ゼミ卒業生の安部さんから、単著を公刊したとのうれしいお知らせをいただいた。合同会社について、「より広く、より深く実務に浸透する一助」(4頁)となることを目指して書かれた力作。合同会社の歴史から説き起こし、設立、社員・持分、社員の加入・退社、業務執行・機関、計算、組織再編・組織変更、解散・清算等を包括的に論じ、終章では株式会社と比較して合同会社を選択することのメリットとデメリットを利用目的ごとに検討している。
必ずしも通読を想定していない書物とのことだが、一読すると、いいところがたくさんあった。たとえば・・・
- 先行文献が多くない合同会社に関する貴重な書物
- 法務と税務の双方に目配り
- 課税リスクを慎重に指摘
- 持分の時価純資産法による評価の設例(82頁)など工夫をこらしており、そこから財産評価通達194の課題を指摘するところ(87頁)などは、慎重な筆致ながら「なるほど」と思わせる
- 社員間で経済的価値が移転する場合の課税リスクという共通のテーマが、追加出資や持分譲渡、社員の加入と退社、出資の払戻し、残余財産の分配といった具体的な局面について論じられている
- 業務執行者の報酬について、法人が業務執行社員となることができることに着目した分析(157頁)、グループ会社の場合に言及する箇所(159頁)なども、はっとするところ
今後、版を重ねていくことを期待したい。気の早いことであるが、そのときのために2点を指摘。
- 必ずしも税務に明るくない法務専門家にとってヨリ優しい記述を たとえば「税務上のパススルー性」(15頁)は、知っている人には自明のことではあろうが、前提知識の確認という意味でも、はじめて登場する箇所で一言説明するなど。また、みなし配当に関する計算式は、そもそもどうしてそういう計算をするのかをちらっと補足しておくとよさそう(手前みそだが私の授業でも説明に苦労する)
- 争いが生じて問題になる事例の蓄積を 設立登記からはじまって、解散・清算に至るまで、いわば法の生理現象面の叙述がかなり堅実になされている→今後さらに知りたいのは、法の病理現象とでもいおうか、「ここが困ったのでこういうことになってしまった」という個別具体的な実態だ→もっとも日本の裁判例・裁決例ではまだ素材が少ないであろう→国際的側面でミスマッチが生ずるような場合などはありそうな気もする
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