2012/06/02

最判平成24・1・13(養老保険の保険料,一時所得の計算上「支出した金額」としての控除を否定)

こういう養老保険だ。保険期間は3年または5年,死亡保険金の受取人が会社,満期保険金の受取人が役員または親族。

保険料              満期保険金

会社  ――→  生保会社  ――→  役員
(契約者)                   (被保険者)


会社が保険料を支払い,二分の一を役員に対する貸付金と経理し,残額を保険金として経理(「本件保険金経理部分」,これは損金算入)。のちに,役員が満期保険金を受け取る(=一時所得)。この一時所得の計算上,保険料が,所得税法34条2項の「その収入を得るために支出した金額」にあたるかどうかが問題となった。

最高裁は,
「一時所得に係る支出が所得税法34条2項にいう『その収入を得るために支出した金額』に該当するためには,当該収入を得た個人において自ら負担して支出したものといえる場合でなければならない」
 と判示し,本件保険料経理部分の控除を認めなかった。

その後,平成23年6月の改正で,所得税法施行令183条4項に,次の第3号が追加された。
  •  事業を営む個人又は法人が当該個人のその事業に係る使用人又は当該法人の使用人(役員を含む。次条第三項第一号において同じ。)のために支出した当該生命保険契約等に係る保険料又は掛金で当該個人のその事業に係る不動産所得の金額、事業所得の金額若しくは山林所得の金額又は当該法人の各事業年度の所得の金額の計算上必要経費又は損金の額に算入されるもののうち、これらの使用人の給与所得に係る収入金額に含まれないものの額(前二号に掲げるものを除く。)
平成24年には,所得税基本通達が改正され,次のようになった。
  • (生命保険契約等に基づく一時金又は損害保険契約等に基づく満期返戻金等に係る所得金額の計算上控除する保険料等)
    34-4 令第183条第2項第2号又は第184条第2項第2号に規定する保険料又は掛金の総額(令第183条第4項又は第184条第3項の規定の適用後のもの。)には、以下の保険料又は掛金の額が含まれる。(平11課所4-1、平24課個2-11、課審4-8改正)
    (1) その一時金又は満期返戻金等の支払を受ける者が自ら支出した保険料又は掛金
    (2) 当該支払を受ける者以外の者が支出した保険料又は掛金であって、当該支払を受ける者が自ら負担して支出したものと認められるもの
    (注) 1 使用者が支出した保険料又は掛金で36―32により給与等として課税されなかったものの額は、上記(2)に含まれる。
    2 相続税法の規定により相続、遺贈又は贈与により取得したものとみなされる一時金又は満期返戻金等に係る部分の金額は、上記(2)に含まれない。
高橋祐介・ジュリスト1411号9頁は,本件の背景にフリンジ・ベネフィット課税の問題があることを指摘したうえで,簡易生命表による5年死亡確率のデータをもとに,
「保険料の半額だけ役員が自己資金で負担していれば(あるいは給与所得課税を受けていれば),残りの半額分の現金を役員が将来ほぼ確実に受け取りうるとしても,法人段階での役員給与課税は行われず,役員側でも一時所得課税を受けるだけであり,かつ保険金受領時まで課税が行われない」
と指摘し, 「本件の抱える問題は,解決していない」とする。

2012/05/25

須藤靖先生のブックトーク

図書館で,須藤靖先生のブックトークがあった。Isaac Asimov, Nightfall (1941)を語られた。原作のもつ独特の暗さとは対照的に,須藤先生のお話は,夜空ノムコウに対する明るい知的探求心を,惜しげなく聴衆にシェアしてくださるものだった。

2012/05/08

資本に課税すべきでないとする見解をエコノミストが再考

The Economistのこの記事が,次のペーパーを紹介。

  • Juan Carlos et al. (2008)は,資本課税は「結局悪い考えではない(not a bad idea after all)」という。すなわち,資本市場は不完全であり,家計は一生のすべての浮き沈みに対して保険をかけることができない。資本リターンの一部を課税して,リスクに対する社会保険を供給することは,適切である。既存モデルは,資本税の成長コストを過大視してきた。大部分の資本所得税は退職に備えて貯蓄する勤労世代の成人によって支払われており,彼(女)らは租税にかかわらず貯蓄を続ける,というのである。
  • Thomas Pikkery and Emmanuel Saez (2012)は,相続の存在に着目。
  • Emmanuel Farhi et al. (2012)は,不平等の拡大が政治を不安定化し,重税により富を収用することを促すため,現在の貯蓄と投資を阻害する可能性があるという。
もっとも,この記事は,資本は可動性が高いため,各国のアプローチが異なると企業はより有利な国に投資するだけであるから,高い資本税率を心配することに理由があるとも述べている。

2012/04/21

東京高判平成22・3・24(交際費,オリエンタルランド事件)訟務月報58巻2号346頁

交際費の認定事例で,原審東京地裁平成21・7・31判例時報2066・16を維持。オリエンタルランド事件。

1)交際費の認定にあたり,一般論として「支出の相手方,支出の目的及び支出に係る法人の行為の形態」を考慮することが必要であると述べ,この基準を事実にあてはめるという論証構造。もっとも,従来の2要件でも結論は変わらなかったのではないか。

2)X社は清掃業務をB社に委託し,B社がC社に再委託した。


X社→B社→C社
    D
 
裁判所は,委託料差額がB社を支配するD個人に対する「謝礼又は贈答の趣旨でなされたと認めるのが相当」であるとし,Dが「その他事業に関係のある者等」にあたるとしている。Dの接待等のために支出しているという構成が,興味深い。

3)X社はまた,遊園施設への優待入場券を,取引先企業やマスコミ関係者に交付した。

X社→ 取引先企業・マスコミ関係者

裁判所は,優待入場券を使用して遊園施設に入場したときに,取引先企業・マスコミ関係者に対し,「Xの提供する役務に係る原価のうちその者に対応する分につき費用の支出があった」とした。交付自体を支出とみていないのは,どうしてだろうか。益金側で売上金額を計上することに,困難があったのか。