SGIはベルギー拠点の多国籍企業。ベルギーが移転価格課税をしたところ,これがEU条約の「開業の自由(freedom of establishment)」を定める規定などに違反するかどうかが問題とされた。
ECJは,国際取引のみを適用範囲とする移転価格税制が開業の自由に対する制限(restriction)にあたるとしたうえで,これを凌駕する公益上の正当化事由(overriding reasons in the public interest)があると判示した。課税権のバランスのとれた配分と,租税回避への対処,をあわせてみると,ベルギーの当該立法が比例原則に違反するほどのものではないとしたのである。
移転価格税制の適用範囲を国際取引にとどめるか,国内取引に及ぼすか。原則としてベルギー政府が決めてよいということだ。ただし,すでにスペインのように,適用範囲を国内取引に及ぼす税制改正をした国もある。
最近の租税事件を含めて,そのおりおりに思ったことの断片をつづります。 Candid and biased, and hopefully stimulating, comments on recent tax developments in Japan (and other matters).
27 April 2011
22 April 2011
最判平成22・2・16民集64・2・349(軽油引取税における「製造」)
不正軽油で,軽油引取税の脱税や,硫酸ピッチの不法投棄などが起こる。まさにそういう事案。仕入れた重油と灯油を石油精製工場に持ち込み,工場を設置する会社に委託してこれらを軽油にし,販売先に譲渡する取引を行っていた業者が,「軽油の製造」を行った可能性があるとして,最高裁は事件を破棄,原審に差し戻した。
原審が所有権の原始取得の有無を判断基準にしていたのに対し,最高裁は諸要素の総合的勘案により実質的に果たしていた役割をみよと判示。軽油引取税は道府県税だから,県ごとに総合判断の結果が分かれると,同一の取引に対して複数の県が課税する可能性がある。課税の競合である。地方税法144条の40は,道府県は相互に協力しなければならないと定めるが,これは,解釈適用の足並みをそろえるところまでいくのだろうか。
もっとも,県が摘発できなかったからこそ,不正軽油が社会問題になった(「執行の不足」)。とすれば,制度設計の上でより大きな問題は,課税の空白かもしれない。
原審が所有権の原始取得の有無を判断基準にしていたのに対し,最高裁は諸要素の総合的勘案により実質的に果たしていた役割をみよと判示。軽油引取税は道府県税だから,県ごとに総合判断の結果が分かれると,同一の取引に対して複数の県が課税する可能性がある。課税の競合である。地方税法144条の40は,道府県は相互に協力しなければならないと定めるが,これは,解釈適用の足並みをそろえるところまでいくのだろうか。
もっとも,県が摘発できなかったからこそ,不正軽油が社会問題になった(「執行の不足」)。とすれば,制度設計の上でより大きな問題は,課税の空白かもしれない。
I teach Tax Law at UTokyo.
20 April 2011
17 April 2011
最判平成22・4・13民集64・3・791(名古屋市の土地買取と譲渡所得の5000万円特別控除)
都市計画法上の強制的買取という形をとることで,5000万円の特別控除を利用して申告した事案。最高裁は高裁判決をくつがえし,特別控除を認めなかった。その理由は,土地所有者が具体的に建築物を建築する意思を欠き,都道府県知事等による当該土地の買取りが外形的に都市計画法56条1項の規定による買取りの形式を採ってされたにすぎない場合には,租特法33条1項3号の3所定の「都市計画法第56条第1項の規定に基づいて買い取られ,対価を取得する場合」に当たらないというもの。
この事案は,いくつかの興味深い問題を含んでいる。巨視的な視点からみると,土地買収にかかる公共支出と,譲渡所得税における租税優遇措置を,統合的に観察すべき事案かもしれない。用地買収の資金が足りない場合に,土地所有者に譲渡所得税がかからないルートを選ぶことで,その分,名古屋市としては買収資金を低めにおさえることが可能になる。租税上の利益(tax benefit)が,土地所有者から名古屋市に移転していることになる。最高裁はそのような移転自体をいけないといったのではなく,するつもりもない建築許可申請を出させて,「うそ」をいわせて租税優遇措置を利用することを否定したのではないか。
この事案は,いくつかの興味深い問題を含んでいる。巨視的な視点からみると,土地買収にかかる公共支出と,譲渡所得税における租税優遇措置を,統合的に観察すべき事案かもしれない。用地買収の資金が足りない場合に,土地所有者に譲渡所得税がかからないルートを選ぶことで,その分,名古屋市としては買収資金を低めにおさえることが可能になる。租税上の利益(tax benefit)が,土地所有者から名古屋市に移転していることになる。最高裁はそのような移転自体をいけないといったのではなく,するつもりもない建築許可申請を出させて,「うそ」をいわせて租税優遇措置を利用することを否定したのではないか。
I teach Tax Law at UTokyo.
09 April 2011
文書回答平成23・2・10(事業用預金のペイオフ損失)
預金保険機構の照会に対し,国税庁課税部長が回答したもの。個人事業主の所得計算に影響を及ぼす事業の遂行上生じた非付保預金(いわゆる事業用預金)と,その未払利息について,手続の段階に応じ,貸倒引当金と資産損失として必要経費算入を認めた。
これに対し,個人事業者の事業用預金以外の預金についてのペイオフ損失は,資産損失や雑損控除にあたらない。所得税法上の家事領域と事業領域の区別が,ここにもあらわれている。
これに対し,個人事業者の事業用預金以外の預金についてのペイオフ損失は,資産損失や雑損控除にあたらない。所得税法上の家事領域と事業領域の区別が,ここにもあらわれている。
I teach Tax Law at UTokyo.
08 April 2011
最判平成20・10・24民集63・9・2424(ミュンヘン再保険会社事件,都民税還付加算金の起算日)
事実経過としては・・・
1)日本国内にPEがあるとされ国税サイドで法人税の決定処分
→2)納税者が都民税について納付し申告
→3)日独租税条約の相互協議の結果PEありとされPEに帰属する所得について再計算
→4)国税サイドで法人税の減額更正
→5)東京都が都民税の減額更正
という流れ。
争点は,それに伴う還付加算金の起算日の基準が,2)なのか(納税者の主張,第1審判決),5)なのか(東京都の主張,控訴審判決)。どちらにするかで,5億円もちがってくる。
最高裁は,地方税法の規定を趣旨に照らして読み込み,納税者の主張を認めた。その後,平成22年度税制改正は判決を追認し,2)を起算日の基準とした(地方税法17条の4第1項1号)。
今後は,相互協議の申し立て時に地方法人税を納付しておく,という実務になるか。
1)日本国内にPEがあるとされ国税サイドで法人税の決定処分
→2)納税者が都民税について納付し申告
→3)日独租税条約の相互協議の結果PEありとされPEに帰属する所得について再計算
→4)国税サイドで法人税の減額更正
→5)東京都が都民税の減額更正
という流れ。
争点は,それに伴う還付加算金の起算日の基準が,2)なのか(納税者の主張,第1審判決),5)なのか(東京都の主張,控訴審判決)。どちらにするかで,5億円もちがってくる。
最高裁は,地方税法の規定を趣旨に照らして読み込み,納税者の主張を認めた。その後,平成22年度税制改正は判決を追認し,2)を起算日の基準とした(地方税法17条の4第1項1号)。
今後は,相互協議の申し立て時に地方法人税を納付しておく,という実務になるか。
I teach Tax Law at UTokyo.
02 April 2011
最判平成22・7・16判例時報2097号28頁(医療法人の出資の評価)
ある医療法人につき,基本財産が24億円あり,運用財産が17億円の債務超過のため,法人の財産全体でみた評価は7億円であった。この医療法人の定款により,出資社員(納税者)は,退社時の払戻しも解散時の財産分配も運用財産のみからなされることとされていた。この場合において,最高裁は,法人の財産全体を基礎として類似業種比準方式により評価することは合理性がある,と結論した。
最高裁の理由付けのポイントは,定款を変更することにより,医療法人の財産全体につき(つまり基本財産も含めたところで)払戻しなどを求め得る「潜在的可能性」を有する,というものである。つまり,たまたま運用財産にだけ出資にかかる権利を有するように定めてあるけれど,出資社員は,あとで定款を変更すれば法人財産の全体を丸取りできる,というロジックである。
本件判決は,持分の定めのある医療法人に限った判断と考えたい。だがこのロジックの射程は,潜在的可能性としては,種類株の評価にも及びかねない。平川雄士・ジュリスト1413号58頁が示唆するように,もうすこしきめこまかに展開する必要が高い。判旨のテクストからは,次の点が手がかりになろう。
なお,定款で持分を変更すること自体,出資社員間に権利関係の変動を生じさせることがある。そのような変動に伴う経済的価値の移転や含み損益の実現をどう考えるか。本件の争点からは離れるが,そういった問題もありそうだ。
- 基本財産 +24
- 運用財産 -17
- 全体財産 +7
最高裁の理由付けのポイントは,定款を変更することにより,医療法人の財産全体につき(つまり基本財産も含めたところで)払戻しなどを求め得る「潜在的可能性」を有する,というものである。つまり,たまたま運用財産にだけ出資にかかる権利を有するように定めてあるけれど,出資社員は,あとで定款を変更すれば法人財産の全体を丸取りできる,というロジックである。
本件判決は,持分の定めのある医療法人に限った判断と考えたい。だがこのロジックの射程は,潜在的可能性としては,種類株の評価にも及びかねない。平川雄士・ジュリスト1413号58頁が示唆するように,もうすこしきめこまかに展開する必要が高い。判旨のテクストからは,次の点が手がかりになろう。
- 最高裁は,評価通達の類似業種比準方式で評価することのできる「特別の事情」があれば,異なる評価をする余地を認めている。
- 医療法人については,定款の定めのいかんによって「当該法人の有する財産全体の評価に評価が生じない」と述べており,定款の定めのいかんによってはこの場合に該当しない。
なお,定款で持分を変更すること自体,出資社員間に権利関係の変動を生じさせることがある。そのような変動に伴う経済的価値の移転や含み損益の実現をどう考えるか。本件の争点からは離れるが,そういった問題もありそうだ。
I teach Tax Law at UTokyo.
01 April 2011
日本語の未来を載せたクルマ
「をちこち」へのリンク
2011.4. 1日本語の未来を載せたクルマ -新しい日本語能力試験(JLPT)
「うわああぁ、と、となりの動物園で、が、楽団がっ」(絶句)==>続きを読む
2011.4. 1
I teach Tax Law at UTokyo.
Subscribe to:
Posts (Atom)