17 June 2026

最判令和8年6月16日、外貨間取引為替差益事件

最高裁の第三小法廷が、令和5年(行ヒ)第366号 所得税更正処分等取消請求事件につき、弁論を開いたうえで、上告棄却。ここから判決文を読める。

1.事案と上告理由

日本の居住者が、スイス所在の外国金融機関にある自己名義の預金口座へ合計105億円を送金、この外国金融機関に資産運用を一任した。この外国金融機関は、運用対象資産に属する外国通貨を用いて、他の種類の外国通貨や外国通貨建て有価証券を取得する取引を行った。

上告理由は、外国通貨により他の種類の外国通貨または同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引を行っても、為替変動のリスクが依然として存在し、為替差益は確定しない、それゆえ「収入すべき金額」(所得税法36条1項)があるとはいえない、というもの。

2.判旨の概要

最高裁は、上告を棄却した。判旨をたどると、まず、権利確定基準を確認したうえで、

所得税法は、所得の把握についても本邦通貨の額面価格の単位を基準に行うことを予定している

と判示する。それを踏まえて、次のように述べる(テクストの色付けは引用者による)。

以上を踏まえると、ある外国通貨により他の種類の外国通貨又は同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引が行われた場合、変動する外国為替の売買相場の下で本邦通貨との関係において変動していたある外国通貨の経済的価値が、上記取引により他の種類の外国通貨又は有価証券の経済的価値をもって固定化され、他の種類の外国通貨又は有価証券の経済的価値が流入することによって、ある外国通貨の取得時の経済的価値を上回る部分が実現した利得となるとともに、上記取引時に他の種類の外国通貨又は上記有価証券に係る権利が収入の原因となる権利として確定することから、その時点における他の種類の外国通貨の金額又は有価証券の価額の円換算額(所得税法57条の3第1項参照)を同法36条1項にいう「収入すべき金額」とすべきこととなる。

この判示を受けて、次の結論を導いた。

そうすると、居住者が、外国通貨により他の種類の外国通貨又は同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引を行った場合、上記取引を行った日の属する年分の所得の金額の計算上、上記取引時における他の種類の外国通貨の金額又は有価証券の価額の円換算額が「収入すべき金額」となると解するのが相当である。そして、上記円換算額から支払に用いた外国通貨を得るのに要した金額等を控除した金額が、上記取引に係る所得の金額となるというべきである。

3.補足意見

林道晴裁判官の補足意見は、法廷意見に賛同しつつ、補足して次のように述べ、立法による対応を促している。

しかし、それは飽くまでも為替差損益に係る課税について明文の規定がなく、外国通貨によって他の種類の外国通貨や同一の外国通貨建ての有価証券を取得する取引に係る所得の把握についても本邦通貨の額面価格の単位を基準に行うほかない現行法を前提とする解釈論にとどまる。外国通貨建ての投資や国際取引が日常的に活発に行われている現状において、所得の把握を常に本邦通貨の額面価格の単位を基準に行うこと自体に問題がないかも含めて、外貨建取引に係る所得税の課税の在り方を改めて検討すべき時期に来ていると考えられる。仮に、所得の把握を常に本邦通貨の額面価格の単位を基準に行う方針を維持するとしても、為替差益に係る所得の実現時期や、外貨建取引に係る「収入すべき金額」、必要経費等について定める規定を設けることなく、これを所得税法36条1項等の一般的な解釈適用に委ね、外貨建取引が行われた場合の円換算額の計算規定にとどまる同法57条の3を設けるにとどめていることは、租税法律主義の観点から望ましい状況とは考えられないし、日本の租税政策に対する国際社会からの信頼を損なう現象が出てくる可能性も否定できない。

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