1.インドでは、最高裁のVodafone事件に関する判断を覆す形で、2012年の遡及立法で間接譲渡への課税をしていたところ、今回、遡及課税をやめる旨の法律改正。このニュースは、専門雑誌で話題を呼んだだけでなく、すでに多くのオープン・ソースでカバーされている。ちょっと検索するだけでも、たとえば、これとか、これとか、これとか。
2.そして、8月14日号のThe Economist誌に、Bygones are bygones: India consigns its tax time-machine to the pastという記事が載った。そこには、
- 野党時代のBJPが遡及立法を批判していたこと
- Cairn Energyが英印投資協定に基づく昨年の仲裁判断を受けて仏裁判所でインド政府の在パリ資産の凍結を勝ち取っていたこと
- Vodafoneが蘭印投資協定上の仲裁判断を得ていたこと
- 課税に関する紛争を国際法廷に委ねることに、インド政府が継続して不信感を抱いてきた
3.これに対し、8月18日の日経「インドに国際仲裁尊重の兆し Amazonに干天の慈雨」は、インドのスタンスが変わってくる兆しを報ずる。アマゾン・ドット・コムとフューチャー・グループの紛争につき、最高裁が、シンガポール国際仲裁センターが出した判断をインド国内で有効としたからである。
日経のこの記事の最後の段落は、積年の植民地支配によるトラウマに言及している。根が深い問題である。そういえば、Katharina PistorのThe Code of Capitalも、企業が現地国を訴える投資協定に批判的なまなざしだった。
4.従来から、租税条約については、課税当局間の相互協議を促進するためのソフトなつくりの仲裁条項が増えてきていたが、インド政府はこれに消極的であった。だから、日印租税条約にも、仲裁条項は入っていない。これは、現下の国際交渉でも重要なポイントである。というのも、デジタル課税の柱1をめぐっては、7月の声明で、
In-scope MNEs will benefit from dispute prevention and resolution mechanisms, which will avoid double taxation for Amount A, including all issues related to Amount A (e.g. transfer pricing and business profits disputes), in a mandatory and binding manner.
とされており、義務的かつ拘束的な紛争処理メカニズムを志向しているからである。はたしてインドは歩み寄れるか。