20 January 2021

IFA Japan Branch, Webinar on Preservation Clause in Tax Treaties

IFA日本支部で下記のセミナーが開かれた。11月の告知の段階ではWebinarではなく通常のミーティングにより開催する予定だったが,参加者多数によりWebinarの形で開催された。

  • 日時:2021年1月20日 15時~16時30分
  • 場所:Zoom
  • 内容:租税条約の解釈-プリザベーション原則
  • 講師: 井上康一 会員 (ジョーンズ・デイ法律事務所 オブカウンセル 弁護士)
  • コメンテーター 宮武敏夫会員、今村隆会員、木村浩之会員
  • 司会 青山慶二会員

井上弁護士のプレゼンは3つの具体例を示しつつ,35分で効果的。すなわち,日本で租税条約のプリザベーション条項が確認規定であるという考え方が広まったのはおそらく小松教授によるが,確認規定説の根拠は弱い,と主張。確認規定説の第1の根拠は1954年日米租税条約以来日本法は米国法に準拠してきたというものだが,1963年OECDモデル租税条約以降はむしろ同条項を設ける例が少ない。第2の根拠は二重課税排除という租税条約の主目的からプリザベーション原則が導かれるというものだが,比較法の知見によると各国バラバラで必ずしもそうはいえない。というのである。この英文論文をさらに一歩進めて,考察を深められていた。

コメンテーターとのやりとり。

  • 宮武弁護士は,租税条約はもともと税金を課徴する根拠にならないと整理して確認規定説をとる,しかしそう解するとフランスのやり方とは逆にはなる,とコメントされた。→共著者の間でも微妙な点では(当然のことながら)意見が分かれていた。具体例3つを挙げる検討が井上弁護士の功績であると宮武弁護士が付言していたのも,印象的。
  • 今村教授は,プリザベーション原則が幻だという井上弁護士の指摘について異論を提示し,租税条約の目的が非居住者に対する源泉地課税を制限するものである以上,(例外の余地は認めつつも)解釈指針としては意味がある,と主張。
  • 木村弁護士は,スライドの丁寧な読解に基づき,日本法でも受け皿規定の存在にかかわらず,条約を適用しないレベルの国内法の課税を増やすことを拒絶する解釈論がありうることなどを指摘。→そういえばたしかに,所得税法162条の解釈について中里教授,木村教授,本庄教授の説があった。

フロアからも活発な意見がでた。

  • 条約規定の文言がmayかshallかで違ってくるのではないか。
  • 日本の法制実務が国内法できちんと受け皿規定を設けること自体,プリザベーション原則が幻ではないことの証左だといえるのではないか。
  • インド政府の配当分配税などは,租税条約の規律を迂回するやり方で,実質的にみるとしたたかに国内法で条約の制限をかいくぐっているのではないか。
  • フランスはどういう背景があって特異なポジションをとっているのか。→この指摘を受けて挙げられた規定CGI Art. 4bis, 165bis, 209をみると日本法の受け皿規定に近いような印象もある。
  • 租税条約の手続的規定は国内法との関係でどう位置づけられるか。→古典的な侵害留保原則の適用で処理するのかなと感じた。
  • 国会の関与が条約と法律で異なる以上,条約優位説を無条件に前提としていいか。などなど。
  • 井上弁護士と共著で『交錯』を書かれた仲谷弁護士も登場された。オンラインならではといえよう。

10年以上前,ぼくがNYUに出かける前にこの問題を調べたときから比べて,ずいぶん議論が展開したものだ。

  • この論題が各国の憲法秩序にゆだねられるものである以上,各国でまちまちの取り扱いになることは致し方ない。
  • 井上弁護士がVann教授の受け売りと断りつつ「〇〇原則から具体的な帰結を導く」という発想へのイマシメを説いていたことには大いに共感。
  • 今回の議論を経ても,cherry-pickingを納税者に認める解決にはぼくはどうもなじめない。→これは,米国法のcheck-the-boxがmismatchの温床になったことや,選択を認めることが社会厚生を高めるとは思えないことなど,それなりに理由とすべき材料はあるように思うのだが,きちんとした立論にもっていくにはあと一歩何か足りない気がする。

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