2023/06/07

新しい資本主義の グランドデザイン及び実行計画 2023改訂版案

新しい資本主義のグランドデザイン及び実行計画2023改訂版案は、2022年閣議決定から1年がたち、「人への投資や設備投資の遅れといった課題に更に加速して取り組む必要性」を踏まえて改訂するもの。税制に関する指摘を多く含む。

たとえば、Ⅲ.人への投資・構造的賃上げと「三位一体の労働市場改革の指針」、(6)成長分野への労働移動の円滑化、の中で、所得税法の退職所得控除について次の記述がある(12頁)。

②退職所得課税制度等の見直し

 退職所得課税については、勤続20年を境に、勤続1年あたりの控除額が40万円から70万円に増額されるところ、これが自らの選択による労働移動の円滑化を阻害しているとの指摘がある。制度変更に伴う影響に留意しつつ、本税制の見直しを行う。

また、Ⅳ.GX・DX等への投資。そこでは、知的財産の創出に向けた研究開発投資を促すための税制面の検討や、高度外国人材の呼び込み(19頁)に言及するし、暗号資産について次の記載もある(29頁)。

暗号資産に係る税制上の取扱いについて、第三者が短期売買目的以外で暗号資産を継続的に保有する場合を、他の暗号資産の保有と区別して取り扱うことが可能かどうか、法令上・会計上の在り方を踏まえて、速やかに検討する。

さらに、 Ⅴ.企業の参入・退出の円滑化とスタートアップ育成5か年計画の推進、(4)スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築。ここでは、ストックオプションの環境整備についてかなり具体的な記載がある。やや長くなるが、引用しておこう(36-38頁)。

(ⅰ)ストックオプションプールの日本での実現に向けた会社法制上の措置(略)

(ⅱ)税制適格ストックオプションの制度見直し
 ディープテック系を中心に、事業化まで時間を要するスタートアップや、事業拡大のために未上場期間を長くとりたいスタートアップが、IPOのタイミングを柔軟に選べるようにすることが重要である。スタートアップの従業員報酬としてグローバルに活用されているストックオプションについて、スタートアップの事業の成長速度に応じて権利行使(上場)のタイミングを柔軟化でき、また簡便な手続で応用できるようにするため、令和5年度税制改正において、創業5年までにストックオプションを付与する場合、権利行使期間を10年から15年に延長した。
 また、スタートアップの手続の簡素化の観点から、株券の保管委託義務を不要化することとしたところであるが、そもそも、税制適格ストックオプションの株式保管委託要件がM&A等の場面において制約になっている。これに対し、非公開会社では会社法の制約によって株式に譲渡制限が付されていること、また、発行会社及びストックオプション付与対象者によって税務処理が行われていることに着目し、非公開会社における税制適格ストックオプションの株式保管委託要件の撤廃を検討する。
 社外高度人材への税制適格ストックオプション付与のためには、一定の要件を満たすスタートアップに限定され、かつ中小企業等経営強化法による計画認定が必要となるが、この認定制度について調査を行った上で、認定に伴う手続負担なしで税制適格ストックオプションの付与を可能とするよう検討を行う。
 スタートアップの人材獲得力向上の観点から、税制適格ストックオプションの上限額の大幅引き上げ又は撤廃を検討する。
 これらを含めて、スタートアップフレンドリーな制度となるよう税制適格ストックオプションの手続の簡素化や要件の更なる見直しを含めて利便性向上を図る。
(ⅲ)未上場会社の株価算定ルールの策定
 税制適格ストックオプションの権利行使価額は、当該ストックオプションに係る契約の締結時の株価を上回ることが要件となっている。未上場会社であるスタートアップが税制適格ストックオプションを導入する場合の当該株価の算定について、売買実例等により算定した価額に加え、財産評価基本通達の純資産価額方式(会社の総資産の価額から負債等の額を差し引いて評価額を定めるという、小規模会社向けの簡便な算定方法)による算定を認めることとする。また、会社が種類株式を発行している場合には、その内容を勘案しつつ、純資産価額方式によって算定された価額となることを明確化する。この点について、速やかに通達等を整備する。
 あわせて、種類株について、どのような場合に種類株主総会の特別決議を要する場合に該当するか明確でないといった指摘がある。そこで、実際のニーズを踏まえながら、要件の明確化を含めて必要な検討を行う。
ほかにも、個人からベンチャーキャピタルへの投資促進(44頁)、海外進出を促すための出国税等に関する税制上の措置(46頁)、海外の投資家やベンチャーキャピタルを呼び込むための環境整備(47頁)、オープンイノベーションを促すための税制措置等(48頁)、組織再編の更なる加速に向けた検討(49頁)など。Ⅶ.資産所得倍増プランと分厚い中間層の形成では、NISAとiDeCoについて具体的に言及(55-56頁)。

2023/06/03

安部慶彦・詳解合同会社の法務と税務

ゼミ卒業生の安部さんから、単著を公刊したとのうれしいお知らせをいただいた。合同会社について、「より広く、より深く実務に浸透する一助」(4頁)となることを目指して書かれた力作。合同会社の歴史から説き起こし、設立、社員・持分、社員の加入・退社、業務執行・機関、計算、組織再編・組織変更、解散・清算等を包括的に論じ、終章では株式会社と比較して合同会社を選択することのメリットとデメリットを利用目的ごとに検討している。

必ずしも通読を想定していない書物とのことだが、一読すると、いいところがたくさんあった。たとえば・・・

  • 先行文献が多くない合同会社に関する貴重な書物
  • 法務と税務の双方に目配り
  • 課税リスクを慎重に指摘
    • 持分の時価純資産法による評価の設例(82頁)など工夫をこらしており、そこから財産評価通達194の課題を指摘するところ(87頁)などは、慎重な筆致ながら「なるほど」と思わせる
    • 社員間で経済的価値が移転する場合の課税リスクという共通のテーマが、追加出資や持分譲渡、社員の加入と退社、出資の払戻し、残余財産の分配といった具体的な局面について論じられている
    • 業務執行者の報酬について、法人が業務執行社員となることができることに着目した分析(157頁)、グループ会社の場合に言及する箇所(159頁)なども、はっとするところ

今後、版を重ねていくことを期待したい。気の早いことであるが、そのときのために2点を指摘。

  • 必ずしも税務に明るくない法務専門家にとってヨリ優しい記述を たとえば「税務上のパススルー性」(15頁)は、知っている人には自明のことではあろうが、前提知識の確認という意味でも、はじめて登場する箇所で一言説明するなど。また、みなし配当に関する計算式は、そもそもどうしてそういう計算をするのかをちらっと補足しておくとよさそう(手前みそだが私の授業でも説明に苦労する)
  • 争いが生じて問題になる事例の蓄積を 設立登記からはじまって、解散・清算に至るまで、いわば法の生理現象面の叙述がかなり堅実になされている→今後さらに知りたいのは、法の病理現象とでもいおうか、「ここが困ったのでこういうことになってしまった」という個別具体的な実態だ→もっとも日本の裁判例・裁決例ではまだ素材が少ないであろう→国際的側面でミスマッチが生ずるような場合などはありそうな気もする

2023/05/30

税務訴訟資料のデジタル化

「税務訴訟資料」のデジタル化は、次の経過をたどった。

1.紙の冊子体の時代
昭和25(1950)年5月(1号)から平成16(2004)年3月(249号)まで。
各号につき「〇頁」として引用。
第1号は、新憲法の下で税法事件が司法裁判所に係属することになったことを受けて、昭和23年4月から昭和24年11月までに言渡しのあった判決を収録。当時の国税庁直税部所得税課によるもの。「税務訴訟資料(税務行政事件訴訟判決集)」と題されており、課税事件と徴収事件が混在。判決以外の執務参考資料も掲載していた。
紙の冊子体の最終は第249号で、平成12年12月までに言渡しのあった判決を収録。
なお、全体としては、「租税関係行政・ 民事事件判決集」及び「租税関係刑事事件判決集」の2部編に分かれ、刑事事件を別建てで収録する号もあった。

2.CD-ROMの時代
平成17(2005)年3月(250号)から平成23(2011)年3月(258号)まで。
各号につき「順号〇〇〇」として引用。
第250号は、平成13年1月言渡し判決(250号順号8813)からを収録。
第258号は、平成20年12月言渡し判決(258号順号11113)までを収録。
CD-ROMの収納ケースには、「租税関係行政・民事事件判例集」と印字。

課税関係判決は、平成20年判決分(税務訴訟資料第258号「順号10859~11113」)から。各号につき「順号〇〇〇」として特定。
徴収関係事件は、租税関係行政・民事事件判決集(徴収関係判決)として、平成21年1月~平成21年12月判決分から。順号表記のやり方は課税関係判決と異なり、たとえば平成21年1月のものは「21-1」などと表記。
事件番号を黒塗り加工し、確認できないようにしてある。

[典拠]

2023/05/20

Law & Contemp. Probl.(2022)の脱税特集で、シンポジウム

 これだった。


論文の成果物はDuke大学の雑誌に公表済。論文への公開リンクをコピペしておこう。

Volume 85, Issue 4 (2022)
Tax Evasion, Corruption and the Distortion of Justice

 

Diane Ring, Costantino Grasso & Lorenzo Pasculli
Special Editors

Articles

PDF

Corporate Governance and Value Preservation: The Effect of the FINCEN Leak on Banks

Florencio Lopez-de-Silanes, Joseph A. McCahery, and Paul C. Pudschedl

247

2023/05/14

OECD 2023 Progress Report for G7 Niigata

新潟でのG7 財務大臣・中央銀行総裁会議が終了した。そこに向けてOECDから報告されたのが、2023 Progress Report on Tax Co-operation for the 21st Century, OECD Report for the G7 Finance Ministers and Central Bank Governorsである。この報告書は、昨年のReportを更新しつつ、税務執行の新しい取り組みについて報告している。

  • 法人税 GloBE Information Return(GloBE情報申告)のone stop shop、やりとりの完全なデジタル化、Lead Tax Administration主導の協調的アプローチ(各国当局がバラバラに執行するコストを避ける)、共通かつ同時のリスク評価、発見されたリスクへの協調的対応、早期かつ拘束的な解決、重複要件の排除
  • 法人税以外 CARFPlatform Operators
  • 途上国 柱2が租税誘因措置にどう影響するかのパイロットプログラム、2つの柱の実施に向けての能力開発、デジタル貿易とVAT、税務行政のデジタル化、情報セキュリティ管理
2つの柱の実施が各国当局間の高度の協調を必要としており、その中で多国籍企業の事務負担をどう調整していくか、いろいろな対応を試みている。日本の国税庁がCRS情報をきっかけに個別的情報交換を要請し、オフショア相続財産を捕捉した例も紹介されている(パラ49)。

この報告を受けて、G7財務大臣・中央銀行総裁声明は、次のように歓迎の意を表明した(日本語仮訳のパラ24を引用する)。

24. 我々は、OECD/G20 包摂的枠組みによる経済のグローバル化及びデジタル化に伴う課税上の課題に対応し、より安定的で公正な国際課税制度を確立する二つの柱の解決策の迅速かつグローバルな実施に向けた我々の強い政治的コミットメントを再び強調する。我々は、第 1 の柱に関する多国間条約(MLC)の交渉における重要な進展を認識し、合意されたタイムライン内に MLC の署名ができる状態となるよう、交渉の迅速な完了に対する我々のコミットメントを再確認する。我々は、第 2 の柱の実施に向けた国内法制における進展を歓迎し、包摂的枠組みに対し、グローバルに一貫性のある実施のために、更なる執行ガイダンスについて作業することを求める。我々は、途上国に対して、二つの柱の解決策の実施に係る支援の重要性を強調しつつ、持続可能な税収源を築くための税に関する能力強化に対する支援を更に提供する。我々は、OECD の「21 世紀の税務協力に関する 2023 年進捗報告書」を歓迎する。