付ける規定や見解は見当たらない。
したがって、原告らの上記主張は採用することができない。
【フロアからの指摘】
- もし相続時精算課税を選択していなかったら、贈与税については除斥期間により課税できない。このこととの対比では、結論のスワリがわるい。しかし21条の15の文言は「算入されるもの」となっており、「算入された」となっていないから、文言上、加算するほうが自然。
- この判決が定着すると、相続時精算課税を選択せずに贈与税を脱税し、7年過ぎることをじっと待つと除斥期間を利用できることになる。これは相続時精算課税を使いやすくするという方向とは逆。
- みなし贈与を加算するのは、文言上はそうならざるを得ないとはいえ、そもそも相続時精算課税制度の本来の趣旨に合致しているか?
- 相続時精算課税の選択をしても、贈与税の除斥期間が進行するのか?
- これはそもそも除斥期間の問題ではない、と判断したからこそ、つれない判決文になっている。相続税の除斥期間だけの問題だ。
- 相続時精算課税はいったん選択したら一生付きまとう制度だ。「一体化措置」という趣旨を厳格にセットとして理解する。
- 判決文を読んだ段階では当たり前の判断だと考えたので、いろいろ論点を出してもらってありがたい。別の方向の議論として、贈与税につき課税処分を受けていなくても加算してよいのか。あるいは、仮に贈与税について処分を受けていたらそれと異なる加算は可能か。
- 相続時精算課税においては、贈与税は仮の課税でしかない。それが誤っていたとして、本来の課税を直さなければならないわけではない。
- 19条1項(7年加算)にも波及する判断であろう。自分たちの知らないところで贈与が起こっていたら、税理士の先生方が困る。
- 裁判所は贈与税除斥期間の問題ではないと考えて、21条の15の「算入されるもの」という文言からあっさりと理由を説示するにとどまったのだろう、というフロアの議論が腑に落ちた。
- ChatGPTが、「相続税及び贈与税等に関する質疑応答事例(令和5年度税制改正関係)について(情報)」という文書を探してきたので、その 10頁の問2-4をみてみた。しかしそれは、「相続時精算課税に係る贈与により取得した財産について贈与税の除斥期間経過後に評価誤り等が判明した場合の相続税の課税価格に加算される金額」というもので、評価誤りのケースであって本件のようにそもそも加算しなかったケースではなかった。
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