1.人格のない社団等に対する法人税の課税は、収益事業課税になっている。これは、どういう理由によるのだろうか。定例の夏季集中講義で、ご質問をいただいた。
2.ひとつの答えは、歴史的説明だ。当初から、収益事業課税だった。すなわち、1957年3月31日の法律第28号による法人税法改正で、旧法人税法1条に第2項を追加し、法人でない社団又は財団で代表者又は管理人の定めがあり、かつ、収益事業(継続して事業場を設けてなすものに限る。)を営むもの(当該社団又は財団で収益事業を廃止したものを含む。以下「人格のない社団等」という。)を、法人とみなして法人税法の規定を適用することとした。
その説明として、第26回国会参議院大蔵委員会第6号昭和32年2月21日で、当時の塩崎潤大蔵省主税局税制第一課長が次のように述べている。
先ほど申し上げましたように、人格なき社団、財団をどういうふうに税法上取り扱うかということは非常にむずかしい問題でございますけれども、収益事業部分については一つ法人税を課税しようという考え方でございます。この収益事業は何かと申しますと、現在におきまして、すでに課税の先例がございます。現在まあ公益法人でも御承知の通り昭和二十五年度からその収益事業部分につきましては課税いたしております。その収益事業は何かということは法人税法の施行規則の一条の三に規定してあるわけでございますが、物品販売業その他二十八業種、業種が指定してございます。人格なき社団、財団の収益事業につきましては、事業場を設けて継続的にこれらの収益事業を行うものだ、こういうふうにいたしたいと考えております。原始産業は入らない、それからまた出版業あたりで単に会員に出版物を頒布しておるような場合、こんなのは収益事業とは見ないというような考え方でおります。先ほどから申し上げましたように、私どもの考え方は、人格なき社団によりまして一つの全然納税義務のない真空地帯ができるということをセーヴする趣旨でございまして、零細な人格なき社団の収益事業を追及するという趣旨ではございません。
この説明からは、「全然納税義務のない真空地帯」をなくすことが目的であったこと、その際、収益事業部分について法人税を課税する既存ルールを先例としていたこと、原始産業や会員への出版物頒布などは課税対象から除外すること、がわかる。制度史については、佐藤孝一「人格のない社団の成立要件についての一考察―類型論による租税法解釈の一展開として―」『税務大学校論叢』18号(1987年)。
3.その後、税制調査会が重要な文書を出した。平成17年6月17日税制調査会基礎問題小委員会非営利法人課税ワーキング・グループ「新たな非営利法人に関する課税及び寄附金税制についての基本的考え方」だ。この文書は、次のように述べた。
「人格のない社団等」については、収益及び費用の実質的な帰属主体として一定の団体的性質を備えていることを踏まえ、これを法人とみなして収益事業からの所得に対して課税されている。人格のない社団等には、公益的活動や共益的活動を行うような団体から、営利的活動を行う団体まで様々なものがある。「新たな非営利法人制度」の制度化に伴って、営利目的のものでなくても法人格取得の途が開かれるため、法人格を取得して「非営利法人」に移行することが少なからず想定される。このような事業体の選択に税制が歪みをもたらすことのないよう、人格のない社団等に対する課税について、営利法人や非営利法人との課税のバランスや租税回避の防止の観点から、その実態に配意しつつ、そのあり方の見直しを行う必要がある。
すなわち、「事業体の選択に税制が歪みをもたらすことがないようにする」という考え方にたって、見直しの必要性を問題提起したのである。もっとも、「その実態に配意」した検討は実際には先送りされ、全所得課税する団体を切り出す法的基準が提示されることはなかった。その後、2008年の税制改正は新公益法人制度の施行対応に集中し、人格のない社団等の収益事業課税は維持された。この点を批判するものとして、兼平裕子「権利能力なき社団と人格のない社団等―民事法における実体論・手続論と租税法における借用概念―」『愛媛大学法文学部論集』33号(2012年)57頁、121頁。
4.人格のない社団等の定義には、非営利性の要件が含まれていない。そのため、「なぜ収益事業に限って課税するのか」と正面から問われた場合には、改めて、合理的な説明が必要になる。この点、現行法は、「事業体の選択に税制が歪みをもたらさない」という考え方からすると、課題を残している。営利的な任意団体が人格のない社団等の形態をとれば収益事業課税に服し、同じ実態の団体が一般社団法人の形態をとって非営利型法人の要件を満たさなければ全所得課税になる。つまり、2005年税調ワーキング・グループが指摘した非中立性が、少なくとも理論上は解消されていない。
5.2002年の段階で、増井良啓「組織形態の多様化と所得課税」租税法研究30号(2002年)1頁、17頁は、次のように述べた。
人格のない社団等の非収益事業課税を非課税としていること(法人税法7条)は、小規模な町内会や同窓会の多くを、課税事務から解放する機能をもつ。この機能を重視するなら、課税ベースを普通法人並みに全所得としたうえで、一定の売上高基準未満の小規模な組織を課税対象から除外する、といった制度も構想できよう。
それからすでに25年近く経過してしまった。集中講義で質問をいただいた機会に、改めてここで論点を提示する次第だ。
6.最近も、片上孝洋「人格のない社団等に対する法人税課税の再考」『税法学』594号(2025年)が、構成員に利益を分配できるかという意味での「営利性」を統一的な基準にしている。これと比較すると、2002年の増井論文は、簡明な売上高基準を提示した意味がある。
これを展開すると、次のような議論につなげていくことも可能ではないか。
- 人格のない社団等について、法人格の有無を課税範囲決定の中心的基準とせず、原則として普通法人と同様の全所得課税とする。
- 課税・申告に伴う社会的費用を考慮し、年間総収入金額等の客観的規模基準を下回る小規模団体については法人税の納税義務を免除する。
- この小規模者免除を、利益不分配要件と結びつけるか否かは、課税中立性と執行簡素化との調整問題として別途検討する。