Michael P. Devereux et al., Taxing Profit in a Global Economy (2021) は、BEPSやデジタル課税に関する現下の政治論議から一歩退いて、事業利益の課税について原則と実際の根本問題を検討する骨太の書物である。RPAI(所得による残余利益の配分)とDBCFT(仕向地ベースキャッシュフロー税)を提案する部分は、既出である。しかし、こうしてまとまった一書になってみると、類書にない迫力を感じる。それは、本書が、《なぜ/どこで事業利益に課税するのか》という根本から順を追って説き起こしているからである。
本文333頁、7章構成。第1章「導入」は、租税回避や租税競争といった問題を提示し、原則に基づいた包括的なアプローチによってこれらに接近することを宣言する。第2章「利益課税の主論点」は、経済効率性、公正さ、租税回避への耐性、執行の容易性、誘因両立性(個別の国が国際合意から抜け駆けする誘因をもたないこと)という5つの判断基準を示す。第3章「現在の国際課税レジーム」は、この判断基準を現在の国際課税ルールにあてはめる。その診断結果は悲惨なものであり、既存システムは経済的に非効率で、租税回避に弱く、極端に複雑であるだけでなく、実効税率の引き下げ圧力によりその長期的存続可能性が脅かされていると断ずる。
転じて第4章「抜本改革の選択肢」は、課税権分配基準の候補として、原産地国(origin country)、親会社居住地国または事業本部国、究極的な株主など事業所有者の居住地国、仕向地国の4つを挙げ、それぞれについて上述の判断基準に照らし評価する。とりわけ消費者の可動性が低いことから、最後の仕向地国(destination country)、すなわち第三者への売上がなされる地である市場国(market country)が有望であるという。そして、第5章「改革案検討における基本的選択」で具体化にあたっての論点を提示した上で、第6章「RPAI」および第7章「DBCFT」において改革案を展開する。
前書きによると2013年12月から検討をはじめたという。まさにBEPSプロジェクト以降の国際課税の激動を眺めながら、時間をかけて練り上げられた書物ということになる。説明は丁寧であり、一流の経済学者と法律家が協働していることも魅力である。共著者の一人であるMichael Keen氏が東京で講演したとき、ぼくは、仕向地に着目する場合、VATがあるのにどうしてDBCFTが必要かを質問した(租税研究838号29頁)。本書の第2章はレントに対する事業レベルの課税が望ましいものである可能性を示すことで、この問いに応答してくれている。
仕向地ベース課税の根拠として、価値創造など原産地ベースのロジックによるのではなく、仕向地ベースで課税することが5つの判断基準に照らして望ましいからとしている(168頁以下)。明快だ。Mirrlees Reviewではsourceと呼ばれ法的定義とのズレが気になった点も、originという呼称に統一されてすっきりした。日本では周知のように浅妻章如教授が顧客所在地で課税する議論を展開してきた。本書の議論の仕方は方法論的にさらに洗練されている。
国際課税ルールをめぐる外交交渉から一歩退いた見取り図を得たい人におすすめ。世界中の授業やゼミで読まれていくだろう。これがぼくの第一読後感。もちろん建設的批判はこれからだ。
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